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「いや、何でアンタだけ残ってんの?」
立ったままのオレを見て、望花がドン引きするような目をした。
「ひどいな、おぶってやったのに」
「頼んでないし」
「はは、そうだった。オレがおぶわせてもらったんだったな」
オレが近づくと、望花は防御するみたいに布団を口元まで被った。
「お前、あんな奴好きなの?」
泣いたのにはビビった。
「あいつ、里奈しか見えてねーだろ。虚しくねーのかよ」
しゃがんで、望花と目線を合わせる。
泣いた形跡は全くない。普通、本気で泣いたら目とか赤くなると思うけど。
「だからいいんじゃん」
目が笑っている。
さっきのは嘘泣きだったのだろうか。だとしたら、大した女だ。
「あんたこそ、里奈のこと好きなわけ?」
逆に問い返してくる。
「気になる?」
「別に」
望花がオレから目を逸らして素気なく答える。
「ただ、里奈をからかってるんだったらやめてあげてよ。冗談通じないんだから、あの子」
「へえ?」
意外だった。
「里奈のこと嫌ってんのかと思ってた」
望花は、里奈と一緒にいると、苦しそうな顔をするから。
「もう、いい加減帰ってよ」
追い払おうとしてくる望花のおでこに手を当てた。じんわりと熱を持っている。
望花が抵抗しないから、そのまま彼女の頬に指を這わせた。
すべすべで柔らかい肌に、タガが外れそうになる。
彼女が口元まで持ち上げていた布団がすとんと滑り落ちて、オレは我に返った。
見るとぐったりしている。病人のくせに人を弄んで遊ぶからだ。
「寝てろ。何か飲み物持ってくるからよ」
立ち上がって台所に行った。
冷蔵庫の中はほとんど空っぽで、全く生活感がない。棚に大量のカップ麺が並んでいるだけだ。
そりゃあ、身体も壊すな。
「おい、何か買ってくるから、鍵貸しーー」
望花のところに戻ると、布団にくるまって震えていた。
「寒いのか?お湯沸かしてこようか」
「ほ、ほっといて」
声まで震えている。
「ほっとけるかよ」
布団ごと彼女の身体を抱きしめた。
「何でこんなんなってんのに強がんだよ」
柔らかい髪からシャンプーの匂いがする。触れた頬が、驚くほど熱い。
「何なの……」
望花が苦しそうな息遣いで呟く。
もう黙っとけよ。
「アタシ、アンタに恨まれるようなことした?」
ここまでされてもまだオレの気持ちに気づかないのか。
呆れるくらい、自分のことには疎いんだな。
「したといえば、したな」
初めてキスをされた日から、オレはお前のことが、憎くて、許せなくて、他に何も考えられないくらい、愛おしくてたまらないんだ。
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