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「里奈ちゃんといてつまんないなんて、俺は思ったことないけどな」
十歩くらい黙って歩いた後、涼くんがそんなことを言った。
「あれじゃないの?里奈ちゃんにカレシができたから、気を遣ってるつもりなんじゃないの、望花ちゃんは」
私のために、理由を考えてくれていたのだ。
「そうなのかな……」
いったんそれを受け止めた。望花がよそよそしくなったのは、それよりもずっと前からだけど。
「望花、私と過ごすより涼くんと過ごす方が、楽しいんだろうな……」
そう呟きながら、自分の下心を自覚して、自己嫌悪に陥っている。
そんなことないよ。そう涼くんに言ってほしいのだ。優しい言葉を期待しているのだ。
「いや、望花ちゃんは俺といてもつまんないと思うよ」
「え、何で?」
あり得ないと思って涼くんを見上げると、彼は苦笑いを浮かべて頬を掻いた。
「何でって言われても……」
目が合ってしまって、慌てて俯く。
「み、望花は、涼くんに夢中でしょ。だって、涼くんのこと、よく嬉しそうに喋ってるよ。付き合うことになったんだって打ち明けられた時なんて、すっごく幸せそうだったよ」
それは夏休み明けだった。
私が望花の席に話しかけに行くと、望花は珍しくニコニコと出迎えて、私に言った。
『アタシ、涼と付き合ってるんだ』
ああ、そうだ。
あの時、望花の斜め後ろの席で、健人も驚いた顔をしてたっけ。
望花は全部持っていってしまう。
しょうがない。女の私から見ても、望花は魅力的な女の子だ。
「そっか」
涼くんは、困ったような顔をした。
照れたのだろう。そりゃそうだ。カノジョが外で惚気ているなんて聞かされたら、可愛くてたまらないだろう。
「涼くんはいつから望花のこと好きだったの?うちに遊びにきてた頃から?あ、もしかして望花に会いたくて遊びに来てたの?」
落ちこむ気持ちを隠したくて饒舌になった。
いっそ、私に思い知らせてほしい。望花のことが大好きで、私なんかが入り込む余地なんてないのだと。
「あ、う、それは、違う……」
涼くんが歯切れ悪く否定した。
そんなの、肯定しているようなものだ。
「なんだ、そんな前から好きだったんだ。望花、小さい頃から可愛かったもんね。私なんか、引き立て役みたいな?よく男子に手紙渡してほしいとか頼まれてたもん。望花ったら読みもせずに捨ててたけど。もしかして望花もあの頃から涼くんのことーー」
「やめてくれ」
涼くんに強い口調で制されて、泣きそうになった。
喋ってないと、どんな顔をしていいのか分からない。
「そんな風に自分のことを卑下するな。里奈ちゃんだって……」
そこで涼くんは言葉を切った。
私だって、何?
意味深なことを言うのはやめてほしい。勘違いしてしまうから。
「と、とにかく、自分を引き立て役とか言うもんじゃないよ。里奈ちゃんのことが好きな人だっているんだから」
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