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家庭教師の申し出
〈涼’s vision〉
カフェテリアで里奈は、夕飯の時間が近いことに躊躇いを見せながらも、ソフトクリームを頼んだ。純粋な子に悪い遊びを教えているみたいな背徳感を覚えて、ゾクゾクと興奮している。自分にこんな変態な部分があるなんて、知らなかった。
里奈は、食べながらずっと望花の話をしている。俺はさっきから、先ほどヒヨってうやむやにしてしまった数学を教える申し出を、持ち出すタイミングをうかがっているのだけど。
「本当に望花ちゃんのことが好きなんだね」
そんな里奈が可愛いと思って言ったら、
「あ、ごめんなさい。涼くん別れたばっかりなのに」
と、申し訳なさそうな顔をさせてしまった。
「いやいや、気にしないで。昔から仲良かったなって微笑ましく思っただけだから」
両手を振ってフォローする。
本当に、里奈とずっと一緒にいられる望花が羨ましい。
「あれ、相川くん?」
不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと、女たちがカフェテリアに入ってきたところだった。中に、俺の同期が何人かいる。
「妹さん?可愛い」
そのうちの一人が、里奈のことを指して訊いてきた。
「この子は昔からの知り合いなんだ。何してたの?こんな時間まで」
里奈のことを可愛いと言うから、嬉しくなって、つい質問を返してしまった。さっさと切り上げて里奈ともっと話したいのに。
「普通にサークル。文化祭でやるダンスの練習してた」
ほら、と女は羽織っていた上着を脱いで、ダンス衣装を見せてきた。お腹が露出していて冷えそうだ。
「相川くんも見にきてよ。うちらもサッカーの試合観にいくからさ」
チラシを渡された。全く興味が湧かなくて、返しに困った。
「あー、うん。時間あったら行く」
そう濁したら、女たちは顔を見合わせて笑った。
「やだ、絶対行かない人の言い方じゃん」
「相川くんって、変なとこ真面目だよね」
「前から気になってたんだけど、これってパーマかけてるの?」
俺の髪に触れてくる。何で女ってこう無遠慮に触ってくるのだろう。
「いや、俺、癖っ毛で」
「えー、そうなんだ、可愛い。染めてはいるんでしょ?」
「いや、この色も元々」
「そーなの?ハーフとかじゃないよね?」
「うん」
めちゃめちゃ触ってくる。どうしよう。
「り、里奈ちゃん、そろそろ帰ろうか」
この場を離れたくて声をかけたら、里奈はビクッと肩を跳ねさせた。何だか怯えた顔をしている。
「私、一人で帰れるよ。涼くんはもうちょっとゆっくりしてったら?」
何でそんなこと言うんだよ。
「そうそう、リョーくんはもうちょっとゆっくりしてったらー」
女たちが里奈の真似をしてくる。鬱陶しい。
「いや、俺も帰るよ。暗くなってきたし家まで送る」
優しーとかごちゃごちゃ言っている女たちを振り切るようにして、その場を後にした。
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