卒業の日に

6/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「待って、坂口君」  坂口君が足を止めた。 「私が1年生の時、私をからかっている男子に注意をしてくれたって本当のこと?」  坂口君が振り返り、私の目を見る。 「本を読むことを馬鹿にするやつを許せなかった。それから、好きになったやつを馬鹿にすることも」  坂口君はそう言い少し笑った。それは初めて見た笑顔だった。 「じゃあ、高校に行っても元気でな」  坂口君は去っていった。  1年生の時、私は本を読むことに夢中で、誰かが私のことを見ているなんて思っていなかった。だから、坂口君が図書室にいたことも気がついていなかった。  私があの時、少しでも顔をあげていたら、もっと早く色々なことに気がつけたかもしれない。坂口君への感情も変わっていたかもしれない。私はあまりにも狭い世界で生きていた。  私は坂口君に「ありがとう」と言っていないことに気がついた。急いで窓から校門を見る。坂口君が校門に向かって歩いている。  私は思わず走り出した。  その時、世界が少し広くなったように感じた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!