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意図的にスライディングしてきた奴のことを、オレは恨んでいない。
オレは昔から、一部の男から徹底的に嫌われた。態度が生意気に見えるのらしい。
心当たりがないわけではない。男三人兄弟の真ん中で、親から期待も干渉もされずに育ったオレは、努力している姿を人に見られるのが嫌いだった。サッカーの練習は、一人で誰にも見られない場所でやっていた。そして、みんなの前では、練習しなくてもできる奴、みたいに振る舞った。
努力をアピールする奴のことを軽蔑していた。それをはっきりと口に出したことはないつもりだけど、顔や態度に出てしまっていたのだろう。試合中にわざと蹴られたり引っ掻かれたりするのは序の口で、ひどい時は人目につかない場所に連れて行かれて、暴力を振るわれたり、泥水をぶっかけられたりした。
オレの膝を壊した同級生の男は、真面目な奴だった。陰でオレに嫌がらせをしたこともなく、むしろオレがいじめられているのを止めてくれたこともある。あの時あいつは多分、追い詰められていたのだ。
大会前、あいつは調子が悪かった。人一倍練習していたと思うけど、結果が伴わなくて、大会のメンバーに残れなかった。
練習試合で、つい魔が差したのだろう。オレを目がけてスライディングしてきた。
その後あいつは、罪悪感に耐えられなかったのか、周囲の目に怯えたのか、それともメンバーに選ばれなかったからか、膝を複雑骨折したオレが入院している間に、サッカー部を辞めていた。
オレがサッカーに夢中になったのは、親父に見て欲しかったからかもしれない。
兄貴も弟の直人も成績が優秀で、兄弟の中でオレだけが普通だった。それで親父は早々にオレに見切りをつけた。ただ、サッカーの試合だけは毎回見にきてくれた。オレが試合で活躍した日は上機嫌だった。
中学最後の大会も、親父は楽しみにしてくれていたのかもしれない。膝を怪我して大会に出られなくなったオレに、『お前は大事な時にヘマをするんだな』と失望の目を向けた。
その時、心が折れてしまった。あんなに熱中していたサッカーに、少しも興味が持てなくなった。
ポッカリと空いた穴に望花が住み着いて、怪我が治って走れるようになっても、オレが再びボールを蹴ることはなかった。
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