ふたつのプレゼント

1/2

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

ふたつのプレゼント

 笹谷さんの家は一人親で、母親が生活を支えているため、家で一緒に過ごせる時間が少ないらしい。だがそのことで不満を抱えている様子もなく、母を助けるために自分なりに出来ることをしていると言う。  両親が揃っている僕のことを羨ましいと思うが、それは母の体の負担を考えてのことだと言っていた。  僕は両親の子ではないかもしれない。早く自分の居場所を見つけたいと話すと、彼女は思いもよらない言葉をくれた。 「逃げたいなら、とことん逃げれば良いよ。自分の居場所は自分で決めるって割りきって、それまでの間は甘えちゃいなよ、今の環境に」  躊躇(ためら)いなく続ける彼女。 「分からないことはいくら考えたってわからないよ。グダグダと考えてる時間が勿体ない。今どうすることも出来ないなら、本を読もう。本の中は、居心地が良いんでしょ?」  彼女は、彼女なりに様々な思いを巡らせながら生きてきたことを窺い知る。僕なんかより、笹谷さんはずっと大人だった。  そして女神のような笑みで、僕に一冊の本を渡した。 「これ、どうしたの?」 「うーん。三上くんに、なんか良い本ないかなってSNSで探したの。隠れた名作らしいよ」 「へえ、そうなんだ。楽しみだな」 「もうすぐ誕生日でしょ? 少し早いけど、私からのプレゼント」 「ありがとう、笹谷さん」  感謝を告げると、笹谷さんは何故か膨れっ面になった。 「そろそろ、名前で呼んでくれても良いんじゃない?」 「え、ああ……」  なるほどそういうことかと考えると同時に、急に照れ臭くなって口ごもる。 「優希(ゆうき)って呼んでみて!」 「うん……。優希、ありがとう」  思い切り照れながら優希を見ると、恥ずかしそうに笑っていた。  優希に話を聞いてもらって以来、分からないことは分からないと区切りをつけ、積んであった本を日々消化していった。依然として違和感は拭えないものの、不思議と気持ちも晴れ、家族ともうまくやれている。  誕生日の食卓には、僕のために用意されたご馳走が並べられた。幼少期に好きだったフライドポテトは、今でも毎年だ。もうポテトに興味はないが、これを愛のひとつとしてカウントして良いのなら、今の僕なら無理をしてでも受け入れたい。    ケーキを食べ終えたあと、母が僕にプレゼントを手渡した。綺麗にラッピングされているそれをほどき、僕は中身を見て、心底驚いた。  両親からのプレゼントは、一冊の本だったのだ。つい最近、優希がくれた本と全く同じもの。いや、少しだけ違う。優希がくれたものは文庫本だったが、これは単行本だった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加