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異世界――大金星(ヴィーナス)
旅商人の文化で栄えた異世界。
大金星と呼ばれたのはいつ頃であったのか、群島だらけの北の海域と巨大な南の大陸。行商たちが北群島と南大陸を往来してこの異世界の名を市町村に広めた。人々は行商にお陰で繁栄し交易路は今も盛んであった。
北群島と南大陸の間にある孤島にある漁村。
〓〓素材提供元:もえ様
ここには鮮魚を求めて南北から様々な行商が訪れる。観光産業というものはないが漁業のみがこの村の支えである。
漁村の中央の市場には露店が建ち並び、魚が売られている。それを行商たちが買いつけにくる。ある露店で捕った魚を売っている親子がいた。
「安いよ。安いよ。フェスシーン市傘下の漁村は両国海でも指折りの漁業が盛んだよう♪」
ハチマキを頭に巻いて黒いエプロンをした男性が手を叩きながら新鮮な魚を道行く行商たちに宣伝していく。ある行商の男性が足を止める。そして店主の男に質問してきた。
「その魚。おいくらかね? 南大陸のフェスシーン市の大交易館で売りさばきたいんだ」
行商は鮮魚で儲けたい口なのだろう。この漁村の港に停泊してある大きな木造船がある。それは交易品運搬船と呼ばれて中には人造の冷凍洞窟がある。3カ月間は有効な人造冷凍洞窟でそこに買い付けた鮮魚を貯蔵しておくのだろう。
店主と行商は値段の折り合いをつけて大量に買い付ける何%とか値引きしてくれと交渉する。それで店主がある程度の範囲で納得すると、この市場を歩いている腕章をつけた男性に話しかけた。
「風紀傭兵さん。行商さんと商談が成立したからフェスシーンの商工会議所への配送の手続きを頼むよ」
「承った……」
風紀傭兵という赤い腕章をつけた私服の男性が敬礼して請け負う。行商は露店で手続き用の書類を書く。そして財布を取り出して銀箔製の紙幣を数枚を店主に手渡す。店主はそれで精算を行い。
「おつりの50handleだ」
金貨を数枚、行商へと手渡すのだった。行商が買い付けた魚の商品は後程、この漁村の治世を担う商工会議所から配送担当の風紀傭兵が派遣されてくる。
その様子を見ていた黒い長髪の娘が父親に訊いた。
「父殿。風紀傭兵とは何ぞや? 娘害(自分のこと)は気になるぞや?」
白い私服に黒いエプロンをした店主見習いの娘チョーアン・バーテンダー。朝2時間、夕方2時間はこの漁村の政庁舎である商工会議所の施設内にある商学校に行って授業を受ける。そして真昼間は自宅で自営業の手伝いをしているのだ。
「娘よ。この世界――大金星を政治的に纏めている商会の連合体である商工会議所。彼らが雇った期間雇用公務員だ。軍事訓練を受けて交易の安全保障を担う。ただ、剣や盾で戦うだけでなく、各市の雑務もこなす。この漁村は南大陸の4大都市の1個、フェスシーン市の庇護下にある。商工会議所は終身雇用を嫌っていてね。公務員の大半はあくまで期間雇用なんだ」
この異世界は行商によって繁栄を遂げている。行商たちその仕組みを作り、人はその仕組みを教授している。
「娘害は父殿のような立派な男性を探して立派なお嫁さんになるぞや!!!」
「チョーアン!! 父は嬉しいぞ♪ 母に先立たれて父にはお前にしかいない!!! 盟主都市からここに越してきて良かったよ!!!」
盟主都市とはこの大金星の中で政治的中心となる大都心である。そこで大きな借金をかかえた家族はこの漁村に移住してきてなんとか多額の負債を返済して家業を安定させた。
親子が談笑を楽しんでいると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
「博徒が来たぞーーー!!!!」
「なんだと!!!」
活気づいていた魚市場が一気に騒乱になった。奥の方から1人の青年が大きな鯛を抱えて逃げている。それを巡回中の風紀傭兵が追いかけて取り押さえる。
