星座表をこれから記憶しようなんて懐うからね

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「また、驚かされた。良く似てるなー」  彼女が抱っこしていた幼い女の子を見て、僕がつい言葉にしていた。それは忘れていた彼女の昔をちょっと残している雰囲気が有る。  もちろん娘ちゃんは僕の事を解ってないので「このおっちゃん誰?」なんて母親の彼女に聞いていた。 「んー。こういう時はなんて紹介しようか? 知らないおっさんにしとく?」  茶目っ気が多い彼女が笑いながら聞いているから「好きなように」と返しておいた。彼女は楽しそう。だから娘ちゃんの方も僕に警戒することはなくって笑顔を見せてくれていた。 「むかーっしのお母さんのお友達だよ」 「そうなんだ! よろしくね。お母さんの彼氏なの?」  流石にこの問には返す言葉が無かった。  僕が戸惑っていると「取り合えず違う」と彼女が訂正をすると、娘ちゃんは「つまんない」と膨れていた。 「どう答えたら良かったんだろ。俺って子供は好きだけど、付き合いが無かったから困るわ」 「そうだねー。答えは知らないけど。気に入られたいなら、まあ甘やかしてみたら?」  楽しい答えばっかりなので、僕は娘ちゃんの事をジーっと見つめると、両手を差し出してみた。すると、娘ちゃんは一度彼女の事を見てから、僕の方に抱っこを移った。  僕は娘ちゃんを抱っこすると「暖かい飲み物でも買おうか?」と走って近くの自販機を目指した。娘ちゃんはこのくらいで喜んでいる。そして彼女は「良いなー」なんて拗ねた顔をしていた。  自販機の前で「どれにする?」と娘ちゃんに聞くと、即決でこの寒いのにりんごジュースを選んでいた。そして忘れないで「お母さんはどれかな?」と彼女が辿り着く前に娘ちゃんに聞いた。  こちらも直ぐに「お母さんはいつもこれだよ」と娘ちゃんが示したのはレモンティー。また忘れていた思い出がよみがえる。 「なんか、懐かしいな。こんな風にレモンティー片手に星を見たことが有ったっけ」  彼女に娘ちゃんからレモンティーを渡させると、彼女は喜んで一口飲むと、甘い香りを纏いながら答えていた。これも忘れていた。けど、思い出した。 「いつだったか、帰り道が工事で一緒になった。それで、寒いからレモンティーを奢らされた」 「えー、違うよ。あの時は君から奢ってくれたんだよ。忘れてるな!」  そうだったのかもしれない。彼女には良いところを見せたかったから。忘れてた。  その時に彼女はまた膨れながらも、僕の事を見ながら笑顔が消えない。 「その時だったね。事件が有ったのは。あれは美しかった」  これは僕たちの思い出。それも僕が忘れてしまうくらいの。だから、娘ちゃんははてなマークを浮かべている。 「周りの建物の電気が全部消えちゃったんだよ」  僕は娘ちゃんの方に説明するように話した。 「数分間だったけど、停電が起こるなんて思いもしなかったなー」  あまりない事だから彼女も思い出を語っている。しかし、状況を理解した娘ちゃんが疑問を覚えていた。 「お母さんたちは怖くなかったの? 真っ暗になったんでしょ?」  確かにその通り。あたりの電気が全て消えて、夜の真っ暗な道になってしまった。けど、あの時の彼女は全く怖がることはなかった。 「電気は消えても明かりはちゃんと有るんだから」  そう彼女は言いながら上の方を示していた。 「星が良く見えたんだ。普段は見えなかったから驚いたよ」  今も僕と彼女と娘ちゃんは空を見ていた。けれど、そこに星の姿なんて周りの明かりに消されてしまっている。 「全然見えない。つまんないよ」  親を映した様に娘ちゃんが膨れている。その姿に僕も頷いていた。 「解んないね。だけど、あの時は違ったんだ。星が降るみたいに綺麗に観えてたんだ」  呟き結構残念そうに言うけれど違う者がこちらに居る。それは彼女で僕の言葉を受けてニッコリと笑っていた。 「そう。あれは私の中で忘れられない思い出。ホント綺麗だったなー」  膨れっ面になっている人が居た。それは幼いホッペの娘ちゃんだった。 「面白くない。あたちも観たかった。お母さんばっかズルい」 「だって、生まれるずっと前なんだからしょうがないでしょ」  まあ、確かにそうだ。もう忘れてしまう程の記憶なのだから、五歳ほどの娘ちゃんが望んでも全然叶わない。だから親子で喧嘩をしている。
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