お前、あんな奴好きなの?

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お前、あんな奴好きなの?

〈健人‘s vision〉   望花は結局、5時間目まで保健室にいた。 『家に電話しても誰も出ないし』と困り果てた様子の保健室の先生は、オレたちが家まで送ると聞くと、安心したようだった。  保健室のベッドで眠る望花は、いくらか顔色に赤みが戻っていた。  本当に綺麗な顔だ。  今朝、高校の駐輪場の横で倒れてしまった望花を、オレが保健室まで運んだ。  鍵は開いていたけど、先生はまだ来てなくて、ベッドの上でスースーと寝息を立てている望花に、よほどキスしてやろうかと思った。  でも、何とか思いとどまった。  こんな風に仕返しをしても意味がない。オレは、この顔が歪むのを見たいのだ。 「帰れそう?」  里奈が望花を起こして尋ねた。  望花は、うっすらと目を開けてこちらを見上げてきた。オレを見てるのかと思ってドキッとしたけど、オレの後ろの壁時計を見たようだ。 「帰る。涼来るし」  気だるそうに身を起こしている。 「お、送るよ」  里奈が緊張した面持ちで言った。  元から送るつもりだったのに、涼さんを意識してしまったのだろう。 「んー、大丈夫」  ベッドから降りた望花が、2歩歩いたところでよろける。 「送るから。途中で倒れたら大変だし」  里奈が望花の身体を支えて言い張る。 「そうだね」  望花は、何か悪巧みをするような顔をして笑った。 「里奈も久しぶりに涼に会いたいでしょ」 「そ、そんなつもりじゃないよ。私、健人いるし」  慌てたように否定する里奈を、望花は馬鹿にするような目で見た。 「それがどうしたの?昔から可愛がってくれる近所のお兄ちゃんに、久しぶりに会いたいでしょって言っただけなのに。むしろ、カレシできたって報告すれば良くない?」  本当に悪い子だ。  里奈の気持ちを知ってて、弄んでいる。 「ほら、乗れよ」  望花に背を向けてしゃがんだ。 「は?余計なお世話なんだけど。アンタ、授業が終わる度に来てたでしょ。気持ち悪い」 「何だ、起きてたのか」  行く度にぐっすり眠っていると思ったけど。 「起きてないけど、アンタの香水が……」  思わず顔がにやけた。 「へえ?オレのこと考えた?」 「馬鹿じゃないの?とにかく自力で帰れるから、アンタまで来なくていい」  やっぱり、望花はオレの前で可愛い反応をする。 「4人集まったら楽しそうだと思ったけどな。まあ、お前は病人だし、次の機会にしとくか」  これだけ憎まれ口を叩く元気があるなら、里奈が付いててやれば帰れるだろう。  そう思って立ち上がった。 「アタシも、楽しそうだとは思うけど」  望花は小さな声で呟いた。 「アンタはダメ。……邪魔」  オレを拒絶する言葉なのに、なぜだろう、ゾクゾクする。 「オレのこと、意識しちゃってる?」 「誰が」  噛み付くように望花が否定した。 「そうなの?」  里奈が真剣なトーンで尋ねる。 「望花、健人のこと好きなの?」 「里奈まで。そんなわけないでしょ。アタシには涼がいるんだから」 「そっか、そうだよね」  里奈は少し落ちこんだようだった。  単純な女だ。口では何とでも言えるのに。 「分かったよ。やっぱおんぶさせてあげる。アンタのことなんか何とも思ってないから」  吹き出した。 「させてあげるって」  まるでオレが望花に触りたくてしょうがないみたいだ。  まあ、事実そうだけど。 「ありがたく、させていただきます」  そう言って、望花に再び背を向けた。
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