「は、話してくれええええ!!!! こ、これには50万handleの価値があるんだ!!!! そしたら俺は返済できて人生をやり直せるんだ!!!」
男は何かを喚いている。それに風紀傭兵は叱責する。
「博徒が偉そうに何を言うか!!! 違法な賭博は盟約で禁じているのは知っているだろう!!! 人里の商品を強奪し、それを換金して私腹を肥やすとは言語道断!!!」
「仕方ねえじゃないか!!! 俺たち博徒には物々交換しか返済手段がないんだからよう!!!」
「そこは未曾有の空と海と大地で好き勝手にやってくれ。そこで拉致しようと盗っ人をしよと商工会議所は裁かない。そこは治外法権だからな」
風紀傭兵は博徒という男を絶たせて漁村の外へと追い出そうとする。
「父殿、娘害はあれが気になる。博徒とは何ぞや?」
「チョーアンよ。お外のことは干渉しちゃいけない。市街地まで行くときは外出安保券を購入したときだけだ」
「そうぞや。父殿の言う通りぞや。夕方の商学校が始まるまでまだ時間があるから漁村の裏手の方に行ってくるぞや」
チョーアンは露店の手伝いを後回しにし、黒いエプロンを外して折りたたみ父親に預けて立ち去る。チョーアンの背を見送りながら父親は溜息をつく。
「ようやく……社会で……働いてくれるようになって……父は安心したよ」
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
漁村の最果て、城壁がないが立札が立っている。そこには立ち入り禁止と書いてある。風紀傭兵が1時間に2回は巡回している。風紀傭兵の姿を見ないことを確認したチョーアンはその立札を超えた。その立札から後方に行くことは商工会議所の定める御法度で禁じられている。そこから先つまり島の半分以上は未曾有の空と海と大地と呼ばれている区域となっている。
「商学校の先輩から島の未曾有の空と海と大地には博徒がたくさん徘徊していると聞いたことがあるぞや。博徒がどんな奴が知りたいぞや」
大金星の市町村間を往来するときは外出安保券を購入しないといけない。それがあれば、無事に往来ができるのだ。しかし外出安保券はかなり高額である。ゆえに行商たちは自ら武装するか風紀傭兵に護衛護送を頼むのだ。風紀傭兵は期間雇用公務員であるため、副業で無職期間を穴埋めするための貯蓄を行う。未曾有の空と海と大地を単身で歩くのはとてつもなく危険とされているからだ。
漁村を出て島の未曾有の空と海と大地の区域を歩く。
「何で島はもっと広いのに漁村は島をもっと開拓しないんぞや? 山々が生い茂ってもったいないぞや?」
チョーアンは世間を理解していなかった。未曾有の空と海と大地を歩く無知な未成年を放置しておくほど、この未曾有の空と海と大地を闊歩する野性の者どもはドジではない。
「お嬢ちゃ~~ん、見~~つけた~~♪」
「おじちゃん達と一緒についてこない? 楽しいところに連れて行ってあげるよ~~」
下卑た笑いの悪漢どもがチョーアンを包囲した。総勢で4名だ。その中に先ほど漁村の市場で万引きを行った博徒も混ざっていた。
「あんたたちは何ぞや? あ!!! あんたはさっき、漁村に侵入して万引きした鯛泥棒!!!」
「うるせーー!!! そもそも現在、不法侵入しているのはお前じゃないか!!!」
「へ? 意味が分からないぞや?」
この大金星。市町村以外の地域全域は未曾有の空と海と大地。そこに不法侵入しているとは状況が把握できていない。確かに漁村の最果ての立札には未曾有の空と海と大地への立ち入り禁止と書かれている。
「この未曾有の空と海と大地は、商工会議所から賭博帝国宿舎が借地として借りているんだ。つまり賭博場の借地ってもんだ。お嬢ちゃんは借地に不法侵入――不法滞在しているってわけさ♪」
チョーアンには理解できないが博徒どもに指をさして述べる。
「今から娘害が漁村へと逃げて風紀傭兵に通報してお前らを逮捕してもらうぞや!!!」
「お嬢ちゃんは状況を理解できていないようだね♪ 不法侵入。ここでは盟約は適用されない治外法権。外国なの♪」
