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「待って、坂口君」
坂口君が足を止めた。
「私が1年生の時、私をからかっている男子に注意をしてくれたって本当のこと?」
坂口君が振り返り、私の目を見る。
「本を読むことを馬鹿にするやつを許せなかった。それから、好きになったやつを馬鹿にすることも」
坂口君はそう言い少し笑った。それは初めて見た笑顔だった。
「じゃあ、高校に行っても元気でな」
坂口君は去っていった。
1年生の時、私は本を読むことに夢中で、誰かが私のことを見ているなんて思っていなかった。だから、坂口君が図書室にいたことも気がついていなかった。
私があの時、少しでも顔をあげていたら、もっと早く色々なことに気がつけたかもしれない。坂口君への感情も変わっていたかもしれない。私はあまりにも狭い世界で生きていた。
私は坂口君に「ありがとう」と言っていないことに気がついた。急いで窓から校門を見る。坂口君が校門に向かって歩いている。
私は思わず走り出した。
その時、世界が少し広くなったように感じた。
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