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「事故だったんだ」
蛍一は噛み痕の残る自分の頸に触れながら窓の外を見た。
「俺は小さい頃に母親が死んで、父親もすぐに再婚して出ていった。しばらくは親戚の家をたらい回しにされてたんだけど、10歳の時に受けた診断で自分がオメガだと分かった」
想夜は神妙な面持ちで頷いた。
「お前も知ってると思うけど、何らかの理由で親が育てられなくなった18歳以下のアルファとオメガは、国からの支援で無償で施設に入ることができる。親戚たちはすぐに俺を施設に送った。扱いづらかったんだろうな。俺ももうちょっと愛想良くしとけばよかったと思うんだけど」
彼は苦笑する。
「俺は人よりヒートが来るのが早くて、施設に落ち着く頃にはすぐにヒートが始まった。そこはアルファもベータもオメガも一緒に住んでて、オメガにはそれなりの配慮もあったんだけど。誰もまだ11歳になるかならないかの子供がヒート起こすなんて思わなかったんだろうな。俺は施設のアルファを誘発して、襲わせてしまった」
「か……噛まれたの?」
「そう。当時は施設の管理体制に問題があったとかなかったとか、地元ではそれなりの話題になったんだけど。まぁどちらにせよ子供に罪はないってことで、相手のアルファは治療を受けて俺との番を解消した」
「……」
「で、俺だけに噛み痕が残ったという訳」
「ま、待って!」
想夜は頭の中で彼の話を整理する。
「蛍一さんは番を解消してないんだよね」
「オメガは一度番になれば解消できないよ」
「そ、それじゃ、一生番を作れないってことじゃないの」
「そういうこと」
想夜は絶句した。対して蛍一は他人事のように平然としている。
「……ヒートは続いてるの?」
「うん」
つまり、アルファに頼ることなく、一生1人で対処しなければならないということだ。
オメガにとって、考えうる限り最悪の状況と言えるのではないだろうか。
「これがそう珍しいことでもないんだ。まぁ、お前も気をつけた方がいい」
「うっ……その節は本当に……」
「ふふ。まぁ無事だったからいいんだ。でも流石に無防備だったぞ」
そうだ、と蛍一は立ち上がる。
そしてクローゼットを開けると、小さな引き出しから何かを取り出した。
「それは?」
「チョーカー。お前にあげるよ」
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