真紅の特注企画

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「はい。真紅のブラ特注キャンペーンをして、大型店舗限定でモデルのYURIAさんに回ってもらおうかと」 「キャンペーン?」 「そうです。大型店舗ならお客様も多いので、宣伝効果は大きいはずです。でも、大型店舗の担当の方には、キャンペーンで店舗に出てもらう事になりますけど…」 「それは別に心配しなくてもいいと思う。むしろ、担当店舗にYURIAが来るって喜ぶんじゃないか?」 「あぁ、このあいだの様子だと、そうかも知れませんね」 「キャンペーンか……YURIAが店に来る…」 榊は少しうつむいて、呟きながら何か考え事をしている様子。 「ん…? 榊先輩?」 伊織は榊がこの話を聞いてどう反応するのか知りたかった。友里亜が話してくれた初恋の相手は榊の事。そして榊が話してくれた初恋の相手は友里亜の事。両方の話を知っている伊織からすれば、初恋の相手と会うきっかけになるこの企画をどう思うのか気になっていた。ましてや榊は裏切られて振られた側。今さら会いたくないと思うかも知れない。もしそうなったら、伊織はこの企画書を出さないつもりでいた。 「うん。いいんじゃないか?」 「本当ですか?」 「あぁ、YURIAが元々、真紅のCMモデルをしたかったなら、オファーすればすぐにOKはもらえるだろうし、今人気のモデルが店舗に現れるなら話題にもなって客は集まるだろう。まぁ、実際、FやGカップブラの問い合わせが何件かあった事もあるし、今回の1件だけにしておくのはもったいないよな」 「はい…」 「この企画、通ると思うぜ。春風、さすがだな」 「いえ、そんな……私はただ、今回の依頼で思ったんです『好きな人には綺麗な自分を見て欲しい』女性なら皆、そう思うんじゃないかなって…」 「春風もそう?」 「えっ…」 「春風も……そうだった?」 榊が真剣な目で見つめて尋ねる。 (だった…? 過去形…?) 「私もそうですね『綺麗な自分を見て欲しい』と思いますよ。真紅は私の憧れの下着ですから」 「今も?」 「……あの、榊先輩? 何が」 「あ、いや……ごめん」 突然、榊が椅子を引き自分のデスクに戻って立ち上がり、引き出しから鞄を取り出しながら微笑んで言う。 「その企画、楽しみにしてる。じゃ俺、もう出るから」 「あっ、先輩…」 伊織が呼び止めたにも関わらず、榊は鞄を持ちオフィスを出て行った。伊織は榊が何を言いたかったのか考える。 『好きな人には綺麗な自分を見て欲しい』伊織もそう思い、憧れていた真紅の下着を身に着け、津波との『初夜』を迎えた。 (あっ! まさか……先輩はその事に気づいた…?) 以前、榊は伊織の表情が変わったと気づいた事があった。その頃、津波にキスを教えられ体に触れられ、初めての感覚を教えられていた時だった。伊織自身も気づいていない、無意識の表情に敏感に反応する榊。顔を隠し、目としぐさだけ伊織だと気づく榊だ。もしかしたら初体験をした事を、気づかれてしまったかも知れないと伊織の脳裏によぎった。 「最悪だ……もしかして、出社して来た時から? あぁ……ダダ洩れ過ぎでしょ…私…」 伊織に彼氏がいる事を知っているにしても、榊はまだ好意を持っているのだ。好意を持っている相手のそんな顔など見たくないはずだ。今の伊織には榊の気持ちが手に取るように分かり、申し訳ない事をしたと反省していた。 (少し抑えないと……自分で制御出来てないし……このままじゃマズい。キャンペーンの事は嫌じゃないみたいだし、友里亜さんと会えば何か変わるかも知れない……お互い初恋の相手だもんね…) 榊と友里亜の思い出や関係が、少しでも良くなればいいと期待しながら、伊織は企画書を仕上げた。
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