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「裏切ったって言っても、俺達、そんな深い関係じゃなかったし。手を繋いだぐらいで、彼氏ヅラしてた子供だったから、気にしなくていいよ」
皮肉でも何でもなく、本心でそう思っていた。初恋の相手に告白してOKしてもらった事に舞い上がって、手を繋いで、一緒に帰って遊んで、それだけで自分は彼女の彼氏なんだと浮かれていた。友里亜がどう思っていたのかなんて関係ない、自分の事しか考えていなかったのだ。
「俺が初恋だなんて言ったから……気にしてくれたんでしょ。ごめん。重かったよな…それより、友里亜の方が」
「初恋なの…」
「えっ…」
「私も…彰二君が初恋なの…」
「俺の事……」
「好きだったよ。だから後悔してるの。あの時には分からなかった事も今は分かるから、彰二君の初恋も私の初恋も、私が汚しちゃった。ずっと謝りたかった。そしてもう一度、友達からやり直せたらいいなって…」
「「好きだったならどうして」って訊いても、あの頃色々大変だったのは知ってるし……もういいよ」
「本当にごめんなさい…」
「うん。はぁっ、料理が冷める。食べようぜ」
「うんっ…」
食事をしながら2人で他愛もない話をする。会っていなかった時間の出来事を埋めるかのように話をして、昔のように打ち解けて来た時、友里亜が尋ねた。
「彰二君、今、彼女は?」
「えっ…彼女?」
「うん、いないの?」
「彼女はいないけど、好きな人はいるよ」
「えっ、好きな人……いるんだ…」
「うんっ、すごく可愛い人。一目惚れなんだ」
「へ、へぇ……そうなんだ。どんな人? 職場の人?」
「あぁ、うん。後輩なんだ。最終日に行く店の担当だから、午後から様子を見に来るよ」
「えっ……最終日の店って…」
「でも俺、振られたんだ。彼女には彼氏がいるから…」
「彼…氏…?」
「うん。でも俺はそれでもいいんだ。好きを諦めるより、マシだって思って……でも最近は……正直、つらい…」
「彰二君…」
「あっ、ごめん。なしなし。友里亜の方はどうなんだよ。モデルで綺麗だし、モテるだろ?」
「えぇ……わ、私は彼氏なんていないよ。好きな人はいたけど振られたし…」
「はははっ、何だよ。俺と同じかよ」
「そうだよ……同じ…だよ…」
「ん…? あっ! ヤバい。時間が!」
急いで残りを食べて、彰二が会計を済ませ駆け足で店に戻った。
奥の部屋のドアを開けると、マネージャーの平井と向かい合って座り、春風が話をしていた。
「あっ、榊先輩、お疲れ様です」
「あぁ、春風、お疲れ。もう来てたのか?」
彰二が春風と話している横で、友里亜は平井に口うるさく怒られていた。
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