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彰二は振り返って、ゆっくりYURIAと付き添いのマネージャーの元へ向かう。
「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
ほんの少し前まで緊張していた彰二だったが、いざ本人を目の前にすると不思議と冷静になり、落ち着いてにこやかに挨拶をしていた。営業先への訪問やプレゼンなどでも寸前までは緊張して落ち着かない彰二だが、いざ本番になるとスイッチが切り替わったかのように冷静になり落ち着いて対応する事が出来るのだ。こういった面が、営業トップ3の1人である所以なのだ。
「じゃ、あとの準備は頼む。開店まであと15分だ。不備がないか確認もよろしく」
「はいっ」
彰二は同僚や店員に指示を出し、店長を呼んであとを任せる。YURIAとマネージャーに声をかけ、彰二は店の奥の部屋へ案内する。
「すみません。開店時間までもう少しお待ち下さい」
「はい」
2人が返事をしてテーブルに鞄を置き、椅子に座った。彰二は3人分のコーヒーを淹れ2人の元に運ぶと、2人は鞄を下ろしテーブルの上をあける。彰二は2人の前にコーヒーカップを置き、向かい側に自分の分を置き座る。上着の内ポケットから名刺入れを取り出し、名刺を1枚ずつ出して2人に差し出す。
「初めまして、ルージュ営業課の榊と申します。この店の営業担当をしております」
マネージャーが名刺を出し、挨拶をする。
「YURIAのマネージャーをしております、平井と申します」
彰二は名刺を受け取り、会釈した。
「これまでの店舗と同様、私がYURIAさんのそばでフォローと警備をさせて頂きます」
そう話し始めると、彰二はキャンペーンの段取りや時間配分などの説明をした。各店舗で異なる所もあり、丁寧に説明をする。
「お昼休憩は午後1時から1時間ほどあります。お2人は、お昼、どうされますか?」
彰二がそう尋ねると、マネージャーの平井が答える。
「近くにファミレスやカフェがあれば、そこで休憩させてもらおうかと思っているのですが」
「そうですか。すぐ近くにカフェがありますので、ではそちらで。念の為、私もご一緒させて頂いてもよろしいですか?」
「はい」
「ありがとうございます。午後5時で本日のキャンペーンは終了となりますので、よろしくお願いします」
「はい、分かりました」
「何か、分からない点などありませんか?」
「いえ、大丈夫です」
「もし何かありましたら、いつでも言って下さい」
「はい、ありがとうございます」
「では、もうそろそろ開店いたします。店頭へ行きましょう」
3人は部屋を出て、店内の特別に用意されたテーブルの前に立ち、開店を待つ。テーブルの真ん中にYURIAが立ち、その横に彰二が立ち、広告をYURIAに渡す役をする。マネージャーの平井は、2人の後ろで少し離れてYURIAを見守る。
「榊さん、よろしくお願いします」
突然、YURIAが彰二に小声でそう声をかけた。彰二は一瞬驚いたが、冷静に返す。
「はい、大丈夫です。私が必ず守りますので、安心して下さい」
彰二は、これまで回って来た店舗の担当者から聞かされていた。YURIAが広告を渡し客と握手をする際、手を握って引き寄せたり、離さない者がいると。そう言った者からYURIAを守る使命がある事は、十分理解していた。
開店時間になりドアを開くと、店の前にはすでに行列が出来、社員達が整理券を配り、誘導していた。次々に店内へ入って来る客。YURIAは笑顔で、流れるように客に広告を渡し握手していく。
感激して喜ぶ者、泣き出す者、色々いるけれど、YURIAは丁寧に優しく対応していた。そばでYURIAの笑顔を見て、彰二は昔の友里亜の笑顔を思い出す。
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