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一瞬、ベッドに座る女がぎょっとした顔をした。
「あっ、202号室の佐江島です」
男が言い直したが、女の表情は更に強張る。
俺は何故そんな表情になるのかわからない。
男がローストチキンを頼み終えると、女はニコニコとした笑顔に変わった。
凄いな。スイッチの切り替えみたいだ。
「いや、まさかこんなことになるとはね。終電のこと、気を利かせられなくてごめん」
男がそう女の隣に座りながら謝るような素振りを見せる。嘘つけ。ヤバめの手帳を持ってきていたくせに。
「みーくんは悪くないよ。終電が十九時だって言ってなかったあたしのせいだし」
女の手がそっとなぞるように男の手と重なる。
あー、これはわざとだな。クリスマスだから、そういう感じに持っていこうとしたな。
この女は確実に経験者だ。しかも、悪環境を逆手にとる手練れだ。
「ゆい……」
「みーくん……」
早くも窓際タイムがやってくる。クリスマスでカップルがやることはやるのは俺でもわかる。
なんかヤバめの手帳のことはひとまず忘れておこう。経験者ならまあ修羅をら抜ける方法を知っているだろうし、ヤバさを感じたら念力(?)で物を倒して男を殴るくらいは出来るし。
「ルームサービスです」
が、ルームサービスが来た。ローストチキンが出来るのが速すぎないか?
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