絶望と希望の狭間

1/2

27人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

絶望と希望の狭間

 春麗ら。高校受験も終わり、中学を卒業する頃には三冊目を手に入れていた。  読めば間違いなくのめり込むことは分かっていたので、纏まった時間がとれるまでは楽しみにとっておいた。  優希は僕にプレゼントした本が喜ばれ嬉しそうだった。また探してみるねと言って、気付けば優希も少しずつ本を読むようになっていた。  放課後や休日にふたりで読書をする時間がこの上なく幸せで、僕はこんな時間がこれからもずっと続けば良いのにと密かに思っていた。  高校に入学し、落ち着いた頃。僕はついにあの作者の三冊目の本を手に取った。胸の高鳴りは、高揚感と僅かな緊張を僕に告げる。  ページを捲り、読み進めてゆく。 「違う……」  僕は数十ページを読み終えたところで、肩を落として独りごちた。  そんなはずはない。あの作品は素晴らしかった。自分が何者であるかのヒントをくれ、何度読み返しても、いや、読み返す度に感動が上乗せされていくあの感覚。あの感覚が……そこには、なかったのだ。  つまらないわけではない。ただ、一作目と比べてしまうと心ここに在らずという感じだろうか。いや、これからかもしれないと再度読み進めるも、ラストまで期待以上のものは生まれなかった。    我ながら酷だと思う。僕はなんと酷い読者なのだろう。良かった点は多々思い浮かぶ。だが、それ以上に、心が落ち込んでしまったのだ。これではあまりにも、作者に対して失礼だ。僕に読み取る力が無いだけなのだろうか。僕はラストまで読み終え、そっと本を閉じた。 ────二年が過ぎ、高校も中盤を過ぎると、進路を念頭に置き生活していくことになる。自分が将来なりたいものが思い浮かばない僕は、ざっくりと大学には入っておこうと思っていた。僕は未だに自身を見つけられずにいた。  幸い学力も悪くはないし、大学に行くに越したことはない。そう考えながら過ごしていた。  優希とはその後も週に数度は会っていた。彼女はアルバイトもしているので、基本的にはそれに合わせて二人で逢い、本を読んだりくだらないお喋りなんかをしながらゆったりとした時間を過ごした。  家族とは中学以来仲良くやれている。もともと不仲だったわけではないが、こちらの気の持ちようでいかようにも生活は変わるのだと実感していた。これも、本と彼女との出会いのお陰だと感謝している。  だが、日常とは容易く崩れるものだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加