百物語:目の裏

2/3
前へ
/23ページ
次へ
   1  例えばの話。  カメラのレンズやコピー機のガラス部分に傷が入ると映り込んじゃうでしょう? その傷がなんだか物や光の屈折に見えるってあるじゃないですか。それが人間の瞳にも起きていたらその傷は常に視界に入ってるって事になりますよね。  T君って人がいたんです。  T君は社交的で知らない人にも声をかけられるヤツです。陽キャですね。彼は好奇心旺盛で、怖いことがあれば実践してみたいという面倒臭い性格をしていました。そしてそれを話の種に披露することが好きだったんです。 「幽霊はいないんだ」  T君ははっきりと言いました。それは都合の良い存在なんだ、と。夜、襖から、カーテンから覗く顔も鏡に映る自分では無い顔もそこにはいないと言うんです。  当然ながらソコ にいないならドコにいるんだ。っていう話になるんですよね。 「目の内にいるんだよ」  T君の主張はそれでした。 「飛蚊症みたいに目の内にいる。幽霊を見れない人間がいるのは、都合良く脳の中で処理をするからで、画像加工ソフトみたいに消すからなんだ。現実補正フィルター」  あまりにも自信を持って言うので、それを聞いた友人はついイジワルを言いたくなりました。 「証拠は? 目の内にいるんだろう? 誰もが見えるんじゃ無いのか?」  はい。あまりにも意地悪な質問だと思います。そんなはっきりと疑問をぶつける。攻撃的にさえ思える物言いをするんですから誰だってむっとするかもしれません。けれど、T君は少しも厭な顔をせず、むしろ待っていました。とばかりに応えたんです。 「今はまだ。カーテンや扉を少し開けて、寝る前に電気を消した後、その隙間を見続ければ良い。今日は無理でも一ヶ月でもすれば見えてくる。俺はそうした」  T君の目は一つも笑っていません、それどころかその白い目は黄色く濁っているようにも思えました。  その表情と瞳に友人は気圧されそれ以上尋ねることは出来ませんでした。 それ以降、友人は積極的にT君と絡もうとはしませんでした。友人だけではありません、その周囲もT君の変わってしまった雰囲気に近寄ることも出来なくなっていたんです。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加