第二章 転換

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第二章 転換

それから。 也夜はもう植物状態になってしまった。容体は良くなっているものの、目を全く覚さないらしい。 それは店の常連である也夜の担当マネージャーが大輝に言ったようだ。 マネージャーもまた上社家と同じく也夜の同性婚は認めたようでそうでなかったらしく、一応也夜の尊重をとったがこのようになってしまった今、距離を取られているようだ。それにも悲しくなる來。だがそんなことは気にしてはいけない……と感情押し込めていく。 そんなこんなで二年が経った。 すっかり李仁とセフレ状態が続いており、ご飯を作っては食べてセックスして泊まらず帰って行く李仁の後ろ姿を見て、來は1人部屋の中で虚しさを感じる。 李仁は自分のパートナーのところに戻る。パートナーの湊音ともセックスをするのだろう。自分は本命じゃない。也夜は自分を本命と思ってくれていた。來も也夜が本命だ。だがこうして他の男に抱かれていることに背徳感を感じていく。 最初は2人で住むはずだったマンションに1人で入った時、病室に出禁になった時の絶望感、喪失感でもう住みたくなかったがローンもある。 美園を通じてメールでなくて手紙で上坂家から折半すると連絡が来た。何度かメールで直接会いたいときたのだろうか全く応じなくなった來が無視した結果、手紙になった。 しかしもう也夜に会わないで欲しいと言われた以上それも苦痛だったが大輝たちからは貰えるものは貰っておけという言葉で毎月ローンの半分は受け取っている。 だが通帳に記帳されるたびに忘れようとしていた也夜が來の中で浮上する。それを他の男で打ち消す。 來と也夜は実は付き合ってはいたが身体の関係は無かった。抱きしめ合ったりキスしたりしてはいたがいわゆるインサート行為はなかった。 互いのを触れ合ったり、口に含んだり、性的な関係ではなかった。なぜ出来なかったのか。二人とも同性との身体の関係は無かったわけではない。 也夜は中学の頃から自覚があり、恋愛対象は男性のみだった。來もである。そして初めて出来た恋人、大輝はゲイで來と身体の関係になったがあまり好きではない行為だったと來は思い返す。 なのに今は李仁と身体の関係になっている。そのほうが也夜とのことを忘れられるのだろう、変な暗示をかけていた。 優しかった也夜。柔らかい唇、抱きしめると鍛えられた筋肉が硬くたくましい胸板……。 抱きしめられるだけで幸せだった。 こういう愛し方もある、性的な関係を持たなくても愛おしく、永くいられる、そう教えてくれたのが也夜だったのだが、來はそれを自ら崩した。 体の関係を持つたび、心が壊れていくのはわかっていった來だがそうするしかなかったのだ。
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