第三章 異性の扉

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コンドームは李仁が出入りしていた頃使っていたからその残りがソファーの横の引き出しに入っていた。 「ねぇ、來くん聞いていい?」 「なに?」 理性が抑えきれなかった來、そしてリカはソファーの上で抱き寄せ合う。身体も密着し合い、時よりキスをする。 「……也夜ってネコだった?」 「なっ、そんな……ことさぁ」 「だってどう考えてもそうだよね」 「……そんなことは教えられないよ」 來は口を濁すとリカが彼の上に乗っかる形になった。 「そんなことしても教えないよ、こういう性的なことはプライバシーに関わる。也夜は今は物言わぬ体だ。だから僕の口から他人のそういうことは言ってはいけないと思うよ」 「ふぅん」 とリカはクタンと來の身体に倒れる。 「一つ言えることは……」 「ん?」 「ぼくは……どちらでもいける」 「也夜がどっちかわからないじゃない」 「はははっ」 と來が笑うとリカは頬を膨らませた。こんなお茶目な所はアイドルのリカでは見られない、そしてこの裸体とセクシャルな部分も、と來は何かと優越感に浸る。 「也夜と本当にお似合いだったろうね……」 「そうだったのかな」 「前も言ったじゃない。こんなに激しく愛してくれる人がそばにいて也夜は幸せだったと思う」 そうなのか? と來は考えるが頭を横に振ってリカにまたキスをした。こうやって異性と恋をしたり身体の関係になれば也夜とのことは忘れるだろう。異性とセックスするのは初めてだった。 最初はネコだった來だったが本来ネコである李仁に両方教え込まれた。 だからリカにも 「両方いける」 といえたわけでもあるが異性とは初めてで不思議な感覚であった。やはり肌の感触や肉付きや匂いも同性とはちがう。 來は初めてのその感覚、そして自分より少し若いリカにうちなる本能でやみつきになり彼女を激しく抱いた。 也夜も自分を激しく愛し抱いてくれた時のように。 リカはきっと也夜がネコで來がタチだと思ったのだろう。リカは也夜と同じ立場で激しく愛されて異常なまでに興奮していた。 初めてだったのは本当だった。痛みはあったがキスだけでものすごく興奮しいつのまにか痛みは快楽で飛んでいった。 その晩は何度も何度も求め合った二人。 互いにそれぞれの初めての、今まで味わったことのない快楽に溺れ一線を越えてしまった。 その後はリカが試験を終えてからは店に行くことは無くなったが、途中で落ち合って來の部屋にリカが泊まり愛を重ねていく。 土日の清流ガールズNeoの仕事は変わりなく二人は会う。 袖から舞台を見るが來は気づけばリカばかり見ていた。 ライブもし、レッスンも受け、美容学校に通い、美容室でバイトもし、そして來と愛し合い……そんな顔一つも見せない、ステージに立つのはアイドルのリカである。 「なぁ、來」 不意に新榮から声をかけられ來はびっくりする。 「っはい?」 「なんかさぁ、リカちゃん……男できたんじゃない?」 「えっ」 男、それは自分のことか……と少し焦る。 「他のスタッフがさ、そう言ってたんだけどね。なんか体つきとか動きとか……なんか妙に前よりも女、って感じがしてさ」 ステージ上のリカを見る。動きは変わらないように見えるのだが、來の上に乗り本能のままに動いたり、來を求めている腰つき、脚の絡ませ方を思い出す。 マイクを持つ仕草も來にとっては……。 「來、そう見えるだろ」 「え、そっ……そう見えます?」 「わかりやすいよなぁ。まぁツートップのあの2人もそうだけどもよ……男ができて性に溺れたアイドル。そんなこと知らずに金をじゃんじゃん貢ぐオタクども。今のうちにどんどん稼いでもらわないとな」 彼女たちが裏でそんなゲスい事を言われてることも知らず歌って踊って笑っている、何とも皮肉な事だが。 來は返答に困って苦笑いすると 「あと一年でこの仕事終わるし俺らも気を引き締めようや」 「えっ……終わる?」 「知らなかった?」 リカからは何となく聞いてはいて知らなかったわけでもないが一年、と聞くと現実味が帯びる。 「数日前に社長に呼び出されて……まだこれはないみつに、だが5人全員アイドル引退。ツートップ二人は結婚、実はルリちゃんは今妊娠中だから早めの卒業……」 「妊娠っ……」 と、ツートップの一人のルリを見た。そんな感じない……と來は驚く。 「研究生は持ち上がらず一旦、清流ガールズNeoで打ち切ってから新しくガールズグループ作るらしいけどスタッフ総入れ替えらしいからなぁ」 「……じゃあ僕ら一年後に首切られる」 「多分近々社長から正式な話があるよ。何人かのスタッフが清流ガールズ食っちゃったから」 その新榮の言葉に來は冷や汗が出る。 「リカちゃんは美容師免許取るって聞いたけどー來くん、お店で雇ってあげたら? スタッフ探してるでしょ」 「……そうなんですね。また聞いてみます」 來はもうステージは見ることはできなかった。 すると新榮が來に耳打ちした。 「聞かなくてもいいんじゃないの?」 そしてその場を去って行った。來は声が出なかった。 数日後わかったのは新榮も研究生の数人と身体の関係を持っていたこと。妻帯者であることも関わらず。 新榮は一年を待たずとしてこの仕事から外れて行方知らずになっていた。
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