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第4話「試験」
「次、れんなつ」
「はいっ!」「はい」
二人はスタート地点に立った。
「はい、はじめ」
和真の覇気のない小さな声とともに、カウントかスタートする。
まずは、シールドをはる。
夏希たちは特に、建物の影に隠れることなく、シールドにレーザー光線を受け続けていた。
密度の濃いシールドに、様々な角度から受けるどの光線も決して、貫通することはない。
敵の攻撃を受け、武器の種類や敵の数、士気、作戦を探る。
敵兵が息をついた瞬間、シールドが消えたと思うと、蓮が波動弾を連続で打っていた。
撃つ波動弾はすべて、敵兵に当たっていく。
こんなの戦場に比べたら、緊張感もなく簡単すぎて、夏希は涼しい顔をしてこなしていった。
「すっげ、打つのはえー」
「弾の大きさが距離に最適ですね」
「つか、あの二人、声も出さず、目も合わせず、なんであんな連携できるんだ?」
前方の敵を倒していると、蓮はふと後ろに気配を感じた。
「夏希」
夏希の腰に手を当てると、すぐに、シールドをはる。
夏希と蓮は背中を合わせ、今いる兵の数を確認する。
「こっち側も、敵兵いるのか」
「あ、消えた」
敵兵の動きはだんだんと早くなっているように感じる。
「敵数21」
「どうする?」
「あっちのほう、どーんとやっちゃえば」
夏希が大きな波動弾を溜めると蓮がぶっ飛ばした。
20名の敵兵と、周りの障害物までどかんと粉砕する。
その直後、夏希と蓮の背後から敵の姿が現れる。
夏希は人差し指を向けると、細いレーザーのような長い波動弾で敵を打った。
『殲滅です』というコンピューター音声が鳴った。
「うぇーい」
蓮は夏希と腰ほどの低い位置でハイタッチする。
湊は嬉しそうに手をぱちぱちと叩き、拍手を送った。
「すごいじゃん。夏希、蓮」
夏希は遠くの湊に照れたような表情で笑って返す。
見ていた同僚たちから「すげー」「夏希も打てるのか」と声をかけられながら、場所を空けた。
「はい、次、大我(たいが)、一人でいいか?」
「いいっすよ」
軽めな言い方なのに、妙に怖さを感じるような声とともに、一人の青年が出て来た。
背が高く、髪はミディアムほどの長さで、黒髪の中に金髪が混じっている。
整った顔立ちの青年だった。
同僚たちが少しざわつく。
「あれが十三番隊の大我(たいが)か」
蓮が大我を見ながら言った。
「夏希と同い年だってよ」
「え?ホントに?なんで、同い年なのに、あんな背高いの」
試験が始まった。
大我は右手から緑色の光、左手から黄色の光が溢れ出て、その二つが集まると、かなり発光した黄緑色になった。
それを目の前の的に放った。
綺麗に倒れていく。
「おぉぉ!」
「すげー、ちゃんと威力ある」
「なんで二つ同時に出せるんだろ」
夏希もじーっと、その大我を見つめる。
人のエネルギーから作りだされる波動は、全身をまとうように見える夏希だったが、大我の波動は手の平の上にしか見えない。
器用なのか、特殊な波動なのか。
大我は一人にもかかわらず、どんどんと敵に波動弾を当てていく。
大我の表情は薄ら笑っていて、余裕さえ感じる。
夏希は自分の手のひらを眺める。
一人で二つの波動を同時に出す。
2域の波動を出すことができる夏希は、何度かやってみたことはある。
でも、やはり、同時に出たことはなかった。
まず、右手から黄色の波動。
左手から、青色の波動をイメージするが、一向に出る気配はない。
弁を閉められているような、そんな感覚。
そのうち、隣の蓮の波動を勝手に拾い、オレンジ色の波動が左の手のひらの上で、ぐるんぐるんと揺れていた。
