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「おっ美味しそう……」  想夜はゴクリと唾を飲み込んだ。  机を挟んで蛍一と向かい合わせに座る。  誰かと一緒に食事をするのは久しぶりなので少し緊張するが、オムライスのいい匂いにすぐに身体が弛緩した。 「いただきます」  スプーンを差せばトロトロと卵が崩れていく。こんなのはレストランでしか見たことがない。 「どう?」  二口、三口と食べ進めたところで想夜はようやく顔を上げる。 「今まで食べてきたオムライスの中で1番美味しい……」 「それは大袈裟だろ」  蛍一はぷっと吹き出して笑った。 「本当なのに!」 「でも良かったよ。バイト先のメニューが美味かったから盗んできたんだ」 「レストランで働いてるの?」 「いや、喫茶店」 「かっこいい」 「ただのアルバイトだけど」 「今度行ってもいい?」 「いいよ」  蛍一は店までの地図を描いて渡してくれた。想夜の家からそう遠くはない。自転車で行けそうだ。 「静かだから勉強もできるよ」 「喫茶店で勉強なんてお洒落だね」 「近所の高校生が来てよく課題に追われてるよ。お前は……中学生だっけ」 「うん。中学3年生」 「じゃあそろそろ受験だ。まだ春だけど」 「高校は行くべきかな」 「真っ当な職に就きたいなら行くべき。なんなら大学も。オメガなら尚更……と言いたいところだけど」  蛍一は苦笑する。 「高校卒業して3年間フリーターやってる俺じゃ何言っても説得力ないな」 「蛍一さんが無理なら僕は一生働けないよ……」 「何言ってんだ」  蛍一は再び吹き出して笑った。 「オメガだから働けないなんてことはないよ。そりゃ色々苦労はあるだろうけど……。俺はある程度自由にできるバイト生活が気に入ってるんだ。人間関係後腐れ無いし」 「ヒート休暇取りやすそうだし?」 「そうそう。そう考えると学校なんて窮屈すぎるよな」 「わ、分かってくれる?」 「分かる。すごく分かる」 「本当? 蛍一さん絶対人気者だったでしょ」 「……まぁそれなりに」 「ほら!」  今度は2人同時に吹き出して笑った。 「番ができたのも学生の時?」 「ん?」 「番。ほら……」  想夜は自分の頸を触った。蛍一は「あぁ」と苦笑する。 「別に俺、番なんていないよ」 「え? いやでも痕が」 「なんだ見たのか」 「えっごめんなさい! って、隠してないからそりゃ見えるよ」 「ふふ。隠してないのはアルファ避けだ」 「番がいるなら別のアルファは寄ってこないんじゃ……?」 「だから、番はいないよ。……いない、ことになってる」 「……?」
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