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その夜、伊織は真白のサンプルのベビードールとタンガショーツを身に着けたまま、津波に抱かれ、火照る肌を真っ赤に染めて快感に溺れた。
翌日、大型店舗の2店舗目にYURIAが現れ、初日同様、行列が出来た。売り上げも上々で、連日多くの客が各店舗に訪れる。CMも街の大型ビジョンで流れたり、YURIAの広告ポスターも貼り出されるようになった。
3店舗目、4店舗目と日を追うごとに大型店舗に集まる客が増えていく。準備や警備に当たる社員を増やし、キャンペーンも終盤に入る。
5店舗目となる店舗の担当者は、榊だ。朝のミーティングを終えて伊織は榊に声をかける。
「榊先輩、今日、私そちらの店舗の様子を見せてもらうんですけど、午後から行っても大丈夫ですか?」
「あぁ、そっか。次だもんな。いいよ、いつでも空いた時間に来いよ」
「はい、分かりました」
(少し遅めに行った方が、友里亜さんとの再会を邪魔しないよね)
伊織はひとまず花村の店舗に向かった。
*****
春風と1階で別れて、地下1階の駐車場へ下りる。彰二は自分の車に乗り込み、担当する店舗に向かった。車を運転しながら、店舗に近づくにつれて緊張してくる。それもそのはずだ。今人気のモデルYURIAが店に来るのだ。しかも彼女は、彰二の初恋の相手。
彰二が中学1年、友里亜が中学2年の時に少しの間付き合い、別れてから友里亜とは話をしていない。別れた後、母親と2人暮らしでモデルにスカウトされ、仕事を始めたと聞いたが彰二は心配していた。だがそれも、友里亜の姿を見かけても話しかける事も出来ず、それ以来、顔を合わせる事はなかった。
春風から企画の話を聞いて、正直、友里亜とはもう会いたくなかった。彼女と別れた理由は、彼女の浮気だ。浮気と言っても、彰二とは手を握ったくらいでキスさえもした事がなかったから、大人になった今思うのは、交際していたと言えるのだろうかという事だ。
彰二からの告白で友里亜はOKしてくれたが、彼女から「好き」と言う言葉は聞いた事がなかった。もしかしたらただ、彰二の気持ちに合わせてくれていただけで、恋人同士の交際とは違っていたのかも知れないと、大人になってから彰二は思っていた。
淡く甘酸っぱい恋。彰二からすればそんな恋で、終わった恋だ。友里亜からすれば苦く思い出したくない恋かも知れない。自分と会ってしまえば嫌な事を思い出すかも知れないと心配になっていた。
(それに……今、俺は……春風に恋している…)
「今さら会っても……何を話せば…」
普通の会話が出来るのどうかも分からない。その緊張で彰二は少し不安になっていた。
「普通に……普通に…仕事を…」
店舗の駐車場に車を停め、彰二は店内に入った。
「おはようございまーす!」
「おはようございます!」
彰二が挨拶をしながら入ると、元気よく挨拶が返って来た。店内にはまだYURIAの姿はない。
「榊さん、YURIAさんがもうすぐ到着されるそうです」
店の奥から、1人の店員が電話を持って伝えに来た。
「そう、分かった。じゃ、今日はいつもより忙しくなると思うからよろしく!」
「はいっ!」
店長や店員達が開店準備を始め、キャンペーンの準備や警備に当たってくれる同僚達と、行列の誘導の確認やYURIAが広告を配り握手をする場所を作る。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」
店頭で準備をしていた榊の背後に、YURIAが元気に挨拶をして現れた。
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