執筆:呼び声

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ⅱ     女の一人暮らしということで、アパートは比較的新しかったです。  防犯面もしっかりしていて、男四人、女一人の連中に警備員は少し不審な表情をしていました。 「ゴキブリ退治に来たんです。静かにしますんで、許してください」  なんて言ったんですが、ダメでしたね。  俺でも分かるくらいBやD子の顔が強張っていたんですもん。でも、その警備員は近年稀に見る程度の不真面目だったので「五月蠅くしないでくださいよ」とだけ言って新聞を広げました。  D子とCはアパートの前で残ることになりました。俺とAとBは彼女の家に入ったんです。  部屋の様子は……、言わないでおきましょう。流石にプライバシーですし、人の整理整頓やインテリアの在り方はそれぞれです。  D子の言う通り、玄関に入ってすぐ違和感を持ちました。彼女の靴が一足残らず裏返しになっています。  裏拍手って、ご存知ですか? 死者がする拍手です。死者は生者と反対のことをする、という話がありまして、彼女はきっとすぐに、これを思い出したのでしょうね。  Bは靴を元に戻して、コンビニで買ってきた塩を振りかけました。  塩を盛るというのは色々起源がありますが、今は「祓うモノ」と認知されているのでそうしたんです。言霊を信じているって言えば良いでしょうか。  他にポルターガイスト的な異変はありませんでした。  問題の一角は、すぐに見つかりました。  ベッドのすぐ上です。起き上がって振り返れば神棚がある。そういった配置です。  実際には、洋服ダンスの上に小さな賽銭箱と小さな木製の家がありました。なかなか大きめのぬいぐるみにその区画の壁には、同じ顔をしたキャラクターの缶バッチとポスターが広がっています。  賽銭箱の前にはアクリルスタンドが並び、そしてお茶と菓子パンが置かれていました。きっとこれがコラボ商品なのでしょう。  一見秩序立ったように見えるけれど、実際は無秩序に展開された神棚。  俺だったらそう言います。  それがあまりにも盛大で、圧倒的で、俺たちはそれこそ言葉を失いました。みなが黙りこくって、ただただそこを……。まるで呪術の一部のようなソレを解体したんです。  賽銭箱と社を撤去しただけなんですけど。でも、このまま放置するよりは断然良いと思いまして……。
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