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予定より早く、榊の所へ着いてしまった。榊と友里亜の再会が心配だったからだ。友里亜は榊にきちんと話が出来たのだろうか、謝る事が出来たのだろうかと考えていたら、居てもたってもいられず、伊織は花村に店を任せここへ来てしまったのだ。
伊織が店に着くと店の前には行列はなく、ただ店内に客が数人いるだけだった。店員に挨拶をして店の奥に入り、部屋のドアを開ける。
「お疲れ様です」
すると中には、店長の道枝と男性が1人向かい合って座っていた。
「あぁ、春風さん、お疲れ様です。様子を見に来たんですか?」
「あ、はい。あの……榊先輩は?」
「今、昼休憩に行っていますよ。もう帰って来る頃だと思いますけど」
「そうですか。ところでそちらの方は?」
YURIAのマネージャーである平井と名刺交換をし、榊とYURIAの2人は近くのカフェへ昼休憩に行っていると聞いた。
(あっ、2人で話をしに行けたんだ。よかった…)
道枝は店員に呼ばれて店頭に戻り、伊織は少し平井と話をしていた。
しばらくして部屋のドアを勢いよく開け、榊が店に戻って来た。
「あっ、榊先輩、お疲れ様です」
「あぁ、春風、お疲れ。もう来てたのか?」
「はい。少し早く着いてしまって」
そう2人で話していると、すぐ横でYURIAが平井に「戻って来るのが遅い」と怒られ、口うるさくあれこれ言われていた。
「春風、ちょうどいい。YURIAに挨拶しとけよ」
「えっ、あっ、そうですね…」
(そうだった。YURIAとは初対面と言う事になるんだ…)
伊織は上着のポケットから名刺入れを出し、名刺を1枚取り出す。落ち着いて自然に初めて顔を合わしたように、伊織はYURIAに声をかける。
「あの、初めまして。春風 伊織と申します。最終日の店舗を担当します」
ニッコリ笑顔でそう挨拶をすると、少しの間、伊織の顔をジッと見つめたまま友里亜は動かなかった。
「あ、あの、YURIAさん?」
(どうしたのかな? ここは、ほらっ、初めてって事で、挨拶をして)
伊織はチラチラと目で合図をして、友里亜に名刺を差し出す。
「あ、ごめんなさい。初めまして、YURIAです」
そう言って友里亜は、伊織の名刺を受け取る。
「あなたが最終日の担当の方……」
友里亜はそう言って伊織をジッと見る。
(えっ、なんだろ? 友里亜さんは知ってるはず…)
友里亜には、最終日の店舗担当が伊織である事は伝えてある。友里亜は知っているが、初対面の挨拶を装いあえて「最終日の店舗を担当している」と言ったのだが少し様子が変だ。
「もうそろそろ、店頭に出ないと…」
榊がそう切り出し、4人は店頭に向かった。YURIAと榊はテーブルの前に立ち、マネージャーの平井は2人の後ろに立つ。
「じゃ、榊先輩、私は少し様子を見させてもらってから帰りますね」
「あぁ、分かった。見送れないけど、気をつけて帰れよ」
「はい、ありがとうございます」
伊織は榊とYURIAに会釈をして、少し離れた所から自分のすべき事や、行列の誘導などを入念に見た後、花村の店に戻り報告をした。
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