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最終話:もしも続きが許されるなら
やはり、本心は告げられなかった。この際、最期まで隠してしまおうと思う。
食事中、有りっ丈の思いを伝えた。必死に育ててくれたことへの感謝も、母を愛しているのも本当だ。その愛情があったからこそ、本心を隠してしまったのかもしれないが。
何度も気に掛けた時計は、十七時を跨ごうとしていた。宣告から、丸一日が経ってしまったのだ。
正直、自室で一人の最期を迎えたい。医師の話から、死に苦痛が伴うのは分かっていたからだ。それが短時間だとしても、歪んだ顔を見せたくはない。
「……お母さん、私」
恐怖で眩みそうになりながら、ゆっくり椅子から立った。母も僅かに遅れて立ち、近付いて来る。それから私を抱き締めた。
「ずっと傍にいるから怖くないよ。大丈夫だよ、大丈夫」
優しく触れた手の平が、上下に動き背を摩る。恐怖を解き解すように、優しく。優しく。
「…………う、ん……」
堪えていた涙が、一瞬で滝になる。溜め込んだ分を放出するように、止めどなく溢れ続けた。
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