「こんな可愛いお嬢ちゃんを拉致ってよ。ホテル王室に納付したらよ。債務が帳消しになってお外に帰れるじゃん♪」
「ま、分け前は後で話そうで♪ そうだ契機ずけにガチャるか?」
「おいおい止めとけよ!!! しくったら債権が増えるじゃねえか!! 武装した行商でもないし、護衛の風紀傭兵でもないんだ。取り押さえるだけじゃねえか!!」
「いいじゃねえか♪ ぞろ目が揃ったら債務も帳消し♪ さらに大金が俺たちに転がり込むって寸法よ♪」
1人の博徒が「スロットオープン!!!」と叫ぶ。すると、上空からスロットマシンが落ちてくる。それはカジノで有名な都市にあるとされる遊戯の駆動細工だ。1人の博徒は懐から金貨を取り出した。それは商工会議所の通貨――handleである。
スロットマシンは金貨を取り込むと、回り始めた。3か所のスロットが高速回転する。すると、スロットマシンから歌が流れる。
「ヤーレン♪ソーラン♪ソーラン♪ ヤレン♪ ソーラン♪ソーラン♪ ハイハイ ♪
おやじ♪大漁だ昔と違う♪ 獲れた魚は♪おらがものチョイ♪
ヤサエンエンヤ♪ーーーァサーァ♪のドッコイショ♪ ハードッコイショ♪ドッコイショ♪」
聞いたことのない歌だった。歌が終了すると、スロットマシンのスロットルが停止する。目が揃っていない。
「罰則!!! 債権追加!!! 返済期間は1週間!!! その間、全員は仮装博徒を蒸着!!!」
「だからやめろって言ったんだぁあああ!!!」
4人の博徒たちの周囲に謎の霧が発生した。霧は博徒たちを覆う。霧から悲鳴が聞こえる。約1分後、霧が消失して4人の博徒は異形に変貌していた。
片腕と頭頂部は蟹、それ以外は猿。この大金星全域に生息が確認されている異形の生物。
「ザコ中のザコ!!! 合戦猿蟹!!!」
人語を理解し、行商を襲い、金品を奪う。下手すると行商ごと拉致する。
「畜生……。俺たち課金で負けて仮装博徒にされてもうたじゃねえか!!!」
「すまねえよ!! け、けどさ!!! このお嬢ちゃんを献上すれば、ホテル王室は許してくれるさ」
「とにかくホテル王室は人身で物々交換で交渉するぞ!!! こいつを取り囲むぞ!!!」
チョーアンは思い出した。未曾有の空と海と大地には仮装博徒という人語を理解する生物たちが暮らしている。彼らは賭博依存症で多重債務を抱えて市町村間を往来する人を襲う。
「御法度を守らなかったことを恨むんだな。大人しくしな!!」
合戦猿蟹たちが距離を詰めてくる。チョーアンには対抗手段がない。このままでは簡単に拉致られてしまう。仮装博徒に強奪されたものは商工会議所の風紀部は調査も奪還もしない。ゆえに彼らに襲われないようにするには高額な外出安保券を購入するか自ら武装するか護衛を雇うしかない。
チョーアンは自分の選択肢を呪った。父の言う通り、漁村のお外に出るべきではなかった。未成年であり、世間知らずだ。諦めようとした時だった。
チョーアンの目の前に金色のトノサマバッタが出現した。
「え?」
「おい? あれ? トノサマバッタじゃないか?」
「え? 本当だ!! おい、その出で立ち兎耳娘の走査線で銀河系全域を震撼させた蝗害じゃないか!!!」
仮装博徒たちはその金色のトノサマバッタを知っているのか、チョーアンには知らない。金色のトノサマバッタはチョーアンに話しかける。
「私は……誤作動により……仕様上のバグが発動せず……怪人二十一面相の権限下から解放された……。私はもう寿命が終わり死に絶える……。この誤作動のウィルスを感染させて……進化する死体とは異なるリビングライブにしてあげます……」
チョーアンには意味が分からない。金色のトノサマバッタはチョーアンの首元に取り付いて噛む。吸血鬼のように血を吸われているかのような感覚だ。
「何しやがる!!! せっかくの上玉が異形の進化する死体になるじゃねえか!!!」
チョーアンは何かに感染した。チョーアンの瞳孔に焦点が無くなり独白する。
