ふたつのプレゼント

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 タイトルは、【何者であるか】。著者は聞いたこともない名前だ。文庫化されているということは、それなりに売れたということだろう。 「今年は本にしたの。とても奥深い本だから、読んでみて」 「ありがとう。さっそく読んでみるよ」  僕は同じ本を既に持っているとは悟られぬよう、口角を上げた。  こうなってくると、俄然興味が湧いてきた。同時期に同じ本を贈られることなんて、後にも先にもないだろう。しかも刊行年月日を見てみると、二十年も前の作品だ。ネット時代で再び注目を集めているのだろうか。そういえば以前、SNSで拡散された動画が話題になり、過去の作品が再び重版されたというニュースも見たことがある。  風呂も済ませ部屋に戻ると、僕は早速本を開いた。今回は読みやすさを考慮し、優希がくれた文庫本だ。  読み始めて数分後、あ、ダメだこれ。と、そう思ってしまった。  これはヤバい。これは、ヤバい。語彙力が欠落するほどの引き込み力。主人公の心理描写がエグい。胸がわしりと捕まれ、もう現実に戻ってこられないのではないかと思ってしまうほど、物語に夢中になってしまう。ページを捲る手が止められない。  結局眠らずに読み続け、夜中のうちに一冊を読み終えてしまった。  ラストに近づくにつれ、ああ終わってしまう、まだこの世界にいたい。この作者の手の上で躍らされていたい、終わらないでくれ。と、強く思うのだ。これまでもそのようなことは多々あったが、そのレベルがまるで違う。自分が今求めていたことのヒントのようなものが、随所に散りばめられている。  読み終えて、すごいものを読んでしまったと興奮し、僕はしばらくの時間を眠れずに過ごした。  次の日、僕はさっそくこの作者について調べた。  高井総次郎。この作品で文学賞を獲ったのち、四冊の作品を残している。その後は作品を出しておらず、十三年前に亡くなっていた。  惚れ込んだ作家が既に存在していないことにショックをうけつつも、あと三作も読めるのかと嬉しくも思う。  僕は早速二冊目も購入し、受験勉強もそっちのけでその世界に没入した。  美しくも強く軽やかな文章に惹かれ、僕の読書日記には模写が増えていった。
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