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望花の家は、涼さんと合流して数分ほど歩いたところにあった。
広い庭が付いた一戸建てだ。庭は最低限の手入れしかされていないようで、ひどく物寂しい感じがした。
家に上がって、リビングのソファーに望花を寝かせた。毛布が見つからなくて、里奈が二階に取りに行った。
「膝枕して」
望花がねだると、涼さんは階段の方を気にする素振りを見せながらもそれに応じた。
「久々に里奈に会った感想は?」
涼さんの膝に頭を乗せて、望花が楽しそうに尋ねる。
二階から布団を持って降りてきた里奈が、密着している二人を見て、ショックを受けた顔をした。
「感想って言われても……」
涼さんがゴニョゴニョと口ごもる。はっきりしない男だ。
「可愛くなったでしょ、里奈。カレシもできたし」
「か、からかわないでよ」
里奈は会話に割りこむと、意を決したように近づいて、望花に布団を掛けた。
「ほら、よく見て。これが、恋してる女の子の顔だよ」
望花が涼さんのことをいたずらに揺さぶる。
「け、健人は、優しくしてくれるの?」
目を合わせずに涼さんが里奈に尋ねた。
「さっき、泣かされてたみたいだったけど」
「ち、違うんだってば」
里奈が慌てたように否定する。
「あれは、相談に乗ってもらってたっていうか……」
望花に布団を掛けて、こちらに後ずさってきた。
勢いがつきすぎてオレにぶつかって、バックハグをするみたいになった。
「そ、そっか。変な勘違いしてごめん。じゃあ、優しくしてくれるんだね」
涼さんが、ホッとしたようながっかりしたような、複雑な表情をする。
そんな涼さんの顔を、望花が面白そうに見上げている。
「りょ、涼くんこそ、望花と本当にお似合いだね。美男美女のカップルでさ」
里奈が、髪を耳にかけながら言った。
「そ、そうかな。俺がいないと望花ちゃん、一人ぼっちになっちゃうから……」
「何スか、それ」
思わず口を挟んだ。
「そばにいてやってるみたいな言い方ッスね」
「そんなつもりはないけど」
取り繕う涼さんの膝から、望花がむくりと身を起こした。
「アタシ、一人でも平気だよ」
ソファーの上で涼さんの方に向き直る。
「涼は、同情してアタシのそばにいてくれてたの?」
涼さんは慌てたように首を横に振った。
「違うよ。望花ちゃんを一人にさせたくないから……」
「好きだからって、言ってくれないんだね」
望花の目から涙がこぼれ落ちた。
「帰って」
顔を覆っている。
涼さんが望花のことを抱きしめた。
「ごめん。好きだよ。望花ちゃんが好きだからそばにいるんだよ。そうじゃなきゃ付き合わないよ」
何度も謝って、深く抱きしめ直している。
反吐が出そうだ。
「わ、私、邪魔みたいだから帰るね」
里奈が鞄を拾い上げてジリジリと玄関の方へ後退する。
「あ、ああ……」
涼さんが呻くように応じた。
追いかけたくてたまらないという顔をしている。
望花が涼さんの腕から抜け出した。
「涼も、今日は帰って。一人になりたい」
駄々っ子みたいに口を尖らせている。
「そ、そっか。じゃあ、とりあえず帰るね」
涼さんはあっさりと立ち上がって、足早にリビングを出ていった。
仮にもカレシだろうのに、ずいぶんと薄情だ。
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