第四章 出会った頃

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次の日、遅く起きた2人。也夜は夕方からウォーキングのレッスンとジム、來は休みだった。ジムに通っているという也夜の体はとても締まっていて尚且つ全身脱毛しており、とても綺麗な体付き……まるで彫刻のようである。それを触る來。くすぐったいよ、といちゃついていたらもう十時になっていた。 「そうだ、今日後で……一緒にきて欲しいところがあるんだけど」 「夕方ってレッスンだろ?」 「まぁ……」 來は立ち上がってシャツを着た。 「事務所のスタジオなんだけどね」 也夜もベッドからようやく起きて來から水の入ったグラスを手に取ると一気に飲み干した。喉仏に惚れ惚れしてしまうのだが也夜がそのままシャワーを浴びに行った。來はシーツとタオルケットをベッドから剥ぎ取って服と一緒に洗濯機に入れた。 家にあった冷食でとりあえずご飯を済ませて外に出た。也夜はサングラスをつけた。こんなにもサングラスが似合う人はいるものか、來はオフのためメガネをかける。 「目、悪いんだね」 「うん。普段は……メガネ。也夜はいいんだね」 「矯正するほどでもないけど少しね悪いよ。サングラスは少し度が入ってるけどコンタクトはちょっと」 「怖いんだ」 「……それもあるかな」 「ちゃんとメガネとかかけないと怪我するよ」 「はい」 となぜかここで敬語になった也夜。おかしくて笑った2人。 來の運転で也夜の誘導通りに車を進むととあるビルの近くの駐車場に着いた。來はわかった。也夜の事務所である。也夜は來を事務所に連れて行くんだ、と察して運転席から出ようとしない。 「どうして事務所に連れていくんだよ」 「……いいから」 「まさかマネージャーさん、社長さんに呼び出し喰らったのか? 僕」 「違うから、はい、出て」 と渋々車から出されて事務所のあるビルに。清流ガールズの事務所よりも遥かに大きい。途中何人かとすれ違ったが也夜以外にも何人かテレビや雑誌にたくさん出ていたり海外進出していたり有名な事務所とは知っていたが入るのは初めてであった。 「緊張しなくていいから」 と最上階の部屋に通されサングラスを外した也夜はその部屋にいたスーツを着た女性を前に立つ。自分がトレーナーとジーンズというラフすぎる格好に恥ずかしさをおぼえる。 「あら、はじめまして。也夜からは話聞いてたけど結構イケメンさんじゃない。身長も也夜よりも少しあるわね」 「……は、はい……はじめまして。也夜さんの担当になったばかりの……」 「來さんよね、社長の梅川です」 「はい……その、この間は勝手に髪型をここまで短くしてしまって申し訳ありませんでした」 來はなんで呼び出されたかわからずとりあえず謝ることしか頭になかった。 「もう、謝らなくていいわ。也夜の判断だったらしいし、こちらの方こそ上司の方に迷惑かけていないかしら。こちらは大丈夫よ。反対に仕事増えたんだから……感謝したい方だわ」 そのことについては也夜から聞いていたものの実際に社長の口からそう言われると少しホッとする來。 「社長、今日は報告がありまして」 「あら、來くんをうちの事務所に所属するって?」 來はそれはないない、と思いつつも何を報告するのだろうかと也夜を見る。 「実は來さんとお付き合いを始めました」 「也夜!」 來は昨晩OK出したばかりなのに? セックスをしたばかりなのに? それに同性愛者というのを知っているのだろうかとたじろぐ。 だが也夜の目は真剣そのものだった。 「いちいち事務所に報告するだなんて……」 報告を終えて社長室から空いている個室でコーヒーを飲む二人。 「一応交際相手ができたら報告しなくちゃいけないんだ」 「でもそれをわざわざいう必要あるのか? 言わない人が多いだろ」 也夜は笑った。 「まぁ大抵は黙って入るけどね」 「だったらなんで」 「言っておいた方が何かあったときに助けてくれるかもしれないだろ」 「……何かあった時って……それに事務所は君が同性愛者ってことは……」 「もちろん知っているさ。海外でモデルの留学していた時に社長にスカウトされてその時に洗いざらい話たさ」 來は也夜の横顔を見た。