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私は足を止めていた。
止めずにはいられなかった。
見知らぬ道で、よく見知った場所へと行きついたのだ。
頭の中で矛盾が生じ、くらくらとした。
樹々がぎゅうと密集した、深い森だった。繁った葉が光をさえぎり、暗い闇がわだかまっている。闇は濃密で、質量を伴うかのごとき錯覚がある。風すらこの森を避けていきそうだ。一度踏み入ったら出られない、帰らずの森。
闇の奥の方に、ぽつりと小さな社があるのだけが、なぜだかはっきり見える。
森の手前には、枯れ葉で埋まった溝が横たわっていた。かつては水も流れていたのだろうか。
木製の古びた橋がかかっていた。
そして橋の先に、あの子がいた。
微笑みかけられて、郷愁にも似た甘さが胸のうちに広がった。
そうだ、ずっと会いたかったのだ。なぜ、忘れていたのだろう?
風車の軽やかな音が耳に響く。彼女は今も、胸の前に風車を捧げ持っていた。赤い風車と紺の浴衣の取り合わせが目に鮮やかだった。
風が身体を冷やしていく。憑き物が落ちたような心地だった。全力で走ったことで、それまで抱えていたものすべて置き去ってきたかのような爽快さがあった。
──あえたね、
彼女が言った。私は微笑み返した。
私は慎重に、橋を渡る。自分の足で、さかいめを越える。
彼女はじっと、微笑んでいる。
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