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夏の罪
爆音とともに目が覚める。
「はっ……」
どうやら夢を見ていたようだ。昼寝から覚め、汗だくの身体を掛け布団の端で拭う間も、外の木陰では蝉が鳴いていた。
最近、やけに同じ夢を見る。赤紙が届いて招集が決まったせいだろう。昼前の台所では、銀シャリを炊く匂いがした。戦時下に、こんな贅沢ができるのは、誰かが戦地へ発つ時ぐらいだ。
「哲朗さん、千由里さんとこに、これ、お裾分けに届けてくださる?」
母が土間からおれを呼んだ。おれは寝乱れた浴衣をどうにか整え、お重を母から授かった。
「なるべく早くね」
「いってきます」
「帰りは気にしないでいいから、ゆっくりしていらっしゃい」
母の声を背中に聞き、ずっしりと重い風呂敷包みを抱え、おれは家を出た。
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