9人が本棚に入れています
本棚に追加
涼くんの大学
〈里奈’s vision〉
「何で……」
涼くんがいるなんて聞いてない。
「いいから」
望花が私を涼くんの隣に座らせる。
涼くんが近すぎる。
「アタシ、涼と別れたから」
「え、わか、え?」
涼くんと別れた?それって。
「健人と付き合うために?」
「何言ってんの。健人は里奈と付き合ってんじゃん」
「いや、昨日健人に別れようって言われたんだけど……」
厳密には、付き合っているふりをするのをやめよう、だったけど。
私の言葉に、望花は明らかな動揺を見せた。彼女の白い肌が紅潮していく。こんな望花、初めて見た。
「り、里奈ちゃん、健人と別れたの?」
隣で涼くんが尋ねてくる。こくりと頷いた。
「え、それは、大丈夫なの?里奈ちゃんは」
心配してくれる。本当に涼くんは優しい。
「うん。もともと、付き合ってるふりしてただけだから」
正直に打ち明けた。
口止めされてないし、望花のためにも本当のことを伝えた方がいいと思った。
「な、何それ。何でそんなこと」
涼くんが混乱している。
「望花と涼くんを別れさせるためだって、言ってた」
望花のために言ったのだけど、涼くんが「は?」と怒った声を出した。
「やっぱりあいつ、望花ちゃんのこと……。そのために里奈ちゃんを利用したのか。健人のこと、ここに呼べる?」
怒ってるみたいだ。
「健人、風邪引いたみたいで学校休んでたし、呼ぶのは難しいかも」
「そ、そっか」
「涼くんは、握りしめた拳を開いて、せわしなく自分の膝をさすった。
「あ、寒い?涼くんも風邪移っちゃった?」
「え、いや、これは、何となく……」
「別れさせて、どうするつもりだったって?」
望花が私たちのやりとりに割って入ってきた。
顔の色は元に戻っているけど、耳がまだ赤い。
「わ、分かんないけど、多分健人は望花のこと」
「それで、何で里奈は協力したの?」
私の言葉を遮って、望花は問いを重ねた。
「や、ち、違うの。私、望花を傷つけるつもりなんて」
弁明しようとした私を、望花は優しい顔で見た。こんな表情も初めて見るかもしれない。
「責めてるわけじゃないよ。ただ、何で健人は、里奈を協力相手に選んだんだろうね?」
「そ、それは、私が望花と仲がいいからじゃないかな」
利害が一致してるから、なんて、涼くんの前で言うわけにはいかない。
「まあいいけど。アタシ、まだ体調万全じゃないし、帰る。二人はゆっくり話してけば」
望花は、私たちを残して、足早に公園を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!