夏の罪

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 一町ほど歩くと、ちょうど家から千由里が出てきたところへかち合った。 「哲兄……」 「これ、お裾分け。母が持っていけって」 「どうもありがとう」  千由里はおれのだらしない浴衣姿を見ても笑おうともせず、憔悴していた。少し、一緒に歩きたいと懇願されたおれは、千由里と肩を並べ、より人気の少ない小高い山の上へと向かった。 「哲兄、あの、わたし……っ」  お重が重いだろうから、持とうと伸ばした手を、千由里の小さく柔らかい手が握った。昔から、おれと、もうひとりの幼馴染である秋兄の後ろをついて回っていた勝気なところのある娘が、泣き腫らした目をしていた。 「せ、戦争が終わったら……、帰ってきて……。終わったら……っ、わたしのもとへ……っ、お願いします……!」  千由里は兎のような目のまま、おれの身体へ身を預けた。お重がこぼれて風呂敷に土に付いてしまうのもかまわず、おれへと身を投げる。 「晢兄が好き……、待ってるから……っ」 「千由里……」  突然、飛び込んできた千由里を受け止めることができず、おれは女が泣くのを呆然と見下ろした。鳩尾から、憧憬とも嫌悪とも言い難い感情が湧き上がってくる。  おれは千由里の両肩に手をやり、そっと一歩下がると、身体を離した。 「……千由里。気持ちは嬉しいが、おれのことは忘れろ。おれを好きでいてくれるのなら、他の、もっといい男と一緒になれ」  その瞬間、千由里の顔面がくしゃりと縒れた。
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