クロのクリスマス

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 電話越しに小さくため息をつく音が聞こえた。 『アルバイトでアウトレットモールに来たんですけど、死体を見つけてしまって、警察に連絡して待機してるところです』  落ち着いた声からは想像できない内容に、狸穴もため息を付きたくなった。  取り乱さず冷静に対応しているようだが、夜月はまだ高校生だ。 「事情はわかった。どうせ保護者を呼べと言われるだろうから今から行くよ」 『……すみません』  夜月には両親がいない。  母親は病気で他界し、父親は海外出張中だ。  頼れる親戚もなく、両親の同級生である狸穴が面倒を見ている形になる。 「俺が行くまで勝手に動くなよ。警察が来たら、保護者を呼んでるって言っておけ」 『わかりました』  夜月の返事を確認し、狸穴は通話を終了した。 「勝ちゃん、急ぎの仕事かい? ツケでいいから行ってきな」 「おう、マスター。帰りにヨルと顔を出すわ。お代はその時に払うよ」  店主が片手を上げて送り出してくれる。  狸穴は帰りに寄ると約束し、喫茶店を出た。 ▼△▼  夜月はアウトレットモール内に設置された巨大クリスマスツリーの前にいた。  ツリーの下でケーキを販売するアルバイトは、見ていた情報紙の中でも一際(ひときわ)時給が良かったから選んだだけだ。  ケーキの入った冷蔵機能付きのワゴンにもたれながら、夜月は警察と狸穴の到着を待つ。  背後にある色とりどりのオーナメントで豪勢に飾られたツリーには、女が吊るされていた。  一見マネキンのようにも見えるが、それにしてはリアルすぎる。  肌からは血の気が消えて青白く、着ているニットですは血塗れだった。
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