初めてづくし

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「紅……」 「ん…?」 抱き合った後、ベッドに横になり伊織は津波に抱き着いて甘える。ただ触れたくて、ぎゅっと抱き締めて欲しくて津波の名を呼びすり寄る。津波は伊織をぎゅっと抱き締めて、静かに話す。 「ごめんな。最近忙しくて寂しい想いをさせていたな」 「うん……」 「ふふっ、でもこうして、伊織が甘えてくれるのは嬉しいな」 伊織はスッと顔を上げ、頬を膨らませ口を尖らせてスネたように言う。 「香水の匂い……ヤダ…」 「ん…? 香水?」 「うん……取引先の忘年会から帰って来たら、スーツに香水の香りがついてる…」 「あぁ……悪い。ラウンジにつれて行かれるんだ。そこの女性従業員が隣に座るからだな」 ラウンジがどんな所かと訊くと、津波は嫌がらず詳しく教えてくれた。落ち着いた雰囲気で広いソファー席があり、ドレスを着た女性従業員が数人一緒に座り、酒を作ったり会話をしたりすると言う。取引先の接待として利用される事も多く、仕事の話をする時は席を外すか、黙って静かにしている事もあると言う。飲んで騒いでいる時はたまに、女性従業員の方からすり寄って来たり触れて来たりする事があると言う。 「それって紅だから? 紅がカッコいいから?」 「いや、俺じゃなくてもあるんじゃないかな? 客を掴む為だろうしな」 「ふーん。それで、香水の匂いが移っているのか…」 「そうだろうな。気づいていなかった……ごめん」 「ううん。接待だから仕方ないって思ってる。でも…」 「でも…?」 「ヤダった……」 伊織は紅の胸に顔を埋めてしがみつく。 「ごめん。でも嬉しい……俺が触れるのは伊織だけ」 津波が伊織に覆い被さり、見下ろす。 「キスするのも、抱き締めるのも、抱くのも伊織だけだ。この先もずっと……ずっとだ…」 「紅…」 キスをして、もう一度抱き合う。今度は優しく愛情を伝えるように…。 翌日の25日クリスマスは、伊織がクリスマス料理を用意し、家でクリスマスを過ごす。クリスマスディナーの後ケーキを食べ、津波が買って来たと言うシャンパンを勧められ、伊織は少しだけ飲む。だが伊織はすぐに記憶が飛んだ。 翌日の朝は案の定、ニヤニヤした津波が昨晩の事を話す。津波の話によると、酔った伊織は津波に甘えキスをして、津波はそのまま遠慮なく抱かせてもらったと言った。酔った伊織の可愛さは反則だと言われたが、伊織には記憶がないのだからどうしようもない。 「可愛いかったなら、いいでしょ…」 スネたように言うと、津波は満面の笑みで言った。 「今度はお正月に見れるかなぁ…」 (また飲ませる気だ……) 12月27日から年末年始の休暇に入り、1月6日までの大型連休。『ルージュ』の店舗は31日から3日までが休みだ。 休暇に入った津波と伊織は年末年始に向けて、市場へ買い物に出かけ、高級食材を買う。2人で家の大掃除をして、お正月の飾りつけをした。そして31日、大量の高級食材を持って伊織の実家へ向かう。 母親には事前に連絡し、おせちは作らないよう言い、高級食材と共におせちのお重も持って行く。実家の冷蔵庫はあっという間に食材で埋まってしまい、31日の夜にはタラバガニの鍋をした。
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