「異世界転生システムエラー……。村人タスクを停止。他のタスクを本人の個人情報から検索。惑星国家「洛陽」……第13ニュータウン第6区在住、長安・バーテンダー、60歳、無職。好きなもの……ゴモラ・ココナッツもしくは女子高生……。ゴモラは現存する人物のために同一人物のタスクにはなれません。女子高生のタスクならば実現可能。ゆえに女子高生タスクを付与。女子高生スキル、換金援助交際を使用可能。システムに動員される直前、近くのドラッグストアにて傷薬と絆創膏とエナジードリンクを購入記録あり、それらをエコバグごと転送」
「どういうことだ!!」
「意味が分からねえ!!!」
チョーアンの周囲に霧が発生し、チョーアンを隠す。1分後、霧が晴れてそこに衣類が変貌したチョーアンがいた。緑色のブレザーとブリーツスカートを纏っている。片手にはエコバッグを携えている。
「JK?」
「え? 何でJK?」
「おい? ここ、大金星てファンタジー世界のはずだろ?」
「まぁいい。ホテル王室にはこいつを献上すれば、仮装博徒の罰則も解かれて逆に大金が流れ込んでくる!! こいつを拉致るぞ!!」
女学生と化したチョーアンはいきなり体術の構えをとる。
「思い出したぞや!! 娘害は60歳ニート、ナガヤス・バーテンダー。しかし何故か10代に若返ってしかも女体化して女子高生になれたぞや。娘害はニート生活をしていたが、大手動画配信サイトUbiquitousboomにて機動隊体術の訓練動画を参考にしながら鍛えてきたぞや!! 相手になってやるぞや!!! 仮装博徒ども!!! かかってこいぞや!!!」
「ふざけるな!!! このアマが!!!」
合戦猿蟹たちは飛び掛かる。その1体の顔面にチョーアンは拳を叩き込む。その合戦猿蟹は頭部が粉砕される。
「おい!!! こいつ強いぞ!!!」
「油断するな!!! 俺らは合戦猿蟹だぞ!!!」
片腕が大きな蟹のハサミであるため、1体の合戦猿蟹がチョーアンの片腕を切断した。そこから鮮血が迸る。
「痛いぞや!!!」
「バカ野郎!!! 商品を傷物にしてどーすんだ!!!」
合戦猿蟹が傷物にした合戦猿蟹の後頭部を殴る。チョーアンは切断された腕を掴み取り、傷口につける。そしてエコバッグから傷薬を取り出す。
「暗号円資産に数珠繋ぎ!!! 500円の傷薬。1円はこの異世界大金星では1万handleの価値。500万handleの治療効果!!!」
傷薬を切断面にかける。そしてエコバッグから絆創膏を取り出す。
「暗号円資産に数珠繋ぎ!!! 300円の絆創膏。1円はこの異世界大金星では1万handleの価値。300万handleの治療効果!!!」
絆創膏を傷口に貼る。そしたら傷口が発光し、切断された腕は見事にひっついた。
「どういうことだ!!!」
「と、とにかくこいつを捕縛するぞ!!!」
合戦猿蟹たち3体は飛び掛かる。チョーアンはエコバッグからエナジードリンクを取り出して一息にがぶ飲みする。
「暗号円資産に数珠繋ぎ!!! 400円のエナジードリンク。1円はこの異世界大金星では1万handleの価値。400万handleの身体機能急上昇!!!」
チョーアンの姿は一瞬消えた。それに合戦猿蟹たちは驚愕した。1体の合戦猿蟹の側面にチョーアンの蹴りが襲来する。腹部に命中して胴体を蹴り砕かれる。チョーアンの身体速度は音速の域に達し、腕力と脚力も鉄の硬度に匹敵している。
「ぐわ!!!」
「よくもダチ公を!!!」
合戦猿蟹の1体が仲間の仇討ちに大きなハサミを開いて襲いかかる。だが、チョーアンはまたもや姿を消す。そして仇討ちを仕掛けた合戦猿蟹の後方に出現して正拳付きを後頭部にお見舞いされる。その合戦猿蟹は頭部が四散する。
最後の合戦猿蟹は両手をあげて降参する。
「ゆ、許してくれ!!! 俺ら博徒は!!! 多くの債権を抱えて賭博帝国宿舎に強制労働させられてるんだ!!! 被害者なんだ!!! 助けてくれよ!!!」
「許すぞやだと? お前らは無実の人達から金品を奪うだけでなく誘拐し、その会社に売り渡したという不貞な輩ぞや。あの世で猛省するぞや!!!」
チョーアンは裏拳をその仮装博徒に浴びせて命を絶った。
