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オレたち、付き合い始めたから
〈望花’s vision〉
「え?」
アタシは耳を疑った。
「何で?」
里奈と健人の顔を交互に見る。
やっぱり信じられない。この二人が付き合い始めただなんて。
「何でって言われても」
里奈は少し気まずそうに髪を耳にかけた。ストレートで艶のある黒髪が、はらりと耳を流れ落ちる。
まだ誰も来ていない高校の教室。
登校するなり彼らに捕まったのだ。いったい何時からアタシのことを待ち伏せしていたのだろう。
「オレから告ったの。前から気になってたんだよね」
健人がヘラヘラと言った。
この男は苦手だ。関わると調子が狂う。
里奈は、アタシの小学校からの同級生で、学級委員とか引き受けちゃうしっかり者。
健人は、中学からの同級生で、いつもニヤニヤしてて何考えてるのかよく分からない変な奴。
双方ともタイプだとは思えない。
「何か弱みでも握られてる?」
里奈に尋ねたら、健人がフハッと笑った。
「何?気になるの?オレらのこと」
「そりゃあ、里奈は友達だから」
嘘だった。
里奈とのことを友達だなんて、もう思ってない。むしろ嫌いだ。アタシのことをできない子だと決めてかかって、鬱陶しく世話を焼いてくる。
「弱みなんて握られてないよ」
里奈がアタシの問いに対して否定した。
「それより、今日から冬服だよ。何で夏服で来てるの?昨日の夜メールしたのに」
そう、こんな具合に。
『ちゃんと冬服着てくるんだよ!』
里奈から昨晩そんなメールが来て、アタシはうんざりして、敢えて夏服で来たのだ。
だから、アタシは動揺している自分に戸惑っている。二人が付き合おうが何しようが、どうだっていいはずなのに。
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