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デートに誘ってみる
「1回ぐらいデートに行って来たら?このままじゃ、考えるもなにもないでしょ。」
学校の休み時間に美寿子にそう言われた。
デートか…。
「デートって、私から誘うの?」
こういうのって惚れている側からアプローチをするんじゃないのか。
「あっちが気が利かないから仕方がないでしょ。スマートに行動できるタイプだったら、こんなにぐだぐだしてないって。このまま1か月が終わっちゃっていいの?」
それは良くない気がする…。
もう既に半月が過ぎているのだ。
それでも英輔に対する気持ちは明確にならないのだから、思い切って二人で遊んでみた方がいい気がする。
「それに、あの子。大木君のことを好きなんじゃない?」
ちらりと美寿子が視線を向けた先には、英輔と可愛い女の子がいた。
あの子は野球部のマネージャーで、容姿と性格でちょっとした人気があるらしい。
「いや、あの子は誰にでもあんな感じだけれど。」
ニコニコと明るく笑っていてフレンドリーだ。
これが男の子に対してだけあんな対応だと女子から総スカンだろうが、どっちに対しても同じように振舞っていたので、気さくで明るい奴という評判になっている。
ただ、あんまり女の子に慣れていない男の子だと勘違いしてしまうかも知れない。
「全然焦らないのね。その割に完全に脈無しなわけじゃなさそうだし。」
美寿子はよく分からないという顔をしてそう言った。
私はちょっと考えてみた。
「うーん。だって、どう考えても私が英輔と一番仲のいい女の子だから…。危機感がないのかも。」
「そっか、幼馴染っていうポジションはこういう時厄介ね。でも、大人になったら幼馴染同士でも全然会わないなんて話よく聞くし、いつまでも特別なポジションにいられるなんて考えない方がいいわよ。」
その言葉は私も胸に刺さった。
そうして、私はある決意をしたのだった。
「水族館?お前、そんな所に興味あったっけ。」
英輔は不思議そうな顔をして言った。
そう私は彼をデートに誘ってみたのだ。
でも、全然なにも分かっていないっぽい…。
「ま、前からちょっと行きたいって思ってたんだよね。それに、このまま何もしないで時間が終わるのもアレだし、思い切って二人で遊んでみたら何か分かるんじゃないかと思って…。」
こ、断られたらどうしよう。他に同じクラスの人たちが来なさそうで、二人で行けそうな場所が思い付かなかったんだけれど…。
なんか彼の顔が段々見れなくなくて、俯いてしまう。
「え?!これ、ダメじゃね。」
そんな英輔の言葉に反応して、慌てて顔を上げた。
「多分、こういうのって俺から誘わなくちゃいけなかったやつじゃん。全然思い付かなかった。全然いつでも行ける。何時行く?」
その言葉にホッとして、結局次の週の日曜日に行くことになった。
そして、デートに誘うことに成功して、気が大きくなったので聞きたいことを聞くことにした。
「ねえ、英輔は私のどこが好きなの?」
すると彼は顔を赤くしてこう答えてくれた。
「他人に言われたことを一生懸命考えるところ。案外、行動力がある所。なんか恥ずかしくなってきたから、他は秘密。」
そんな英輔の言葉は私の胸を暖かくしたのだ。
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