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宰さんはそう言うと、深く息を吐いた。
「結局、D子は三日間友人の部屋に泊まり続け、自分の部屋に戻りませんでした。そのあと、不可解な現象は起きていません」
そして、彼は私の顔を見て苦笑する。
「不満そうな顔をしていますね」
「いえ、別に――。ただ、怖い話をするからてっきり」
「まぁ、うん。そうですよね。これは誰かが怪我を負ったり、死んだりする話ではないんです。話としては怖く無いし、つまらないと思います。でも、怖いの本質はそこじゃない。「簡単に出来る」それが問題なんです」
宰さんは、静かに、私とは一切目を合わせずに言う。
(あれ?)
と、私は彼に違和感を覚える。
彼はこんな雰囲気を持っていただろうか。いつもは明るくそして気配りの出来る方だ。けれど、今はどこか淋しげにそして私に突き放すように語っている。
「宰さん、あの……」
「こっくりさんしかり、ひとりかくれんぼ然り、交霊術は誰でも簡単に出来てしまう。
怖いと思っていても、この後風呂や入眠が億劫になると分かっていながらも今このように怖い話を聞くように、人間というのは好奇心に駆られ、その誘惑に勝てませんから。
怖いと分かりながらも、それら交霊術を実践し、実践するのが怖ければその実況を聞いてしまう、見てしまう。一回だけなら大丈夫、一日二日なら問題ない。それくらい気軽。しかも、心霊なんて大抵は困らないと思うでしょう。まさか自分が憑かれる、祟られるなんて思っていないから」
「宰さん?」
私が名前を呼ぶと、宰さんは一瞬目を見開いた。そして、いつものように困ったように笑う。
「は、はは。すみません。驚きました? でも、先生もそうですねよ? 俺に何度もネタを提供しろと言うんですから」
「イジワルですね」
私が言うと、彼は小さく笑う。
「そうかもしれません。でも、本当に簡単でしょう? 数十万、数百万とかからずに儀式はできる。ただ必要なのは実行する興味と少しの時間と勇気だけです。少しは怖くなりましたか?」
「えぇ、まあ……。あの、それで宰さんの友人達はどうなったんですか?」
宰さんが家事を再開しようとしたので、私はつい引き留めてしまう。宰さんは一瞬キョトンとしそして気まずそうに頭を掻いた。
「Aとは連絡を取ってますけど、アイツよく体調を崩すので連絡するのは控えてるんです。あー。実は、先生のお手伝いをする筈だったヤツなんです。季節頭痛だったかな。気圧が高くても、低くてもダメなんですって」
「じゃあ、BさんとCさんは?」
「あれから一回も会ってないし、連絡先も交換してません。お分かりの通り。俺、その場限りの友人を作るのは得意ですけど、その状態を維持するのは得意じゃないんです」
「宰さんは怖くないんですか?」
「えーっと、まあ。そうですね、怖くないです。じゃあ、俺は夕飯の準備と明日の朝の作り置きをしますので先生は原稿頑張ってください」
宰さんは今度こそ話を終えると、家事に戻った。
気分転換も出来たことだし、私は再びパソコンの前に座る。
悲しきかな、液晶画面には一面真っ白で文字が一つも無い。
「メール――……」
ネットの海に身を投じようとした時、ふと新着メールが届いた。ダイレクトメールだとしても暇潰しにはちょうど良い。けれど、そのメールは――……・
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