自分の波動を拾ったことに気づいた蓮が、視線を送る。
「ん?」
「なんでもない」
夏希はすっと波動を出すのをやめた。
『終了です』というコンピューターの音声が鳴った。
映し出された画面には、命中18。残り敵数3人。
「おぉぉ」という同僚たちの歓声と、拍手まで鳴り響く。
「あー、あとちょっとだったなー」
そこまで悔しそうに見えない振る舞いで大我が下がる。
あともう少し時間があるか、本気を出せば、殲滅できていただろう。
湊が声をかける。
「大我すごいじゃん。大して疲れてもないね。必要最低限の波動のコントロールで済んでる」
「湊さんよりは、劣るけど」
大我が笑って返す。
大我が湊や和真と、親しいのは知らなかった。
湊はめんどうみがよくて、大我はチャラいだけかもしれないが。
蓮がほんの少し、悔しそうな表情を浮かべた。
「すげーなー。一人でできたら、最強じゃん」
「まぁ、でも、敵へ警戒は一人だと限界あるよ」
防衛兵の多くは、二人一組のバディを組んでいるものが多いが、なかにはフリーといって、任務ごとに波動の合う人と組んものもいた。
フリーの隊員はその場にいる他の隊員の波動を借りて、活動することが多いが、大我はすべて一人でできてしまうため、その必要はないようだった。
次に行われたのは解毒の試験だった。
解毒訓練室に移動する。
最近開発された解毒の練習用の人形。
3パターン程度の毒しか練習できないが、なかなか生身の人間で解毒の練習をするわけにもいかないため、重宝されている。
目の前に3体の人形が並べられているが、どの人形がどんな毒を何を受毒しているかはわからない。
波動を当て、分析し、いかに早く解毒できるかという試験だった。
「はじめ」
湊の声とともに、兵士たちは一斉に解毒にかかる。
たいていの者は内部の毒に波動をあて、系統と型の分析をする。
次に、その毒の解毒法を手首にはめている端末からウィンドウを開き、解毒法を検索する。
以前にその解毒した方法が記録されている解毒書がいくつもでるので、その中から、毒の付着具合から、適正なものを選び出す。
しかし、解毒書通りに波動を操れるかは、別で、そもそも、見当つけていた毒なのか、検索をするのにも大変であるため、経験を積まないければ、解毒は難しかった。
夏希は慣れているため、検索することもなく、何系統の毒が分析したところで、そのまま解毒していった。
そして、あっという間に終わると、湊に目線で終わったと告げ、机に突っ伏してそのまま寝てしまった。
夏希の横で、蓮が額に汗を浮かばせながら、波動を当てていたが、まるで手ごたえがなさそうだった。
その後ろで大我も同じように終わったと告げる。
離れたところでは、真白も手を上げていた。
「むりだぁああああ!」
「静かにっ!」
隣で幸斗の叫び声が上がる。
真白が慌てて、口を手で塞いだ。
解毒は、普段から波動を調合する装填者のが、得意とした分野だった。
解毒の試験が終わり、今日のすべての予定が終わった。
解散となり、自分が一番隊か二番隊、どちらに所属するかは、改めて、連絡するとのことだった。
蓮はぐったりと疲れた表情を浮かべ、夏希と並んで、食堂へと向かっていた。
「あー、疲れた。やっぱ、解毒は夏希が一番だったな」
「蓮が散々毒くらってきたからね」
「いつもありがとうございます。俺、一つも解毒できなかったわ」
「まぁ、俺らは解毒の練習に時間費やすこと多いから。でも、あんな人形でいくら早く解毒できたとしても、意味ないよ。生身の人間とは全然違う」
基地内の食堂は7:00から21:00まで営業しており、戦闘やトレーニングでお腹を空かせた兵士たちは、いつ来ても食べることができた。
