華やかな夜と現実

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 救いがあるとすれば、兄との年齢が適度に離れていることだろうか。兄は高3、僕は中3で、しばらく学校が被っていない。心ない奴らに家族と比較され、お前だけ残念な顔立ちだ、お前は捨て子だ、などと虐められた過去もある。それを理由に前髪を伸ばし、なるべく人に自分の顔を晒さないようにもしている。  そんな僕を、両親は兄と分け隔てなく可愛がってくれた。苦労した記憶はなく、特に、僕が読書好きだと知ってからは、幼い頃から惜し気も無くたくさんの本を買ってくれた。  本は良い。人と深く関わることができない分、僕に人の心、感情の流れを教えてくれる。  少し前までは哲学の本を好んでいたが、最近は小説を読み漁っている。ストーリーや主人公の感情の揺れ動く様は、その世界に没頭させてくれ、不安定な自らの心をも忘れさせてくれる。  本があれば、僕は現実世界を生きながら、また別の世界でも生きることができるのだ。そういった機を僕に与えてくれた両親には感謝しているし、きっと本当の子でもないのに愛情を与えてくれたことを幸福にも思う。だが、ここ最近は逆にもどかしい気持ちに支配される。これが思春期というやつなのだとしたら、あがなう術は僕には本しか残されていないのだ。  物思いに耽っていると、コンコンとドアをノックする音で現実に還る。返事をして体を起こすと、兄が顔を覗かせた。 「創太郎、ケーキあるぞ」 「ありがとう。明日食べるから、お皿にとっておいて」 「了解」  リビングへ戻ろうとした兄が、一時の間を置いて再びこちらを向く。やはり、イケメンと言われる部類に入るこの兄とは、全く似ていない。 「なあ、この家嫌いか?」  思ってもみなかった突如の問いに面喰らう。 「急だね」 「ここはお前の帰る家なのに、いつも居心地が悪そうだ」 「思い過ごしだよ。余計な心配かけてごめん」 「そうか。何かあったらいつでも言えよ」  僕は、兄の気配が消えるのを待ってから衝動的に胸元を服ごとわし掴んだ。  帰る家……。ここは本当に、帰る家なのか? いや、他に帰る場所なんてないのだから、そうなのだろう。だが、胸に蔓延(はびこ)る拭えない(もや)は、消えることなく夜の闇にまとわり続けた。  一体、僕は誰なのだろうか……。
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