確かに也夜を見たらスカウトしたくなるだろう、でもそんな彼が同性愛者と知っても採用しただなんてと。 事務所は知っていても同性愛者であることは公表していないようだが。 「もしよかったらこの後ジムに付き合ってよ。それに僕の名前出せばいつでもジム使えるようにするから」 「……そんな。僕はここの事務所の人間ではないし、図々しいだろ」 也夜は來の頭を撫でた。 「僕の恋人でもあり、専属のヘアメイクさんなんだから。もしよかったらうちの事務所と契約してもいいんだよ」 「そ、それは……いや、普通に也夜が通ってい美容院の一スタイリストとしてでいいよ」 「遠慮しすぎだよ。それに僕は君との交際をきっかけに同性愛者であることを告白しようかと思っている」 「はあっ!」 來は立ち上がったのを也夜は座らせた。 「君の名前は伏せるよ、でもよければ出してもいい。交際も同性愛者であることも隠さずいたい。ずっと辛かったんだ、隠し続けて芸能活動を続けているの」 來は家族や知り合いだけには言ってはいたものの多くには言ってはいない。客にも知られてはいないし、いうこともなかった。 自分が同性愛者だと認知したのは大輝と出会ってからであり、その後すぐに交際に発展したため特にいう必要もなかった。もし交際している人がいるのかと言われればイエスと答えられるし別に異性が嫌いなわけでもないからフラットに話はできるし、と來は生活をしていた。大輝と付き合った際に親には話をしたのだがフウンと真剣に聞いていなかったようだ。知り合いも大輝の知り合いであってほとんど同性愛者だったためでもあったわけで。 也夜が自分との交際をきっかけにカミングアウトするのには驚きしかなかった。人気モデルでもあるのに、まだ付き合ったと言っても通っている美容院の一スタイリスト、そしてセックスしか事実上していないのにと。 「てことは交際もカミングアウトして……契約中の仕事とかファンの人とか……まだ相手が有名人だったらわかるけどこんなペーペーな僕だなんて」 「何を言う、僕もまだそこまで有名でもない。確かに契約をしている企業もあるけど更新期間が迫っているところがあってね。僕がカミングアウトしたことでどうなるか……この髪型も然り……」 來は少し前から思っていたが也夜が少し変わっているというか天然だというのは気づいていた。それが見た目と合わさって不思議と魅力的に感じはあったのだがその中にまさか同じ同性愛者であるということも含まれていたのかと思うと自分の勘は正しかったのか、と。 なんとなく複雑な気持ちであった。 「もう少し僕と付き合ってからじゃダメなのか?」 「いいや、もうすぐにでも。自分、素の自分……偽りのない自分でやっていきたいんだ。それに僕がこれだけ真剣だってことを知ってほしい」 すごく真っ直ぐ目を見られるが來は首を横に振った。 「偽らずやっていくのは悪くはないけど、もうちょっと互いのことを知ってから……」 「……」 也夜は少しショゲた顔をしたがわかったよ、と頷いた。來は也夜に抱きついた。 「也夜の気持ちは分かったから」 結局その日來は先に帰った。 その後2人は何度も色々話をした。お互いのことを。大輝の時は仕事の上司として、尊敬できる人として、愛する人として……どちらかといえば仕事で共にすることが多かった。だから話も仕事のことが多かった。 それですれ違いも多かったり寂しさを抱えた來は大輝に依存しすぎて別れることになった。 だから來はとにかく互いを知り、話をしようと。也夜が真剣に付き合いたい……そのことを尊重するためにも前の時よりも良い恋にしたい、長く付き合いたいと思ったのだ。 話をしていくうちにもっともっとお互いを知りたくなり、思いやりたくなり、愛おしくなってきた。同性愛だからでなく人間として互いに好きになってきた。 モデルとしてストイックに体を作ったり努力をしている也夜の姿、スタイリストとして鍛錬していく來の姿は共に尊敬し合うようになった。 そして一年ともに過ごし來は決意をした。也夜も。 なぜならもう2人はもうこれからずっと一生一緒にいる、それを決めたのだから。 もう隠す必要はない、也夜の意思を尊重し來と共に事務所と協議して2人の交際を公にした。
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