今日は選抜試験に集まった兵士たちにサービスで、クリームチーズと生ハムとアボカドの小鉢、ガトーショコラがついてくるらしく、普段、家で夕食をとる夏希と蓮だったが、食堂で食べていくことにした。
食べ終わり、蓮が売店に行ってくるというので、夏希は座ったままガトーショコラをだらだら食べていた。
先程まで賑わっていた食堂は、人気かまばらになっていた。
夏希は腕につけた端末を操作する。
これは軍から支給されているもので、この国の最先端技術を使い、目の前の空中に大画面でモニターを映すことができる。
解毒書を検索する他に、軍からの連絡や、地図、他の地域の戦闘状況、あらゆる情報を調べることができた。
その他、軍のや隊員、同僚のプロフィールを検索することができる。
ホーム画面を見ると、兵士としてのメールアドレスに、メールが大量に来ていた。
戦況結果や基地の食堂の献立などメールよりも、顔も知らない同僚からのメールが多かった。
差出人名と件名が表示されている。
『今度、波動合わせしよ』
『とりあえず、ご飯行かない?』
『こないだ見かけて、めっちゃ可愛いなと思いました!波動も絶対合うと思います!年上だから、優しくいろいろ教えてあげるよ。返信して……』
夏希はいらないメールを削除する。
こないだ、蓮のメール画面がチラっと視界に入ったとき、同じようなお誘いメールみたいものが大量に見えて、キモいと思ったことを思い出した。
今度は自分のプライベート用のスマホを見た。
たった今、朔から『生きてるよー』とメールが届き、ほっと胸をなでおろす。
テーブルに置いておいた。軍から支給された栄養ドリンクの瓶に手を伸ばす。
「う……」
右手首が少し、ピリッと痛んだ。
1か月前の戦闘で負傷し、まだ治りきっていないようだった。
飲んじゃって瓶をここのゴミ箱に捨てていきたかったけど、まぁいいか。
夏希が諦めて、瓶を机に置こうとしたとき、真後ろからふっと腕が伸び、瓶を持っていった。
パキっと蓋を開けると、手渡される。
「はい。どーぞ」
にこにこと笑顔を浮かべた大我だった。
大我はそのまま、夏希の向かいの席に座った。
「……どうも」
夏希はドリンクを飲む。
「ほれた?」
「……別に。ちょっと待ったら、蓮くるし、開けてもらえたんだけど」
「冷たいなぁ。なー、明日のトレーニング、俺とやらない?」
「やらない」
「即答ー。俺ら相性いいと思うんだけどね」
兵士の出せる波動の領域を記載したプロフィールは、兵士全員閲覧可能だ。
そこには名前、組んでいるバディ相手、年齢、出身地、経歴や実績、等級なども記載されている。
夏希はさっき、大我の波動領域の数値だけは確認していた。
「理論上はそうかもしれないね。でも、蓮に不満はないし、必要ないでしょ」
「俺の波動の方が、もっと使い勝手いいと思うよ」
「……俺と蓮の連携を見たのに、誘ってくるやつは珍しいよ。ふつーはあんなうまいことできてるバディに敵わないって思うから」
夏希はかなり冷たく返しているつもりだが、大我は相変わらず、ヘラヘラしている。
関係ないって感じが、妙に威圧的にも感じる。
「夏希って俺と同じ十三等級だよね?今まで、すごい戦果あげてきたんだ?」
「…………」
「ね、夏希は戦闘好き?そんなに、強かったら、楽しいでしょ?」
「好きなわけないじゃん。いつでもやめたいよ。敵を殺すのは、もう、慣れたから、どうでもいいけど。駐屯地のベッドが硬いのは嫌だし、荷物になるお菓子は持ってけないのは嫌だし。……仲間が目の前で死ぬのは、大きらい」
「へー、俺は味方が死ぬのも慣れたけどね。卜部荒野(うらべこうや)の戦闘じゃ、人が木が倒れていくみたいにどんどん転がってったな」
卜部荒野町(うらべこうやまち)の戦闘はここ一年で最も激しい戦闘のあった場所だ。