「とりあえず娘害は転生してしまったようだぞや」
記憶を回想する。謎の発光現象に巻き込まれて気がついたら漁村に引っ越して来た魚屋の一家の看板娘になっていた。母親は転生する前と同様に先立っている。父親はあの90歳の翁が転生した姿であろうか、とりあえず漁村に戻ることにした。
しかしあの金色のトノサマバッタは銀河系を震撼させたあの蝗害。銀河矮小化惑星原生の昆虫の突然変異種であり、人肉を食らい、人を異形――進化する死体へと変貌させるウィルスを体内に保菌している。だが、あの金色の蝗害は通説の蝗害とは異なる。自分はあれに進化する死体という異形に変貌するためのウィルスを注入されたはずだ。しかし、リビングライブという謎の肉体へと変異させられたようだ。
「女性高生へと転生したのも……娘害は化け物だからぞやか? しかし自我を保っているぞや」
そう考えると安心と怖さがない交ぜになる。
チョーアンは漁村に戻ることにした。立ち入り禁止の立札あたりまで近づくと、チョーアンに話しかける人がいた。赤い腕章をつけた軽装の青年つまり風紀傭兵だ。手持ちの槍で身構えて警告する。
「おい!!! 未曾有の空と海と大地からの侵入者……つまり博徒か!!!」
「違うぞや。娘害はこの漁村の住民だぞや。魚市場の露店の看板娘ぞや」
「看板娘だと? それがそんな珍奇な着衣を着ている? 俺が貴様の自宅まで同行し、店主に事情聴取を行う」
風紀傭兵が同行してチョーアンの無実を証明するしかない。漁村に戻ってから半時間後に魚市場にあるチョーアンの露店兼自宅へと到着した。店主の父親が出迎える。店主の父親は驚いた。チョーアンがブレザーとブリーツスカートによる女子高生の格好をしているからだ。それについては同行している風紀傭兵が話しかけてきた。
「風紀部だ。お宅のところの娘が立ち入り禁止の未曾有の空と海と大地から戻ってきた。この珍奇な服装。もしかすると、破産して博徒に落ちぶれた者かもしれない。説明を求む。沙汰次第では娘さんやあなたに商工会議所から制裁がくだるでしょう」
「……いや……その……何と答えたらいいんでしょうか?……」
事情聴取に2時間は要した。夕暮れ頃、商学校は午後の授業の時間帯だ。チョーアンは習いに行かないといけないが事情聴取に付き合うしかない。調書をとってから風紀傭兵は判断する。
「我らのように戦時訓練を受けてないのに仮装博徒を掃討するとは……。大丈夫です。娘さんを逮捕や書類送検すらもしませんよ。ただ、その実力を商工会議所風紀部で活用しないかい?」
スカウトされているということだ。今日の昼間まで自分は漁村鮮魚露店の看板娘として一生涯を終えようと考えていた。父親は恐らく90歳の実父の転生した姿だろう。
「父殿。娘害が元ニートのジジイであることは知っているぞやか?」
「何を言っているんだ? お前はオナゴだろ? それよりも凄いな!! 博徒が恐ろしいのは怪物――仮装博徒が正体だからだ。それを4体も滅ぼすとはな……。風紀傭兵にスカウトされるとはいいな!! どうするんだ?」
チョーアンは腕を組んで思案する。期間公務員として安泰な生活を過ごすか、腕っぷしに自慢のある鮮魚露店の看板娘を続けるかだ。ただ、自分の身分が現在何であるか考えた。
「娘害は商学校高等部1年生。つまり女子高生。ここに在籍しながら裏番をしていいぞや?」
「う、裏番!!」
最近、大金星の社会であらゆるトラブルを解決する学生ボランティア業がある。それが裏番である。戦時訓練を受けていないのに仮装博徒を倒せる実力のある商学校の生徒は商工会議所から公認を受けて市町村間の往来を許可されるのだ。
「まずはこの漁村の島からフェスシーン市に向かうぞや」
「裏番の登録申請は可能だが、何が目的だ? 裏番の学生裏家業は将来的に商工会議所の遍歴商会合衆に入閣するための実績とする者が大半だが……」
「未曾有の空と海と大地のどこかにあるとされる神が快眠できる寝室に宿泊することぞや」
「す、す、神が快眠できる寝室だと!!!」
