第四章 出会った頃

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第四章 出会った頃

「古滝リカです。よろしくお願いします!」 大輝やスタッフたちの前で深々と頭を下げるリカ。 前のバイト先の美容院を辞め、大輝の美容院で働くことになった。 もちろん來もまだいる。大輝は以前清流ガールズNeoの現場にいたからリカとはもちろん顔馴染みではあったが久しぶりに見た彼女がまさか美容師を目指しているということには驚いたようだ。 「学生時代から僕のもとで働くってのは來と同じだね。頑張って」 そう大輝が言う。 「はい。來くんのお店ができる頃には免許も取って一緒に働けたらなぁって思ってます」 「その頃にはもうアイドルはやめちゃうのかな」 「……んー、美容師アイドルってなかなかいないし。最近アイドルも楽しいから……」 まだ卒業、解散のことは公には言えないリカは口を濁していたがツートップの二人が結婚、片方が妊娠という噂が流れ新榮ら何人かのスタッフが未成年のメンバーと関係を持ったことが少し影を落とす中、リカは少し人気が上がり、体調を崩した(これまた妊娠は公にされていない)ルリの代わりに出た東海ローカルの番組でのロケで人気芸人とのコラボともあって、彼女の辛口なトークも受け評判が良かったらしい。 「少しアイドルの仕事増えちゃって……学校もちょっと最近休みがちだけど頑張ります」 「そうだね。リカチャンが抜けても大丈夫のようにシフトは組んであるから。美容師試験も大事だけどアイドルの方も頑張って」 「はい。みなさんもご迷惑かけるかと思いますがよろしくお願いします!」 とリカは頭を下げた。そして女性スタッフから店内の設備案内を受けるためこの場を離れると來は大輝にスタッフルームに呼ばれた。 「なんか以前会った時よりもリカちゃん雰囲気変わったよね」 まさかまたバレているのか、と來はドキッとする。昨晩も仕事帰りが夜遅くになり、リカは來の部屋に泊まって朝にセックスをした。 あの時以来、外でデートはしたことはないしリカが來の部屋に行くのも夜遅くであり、帰る時も翌朝一人で帰って行く。 正直付き合ってるか付き合ってないかグレーな所だが來にとっては也夜を忘れるため、性処理をする分にはちょうどいい相手、世間で言うセフレが出来た、という感じである。 「オフの時も辛口気味だったけどあれは自分の気持ちに蓋をして隙を見せないようにするためだったのかもね。なんか物腰柔らかくなってる……きっとあれが素顔なんだろうな」 「でしょうね。最初の頃はツンツンしまくりだったから本当困ったもんで」 と、來は大輝の視線を感じた。 「まさかだけどさ、リカちゃんと噂になってるスタッフってお前のことか」 やばい、と來は目線を逸らそうとしたがここで逸らすと認めたことになると思い大輝を見る。 だがどうしても動揺してやはり最後には目が大きく動いて逸らしてしまった。大輝もやっぱり、という顔をしている。 「……どうした、來。お前女もいけるのか? バリネコのお前が」 「一応僕はどっちもいける、あ、その同性の時のことですけど。大輝さんの時は……ネコでしたけどね」 「女は無理かと思ってた。友達、あとカヨさんとか異性のスタッフともある程度距離あったのに……どうして」 どうして、と言われてもと來は答えられなかった。 「ただでさえ仕事も一年後に契約終了……まだ來とリカちゃんのこと表に出てないけどリカちゃん人気になってる時にそれバレたらどうするんだよ」 「……あくまでも僕とリカちゃんは師弟関係です。シャンプーの仕方とか試験勉強とかもちょこちょこ教えてるし」 「二人全裸で風呂の中でちちくり合ってやってるんだろ」 ……それも事実だ、と來は思いながらもでもリカのシャンプーのテクニックの練習台は部屋に来るたびにやっている。 リカの指遣いはとてもよくひど良い力加減で時に來が教えたりするために來もリカの髪の毛を洗う。 髪の毛の乾かし方、ブラシの当てかた……來はレクチャーをしている。 セックスだけではないが結局はセックスをする関係が主である。 來自身も自分が異性に手を出すということは無いと思っていただけに、セックスと技術や美容のこと以外どう接すればいいのか戸惑っているところもある。 「……カヨさんもなんとなく勘づいてるから」 「うそっ」 「女の方が勘が鋭い。來、なんかオスになったって」 「オス……?!」 大輝は自分で言って笑った。 「オスかぁって。自分は來のメスというかネコなところしか知らないからさ……。まぁバレないように頑張れよ」 「はい……」 「てかさ、來って芸能の世界の人間と縁があるよな」 「ああ、確かに」 と言っても也夜とリカだけだが……と來は思いつつも。 「じゃあ今日もよろしくな」 と背中を叩かれる來。にしても平常心で今日から仕事ができるのだろうかと店に戻るとリカが待っていた。 数時間前まで愛し合ってた二人だ。なんか不思議な気持ちだがリカは平常心のようだ。 「ここでは來さん、かな。よろしくお願いします」 「よろしく……お願いします」 改まって向かい合ってそう言われるとむず痒そうである。 「はいはい、ここは職場ー」 カヨがやってきて手を叩きリカは何事? みたいな顔をして、來は参ったなぁという顔をした。 道具を腰のカバンにセットして掃除を始める。ふと個室を見る。 そうだ、と來は思い出す。3年前、大輝の元で働いて少し経ってこの個室に呼ばれたことを。 そしてその中にいたのは……也夜だった。
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