執筆:呼び声

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 ⅰ  これは、合コンの時に出た怖い話なんですけどね。  いや、正確に言うと合コン中ではないんです。二次会ですね。女の子たちはさっさと帰っちゃったから「男らだけで暇を潰そうぜ」ってなったんです。  そこに居たのは四人。俺と……仮にABCにしましょう。勿論、頭文字とかじゃ無いですよ。念のためです。俺とAは受ける授業こそ違うけど同じ学年でした。BとCは違う大学でしたが、それでもノリ……雰囲気は同じ感じですっかり打ち解けたんです。  近くのコンビニで酒とツマミを買って近所の公園のブランコで酒を飲みつつ、話をしていたんです。  最初は些細な話です。世間話、他に可愛い子がいるとか、あのお店は良い、とか。ゲームの話とか……。その時、丁度夜だったので、しだいにオカルトの話になっていったのは、仕方が無い事だったんです。  BもCもオカルトマニアで、ホラースポットによく行くそうなんです。特にCは好奇心旺盛で何かと怖いことを実践したがるそうなんです。その中で、さらにBが興味深いことを言ったんです。 「俺の女友達に面白い奴が居るんだ。推しが好きすぎて神社を作ったらしい」  それを聞いて、みんなが笑いました。  神社と言っても建物とかじゃないですよ? 学生ですもん。  彼女……そうですね、ここではD子としましょうか。  彼女がやったのは、部屋の一方向に賽銭箱の形をした貯金箱と社に見立てたオモチャの家を設置したんですって。  推しのぬいぐるみを側に置いて、次のイベントに参加出来るようお賽銭をしながら、その尊さについ拝んでしまう……。っていう話。  その場にいた男たちは、笑いましたよ。 「それ腐女子なんじゃね?」 「流石に引くわ」  本人が居ないのを良いことに好き勝手に言っていたんです。俺も「好きだからって、そこまではちょっとやらないよなあ」って、思ってました。  最近では、推しとコラボしたお菓子を置いてるって言い出したので流石に言っちゃったんです。 「そこまでしたらダメって伝えた方が良いよ」って。  信じてる、信じてないとかそう言ったのじゃないんですけど、彼女がやっているのは偶像崇拝になってしまうと思ったんです。  崇拝や宗教を良く思っていない、というわけでは無いんです。でも、彼女は誰もいない場所に拝み、食べ物を与えています。それこそ「尊い」って言って敬って。キャラクターへの愛情が問題じゃない、その行動が良くないんです。  本人はキャラクターに向けて拝んでいるかもしれない、食べ物を与えているかもしれませんが、他者から見たら違います。  話は少し変わりますが、怖い話って人形に関係する話が多いとは思いませんか? 暗闇でふと人形を見てしまうのが怖い、人毛を使ったせいで髪が伸びる……そういうのが、有名かもしれません。ですが、その中には、人の形をした物を娘や息子のように扱えばそれを羨んだ幽霊が憑依してしまう。というのもあります。  人形は身近で、形があって、入れる器がある。そして何より人間に近い。  俺が言いたいのは、ぬいぐるみは人の形をしていて毎日拝み食べ物を与えてしまえば、新しい何かがうまれるのではないか。という不安を持ったということなんです。  酒が入っていたので冗談めかして言ったんですけど、内心本当にハラハラしていました。はい、民俗学を齧っている身ですので、そういった事には少し力が入ってしまうんです。たとえ余計なことだったとしても。  俺の表情が余程真剣だったんでしょうね。あろうことかCはその場でD子に電話したんです。  夜の二十三時。迷惑だと止めようとしたけれど相手はすんなり出てきてくれました。 「お前のやってるヤツ交霊術なんだってよ!」  そう言った瞬間、電話越しから悲鳴が上がりました。  一気に体が冷えていく感覚に陥ったのは、きっと俺だけじゃありません。みなが驚いて彼のスマホを凝視しました。 「コンビニに行こうとしたら、私の靴が全部裏返ってるの」  スマホ越しから聞こえた声は、すでにパニックに陥っていました。 「通話したまま急いで家から出ろ! コンビニまで迎えに行くから!」  きっとその勢いにアルコールの入った俺たちも雰囲気にのまれてしまったんでしょうね。Bがそう怒鳴っている間、Aがタクシーを呼びました。  四人がみんなタクシーに乗り込みと、D子の家近くのコンビニに向かいました。  D子は上下部屋着でスリッパを履いていました。風呂上がりだったのか髪もまだ濡れていました。 「一回、家に行くか」  Cはそう言うと、女子は「嫌だ」と泣きました。  その気持ちも十分に分かります。怖くて泣き出して、それでも命辛々逃げ出したというのに、また怖い場所に帰らなくちゃいけない。しかも、彼女はその部屋の主人です。 「泊められる友達に連絡しとけよ。お前はアパートの前に立ってればいいんだよ。中に入るのは俺たちだけにする。財布と鍵だけ持ってくるから」  そう慰めて続けてようやく彼女は自分の家に行く決断をしました。
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