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5
ヒートが明けた日、想夜は久々に中学校へ登校した。
席に座り、休んだ期間に進んだ教科書のページをパラパラと眺める。
正直、何も理解できない。元々勉強は得意ではなかった。
かと言ってノートを見せてもらえるような友人もいないので、そうやって何となく時間を潰すしかない。
「橋元くん」
頭上から女性の声がする。想夜のクラスの担任の先生だった。
「これ」
見れば、『進路希望調査票』と書かれたA4の用紙を手に持っている。
「みんなにはもう配ったんだけど。現時点の希望でいいから、第3希望まで高校名書いて来週末までに提出してね。今度の三者面談で話す材料にするから」
「……はい」
「三者面談、親御さんは……」
「あ、き、来てくれます」
「そう。自分のことなんだから、ちゃんと相談しておかなきゃ駄目よ。……相談できる?」
「はい」
彼女は別の生徒に呼ばれてパタパタと去っていった。
(……情けない)
想夜はため息を吐いて机に突っ伏す。
中3にもなってこんなことを心配されるなんて。小学生じゃあるまいし。
(変わらなきゃ……)
突っ伏したまま首元のチョーカーを撫でた。
ヒートは終わったが、何となく学校につけてきてしまった。
登校した時数人のクラスメイトにジロジロと首元を見られたが、特にそれ以上のことはなかったのでそのままにしている。
校則でアクセサリー類は禁止されているが、オメガに限っては何らかの方法で首元を守ることが許可されている。むしろ事故を防ぐため、推奨されている位だった。
しかし想夜は純粋な事故防止のためだけにそれをつけているのではない。
蛍一が似合っていると笑ってくれたのが嬉しかった。
これをつけて堂々と学校へ来ることが許されるならオメガも案外悪くない。そう思えてしまえるほどに。
(なんて単純なんだ僕は)
想夜は身体を起こす。そろそろ午後の授業が始まる。
これが終わったら、彼のバイト先にお邪魔してみようか。
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