約150人の兵士が戦闘に赴き、帰ってこれたのは3人。
大我はその中の1人だ。
その大敗により、常に戦闘が繰り広げられている三類地域の扱いから、敵国に占領された二類地域に扱いがかわった。
大我はその戦闘をきっかけに、十五等級から一気に十三等級に上がった。
同情したい事柄だったが、ヘラヘラと話す大我に、夏希があからさまに嫌な表情を浮かべる。
だが、大我の話は止まらない。
「そんな嫌なのに兵士続けてんの?なんで?」
「…………」
「今日、俺のこと見てたじゃん」
「うん。一人の人間が同時に二種類の波動を出せるの珍しいから。100人に1人くらいじゃない?その中でも、操っている人は大我だけだと思う」
無視したいのに、こうやってたまに言いたくなる話題にかえてくるのは、なんでだろう。
一つ、大我に聞きたいことがあるが、そこまで親しい仲でもないし、やめた。
「夏希だって、珍しいよ。あんなに広範囲の波動出せるの」
「…………」
「俺のこと気になるでしょ?」
「波動だけね」
「俺は夏希自身に興味ある。ね、好きな食べ物は?」
「…………」
夏希は大我に目線を合わせず、蓮が来るなら、通るであろう方角をぼーっと見た。
来ない。
バディ相手には、動作一つで連絡取ることができるが、そんなことするほどでもないし。
ふっと揺れる夏希の髪の隙間から、ピアスのオレンジ色の光が見えたのを大我が気づいた。
「そのピアス、プリアライト?」
「ちがうよ。ニセモノ。プリアライトの近くに散らばってる、不純物が多くて、そんなキラキラしないプリアダーニー。プリアライトの1000分の1の値段。この色で十分綺麗だから」
「夏希によく似合ってるよ」
「…………」
「夏希、一人で同時に二つ波動出すの、練習中でしょ?教えてあげよっか?」
大我が夏希に向かって手の平を向けてくる。
緑色の光が夏希に体に吸い込まれるようにいくが、直前で夏希の波動に阻まれ、下へとおちていく。
「バディ相手がいない場所で、波動合わせしようとするのは、マナー違反じゃない?」
「そだね」
「…………」
夏希は小さくため息を吐くと、スマホいじりだし、大我を見ようともしない。
「今度、ご飯行こっか?」
「……………」
「なんだよもー。ずいぶんと綺麗な顔してるくせに、あの男しか相手にしないとか、人生損してるよ。俺だったら、もっと気持ちいい思い、味合わせてあげるよ」
「…………」
「無視?」
大我の声にちょっとイラつきを感じた。
夏希は視線をスマホに向けたまま、肌で感じる。
波動が少しだけ、かわった。
「ッチ、高飛車なやつ」
上から、蓮の声が降ってきた。
「うちのお姫様のしゃべり相手になってくれてどーも。でも、生憎、うちのは、俺くらいにしか懐かないんだよね」
蓮の手には売店で買った四つ切食パンの袋が握られていた。
「へー。ずいぶんと飼い慣らしてんだな」
年上の蓮に対して、タメ語で挑発的な目つき。
兵士内での上下関係は年齢だけでなく、隊歴や等級も関わってくるため、蓮より先輩で、等級も同じ大我が、指摘はされることではない。
「……飼ってねーから」
ちょっと威圧するような目で蓮が見る。
だけど口元は笑っている。
「つか、同じ一番隊になったんだから、よろしくな」
「え?そうなの?」
夏希がきょとんとした顔で蓮を見た。
「さっきメール来てたぞ」
「見てなかった」
蓮が改めて、大我を見た。
それほど敵意は感じない表情。
「お前、すげー実力あるし、一緒に戦えるの楽しみだ」
「こちらこそ」
「んじゃな。行くぞ、夏希」
蓮は片手で、お盆を持ち、夏希の腰に手を回し、その場を後にした。
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