お前、あんな奴好きなの?

3/4
前へ
/59ページ
次へ
 望花の家は、涼さんと合流して数分ほど歩いたところにあった。  広い庭が付いた一戸建てだ。庭は最低限の手入れしかされていないようで、ひどく物寂しい感じがした。  家に上がって、リビングのソファーに望花を寝かせた。毛布が見つからなくて、里奈が二階に取りに行った。 「膝枕して」  望花がねだると、涼さんは階段の方を気にする素振りを見せながらもそれに応じた。 「久々に里奈に会った感想は?」  涼さんの膝に頭を乗せて、望花が楽しそうに尋ねる。  二階から布団を持って降りてきた里奈が、密着している二人を見て、ショックを受けた顔をした。 「感想って言われても……」  涼さんがゴニョゴニョと口ごもる。はっきりしない男だ。 「可愛くなったでしょ、里奈。カレシもできたし」 「か、からかわないでよ」  里奈は会話に割りこむと、意を決したように近づいて、望花に布団を掛けた。 「ほら、よく見て。これが、恋してる女の子の顔だよ」  望花が涼さんのことをいたずらに揺さぶる。 「け、健人は、優しくしてくれるの?」  目を合わせずに涼さんが里奈に尋ねた。 「さっき、泣かされてたみたいだったけど」 「ち、違うんだってば」  里奈が慌てたように否定する。 「あれは、相談に乗ってもらってたっていうか……」  望花に布団を掛けて、こちらに後ずさってきた。  勢いがつきすぎてオレにぶつかって、バックハグをするみたいになった。 「そ、そっか。変な勘違いしてごめん。じゃあ、優しくしてくれるんだね」  涼さんが、ホッとしたようながっかりしたような、複雑な表情をする。  そんな涼さんの顔を、望花が面白そうに見上げている。 「りょ、涼くんこそ、望花と本当にお似合いだね。美男美女のカップルでさ」  里奈が、髪を耳にかけながら言った。 「そ、そうかな。俺がいないと望花ちゃん、一人ぼっちになっちゃうから……」 「何スか、それ」  思わず口を挟んだ。 「そばにいてやってるみたいな言い方ッスね」 「そんなつもりはないけど」  取り繕う涼さんの膝から、望花がむくりと身を起こした。 「アタシ、一人でも平気だよ」  ソファーの上で涼さんの方に向き直る。 「涼は、同情してアタシのそばにいてくれてたの?」  涼さんは慌てたように首を横に振った。 「違うよ。望花ちゃんを一人にさせたくないから……」 「好きだからって、言ってくれないんだね」  望花の目から涙がこぼれ落ちた。 「帰って」  顔を覆っている。  涼さんが望花のことを抱きしめた。 「ごめん。好きだよ。望花ちゃんが好きだからそばにいるんだよ。そうじゃなきゃ付き合わないよ」  何度も謝って、深く抱きしめ直している。  反吐が出そうだ。 「わ、私、邪魔みたいだから帰るね」  里奈が鞄を拾い上げてジリジリと玄関の方へ後退する。 「あ、ああ……」  涼さんが呻くように応じた。  追いかけたくてたまらないという顔をしている。  望花が涼さんの腕から抜け出した。 「涼も、今日は帰って。一人になりたい」  駄々っ子みたいに口を尖らせている。 「そ、そっか。じゃあ、とりあえず帰るね」  涼さんはあっさりと立ち上がって、足早にリビングを出ていった。  仮にもカレシだろうのに、ずいぶんと薄情だ。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加