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(あっ……あの頃と同じ笑顔……俺が好きだった笑顔だ…)
彰二はYURIAの笑顔を眺めながら、自分の役割を真面目に果たす。
あっという間に時間は過ぎ、彰二の元に店長がやって来て耳打ちする。
「榊さん、もうすぐ1時になります。一旦、行列のお客様を止めますね。休憩に行って来て下さい」
「うん、分かった。じゃ、休憩に行って来る」
YURIAが休憩している間、一度行列は解散させる。整理券を配っている為、次の開始時間にもう一度集まる事になっているのだ。各自で休憩する事も出来るし、店内で商品を見る事も出来る。警備に当たっている社員達も休憩に入る為、一気に店舗から人がいなくなった。
彰二はYURIAとマネージャーの平井に声をかけ、昼休憩に出る。だがYURIAがマネージャーの平井に言った。
「平井さん、お昼、別でお願い。私は、榊さんに話があるから」
「あ…」
平井が彰二の顔を見る。彰二も突然の事で困惑するが、YURIAが真剣な顔をしていた為、彰二は平井に言った。
「平井さん、YURIAさんの事は私が必ず守ります。早めに戻りますから大丈夫ですよ」
「そうですか…? じゃ、お願いします。YURIA、帽子と上着で姿を隠していくように。榊さんに余計な迷惑をかけないように」
「はい、分かってます」
YURIAは帽子を深く被り上着を着て、彰二と一緒に店を出た。
彰二は黙ったまま、近くのカフェにYURIAをつれて行く。カフェのドアを開けYURIAを後ろに隠すようにして、迎え出た店員に2名だと言い奥のテーブルに座らせてもらう。
テーブルに着くと、YURIAは他の客や店員から顔が見えないように背を向けて座った。向かい側に彰二が座り、メニューを見て注文する。注文したものが来るまで2人は話す事なく、YURIAも帽子を取らない。
しばらくして注文したものがテーブルに運ばれ、店員がカウンターに戻って行ったところで、YURIAは帽子を取り上着を脱いだ。そして静かに彰二に言う。
「榊 彰二君、私を憶えていますか?」
「えっ…」
「砂月中学校の家永 友里亜。君より1つ上の先輩だった」
不安そうな目で話す友里亜。彰二は真っ直ぐ友里亜を見つめ、深く息をついて答える。
「憶えてるよ、友里亜。久しぶりだな」
そう言って、彰二は微笑んだ。友里亜は目を見開き、ジワリと目を潤ませる。
「久しぶり。元気そうでよかった」
「あぁ、友里亜も元気そうだな。モデルの仕事、頑張っているんだな」
「うん。私の事、気づいてた? テレビに出たり、ルージュのCMをしたりしてたけど…」
「ふふっ、気づいてたよ。「頑張ってるな」って思ってた」
「そっか……」
友里亜はうつむき、2人に沈黙が流れる。だがすぐに彰二が明るく声をかける。
「それより、早く食べよう。休憩は1時間しかない。早く戻らないと平井さんも心配する」
そう言って箸を持つ彰二だが、友里亜が顔を上げると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「何だよ。どうした?」
「彰二君……ごめんなさい。ずっと謝りたかったの」
「えっ……なんで?」
「私、彰二君にひどい事したから……ずっと後悔してた。どうしてあんな事したんだろう。どうして裏切っちゃったんだろうって…」
彰二は箸を置いて話す。
「俺、謝ってもらったよ。あの時、謝ってくれただろ。もういいよ」
「でも……」
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