第一章 幸せから堕落へ

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病院からフラフラと出ていくとちょうどその頃、美園に聞いたのであろう來の上司である大輝がやってきた。 「來、しっかりして! ……也夜は……」 大輝もモデルである也夜のヘアメイクを担当していているため交流は長かった。來は大輝の下で働く美容師であった。 「事務所の人たちは知ってるのかな」 「家族以外はいなかっなのでこれから連絡すると思います」 と大輝から離れて1人で去ろうとする來。 「來、君も……也夜の家族じゃないか」 大輝にそう引き止められる。來は首を横に振る。 「……家族じゃないですよ、たった紙一枚出してないだけで……このざまですよ。帰ります」 「そんなっ! 來!」 來はドアに手をやるが耐えきれず膝から崩れ落ちる。 そんな彼を大輝が抱きしめる。 「うあああああああっ!!!!」 その後、也夜の事務所にも連絡が行きそこそこ名のある也夜、全国ニュースにも流れた。 そのこともあってか結婚式中止の連絡も來がしなくても済み、何人からも電話やメールが来た。 どうやって部屋に戻ったのだろうか。來は思い出せない。大輝に連れてこられたのだろう。何人か仲間や職場の人たちも駆けつけてくれた。 後から聞いた話では外には報道関係者も数人ほどいたらしい。 ファンたちは也夜のSNSにたくさんコメントをし事務所のサイトも一時見れなかったらしい。 來はこの時に自分はすごい人と一緒にいたのだ、という実感をした。 也夜は多くの人に影響力があるのに自分と一緒になってくれた、そしてさらに一生これからも一緒と決断してくれたのかと思うと……。 「大丈夫、來。まだ死んでないんだから……ね、大丈夫」 ずっと大輝が來を抱きしめてくれていた。美園を通じて也夜の状況がわかったのは事故があった次の日。 來の代わりに大輝が聞いていた。 「……心拍も呼吸もなんとか機械で……でも予断は許されない。もし自発的にできるようになっても障害は何かしら残る可能性が大きい……」 わからない、そんなのは……來はまた也夜に会いたい。あのベッドの上でもっと愛し合えばよかった……離れずにそばにいればよかったと。 「しばらくは家族も面会できないそうだ。運ばれた時よりも状態は悪化していると」 「ああああっ」 大輝にしがみつく來。涙は枯れ果てない。 「しっかりしろ、來。家族じゃないだなんて、たった紙一枚で家族じゃないとかそんなことはない。家族同然、なのに……回復を待つんだ、気を確かに」 來は肩を掴まれるがダメだった。大輝はしょうがないか、と泣き止むまで來を抱きしめた。
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