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ねえ、キスして?
〈健人’s vision〉
「え?」
オレは耳を疑った。
「えっと、オレが昨日言ったことって……」
公園の端っこで、里奈がオレにキスをねだってきたのだ。
今日の里奈は抜かりなかった。
オレと付き合っていることの信憑性を持たせるために、帰り際にわざわざ望花のところに行って、オレと一緒に下校することをアピールした。
望花は、そんなオレたちを見てかえって怪訝そうだったけど、まあ、そこまではいい。
けど、キスをするのは意味がわからない。
少なくとも、望花や涼さんが見ていない場所では。
「分かってるよ。分かった上で言ってるの」
「えっと、オレのこと好きとかそういう……」
「自惚れないで」
ピシャリと否定してくる。
安心した。
「いいじゃん別に。減るもんでもないし」
男みたいなことを言ってくる。
優等生の里奈らしくない。
「どうした?何かあった?」
さすがに心配になった。
「つべこべ言わないでキスしてよ」
目が潤んでいる。オレが泣かしたのか?
「いや、でも、好きでもないのにさ」
「あっちは、やることやってるよ」
「何だよそれ」
里奈の目から涙があふれだして、頬を伝った。
「昨日、望花から電話があったの。そしたら、涼くんの声が聞こえて。何か、喘ぐみたいな」
上等じゃねーか。
声には出さなかったけどそう思った。
澄ました顔して、望花はちゃんと俺の行動に対して反応を返していたのだ。
「それさ、わざと里奈に聞かせたんだよ」
しくしくと泣く相手に、オレは優しく言い聞かせた。
「普段からそういうことしてるんだったら、わざわざ電話して聞かせてこねーって」
涼さんが高校生に手を出すとも思えないしな、と心の中で呟いた。
そもそも、涼さんは里奈のことが好きなのだ。こじらせるほどに。
「私って、そんなに魅力ない?」
里奈は涙の溜まった目でオレを見上げた。
「キスもできないくらい、ダメ?」
「あのな」
レンガの壁に手をついて、オレは壁ドンというものを、おそらく人生で初めてやった。
「男は、好きじゃない女相手でも勃つんだよ。あんまり煽んなよ」
里奈の顎を持ち上げる。
「それとも、ヤリたいのか?」
怯えた目をして、ブルブルと首を振ってる。
ちょろいな、里奈は。
悪いけど、次のキスは望花にすると決めてる。
情けないファーストキスの仕返しだ。
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