そこで寝れば、本当の浄土に行ける。浄土は神の住まう地。生前の記憶が復元されたチョーアンは浄土に行けば、惑星国家「洛陽」がどうなったのか真相を調べることができるかもしれないからだ。
「ダメぞやか?」
「何がダメなものか。いいだろう。この漁村の商工会議所の支所からフェスシーン市の支所センターへと申請しておこう。どちらにしてもフェスシーン市つまり南大陸に行くことだ」
風紀傭兵に諸々の手続きを任せて彼はそのまま立ち去っていく。チョーアンは戦い疲れたので入浴するという。店主の父親は夕飯の準備をする。商学校の夕方の授業は休みことにした。
入浴後、食卓で父と2人で夕食をとる。漁村さらに鮮魚の露店ゆえに夕飯は売れ残った品を食材にした
焼き魚、煮魚が多い。チョーアンは父に質問をする。
「父殿。惑星国家「洛陽」について覚えておるぞやか?」
「ラクヨウ? ワクセイコッカ? 何を言っているんだ?」
どうやら父親には宇宙の構造を含めた銀河系の人類史は知らないようだ。あの光によって高齢ニートである自分は10代半ばの女子高生へと転生した。最近まで前世の記憶なんて知らなかった。しかしだが、母は逝去し、父と2人暮らしという人生の流れは似ている。
「母殿はどうやってお亡くなりなられたぞやか?」
「母さんか? そうだな。伝染病だ。この漁村は北群島と南大陸との交易拠点であり、伝染病に対しての特効薬は普及しているから大半の村民は大丈夫だったんだが、母さんには中和抗体ができなかったようだ。それでな。お前の成長する姿を見せてやりたかった」
父親は額縁にかけられた写実画を見て悲しむ。そこには家族が3人で描かれている絵画だ。デッサンが事細かに丁寧で本当の写真のようだ。チョーアンが商学校小等部に入学した時に画家に大金を払って描いてもらったらしい。銀河系ではUbiquitous(スマートフォン相当)があれば、いつでも好きに撮影できるというに中世のようなこの異世界――大金星ではうまくいかないうだ。
「……父殿。いきなり家を出ると言って申し訳ないぞや……」
「そうだな……。仮装博徒を倒せたことは未だに信じられん。あいつらは古えより我ら人間たちを脅かしてきたからな……」
チョーアンは大金星の異世界史についてうろ覚えであるが知っていたが、父に説明してくれと頼む。
「大地震、大水害など北群島、南大陸では度々発生しては滅亡する村や町レベルの集落がでてきた。滅びゆく町村を復興させるために建材や食料などの中継地点ができた。それを管理する者たちが「行商」と呼ばれた。町村個々の同調圧力小規模社会に屈しなくていいからな。結果的に行商の往来で交易路が形成されて行商たちが権力を握る「商工会議所」ができた。さらに交易を効率化するためにhandleという通貨制度もできたしな」
そこでチョーアンは仮装博徒や未曾有の空と海と大地について質問してみた。
「未曾有の空と海と大地か……。すまないが父さんも詳しくは知らない。理解している範囲でいえば、賭博帝国宿舎という商会が商工会議所の中央政府――遍歴商会合衆に毎月天文学的な家賃を払って商工会議所の公有地以外の土地を借用している。未曾有の空と海と大地は私有地であり商工会議所の盟約が適用されない治外法権というのはそういうことだ」
この大金星の半分以上の陸地を「借地」とすることで民衆の開拓領域が広がらないのは理解できた。そして仮装博徒だ。
「彼らについて知っていることは賭博帝国宿舎に一生かかっても払いきれない負債をかかえた債務者であり、私有地に不法侵入した俺たちに……良くて金品か交易品……悪くて俺たち自身を品物として強奪する。それを借金取りの商会さんに対して物々交換した額で返済していき、完済を目指している。博徒の彼らも強盗をするために化け物の能力や膂力を借金して借りることもあれば、定期返済できない罰則として化け物の姿を強制させる。それは債務者と借金取りの貸し借りの関係だから俺ら商工会議所の市民には関係ないな」
チョーアンは大体理解できたので父親にお礼を言う。
「父殿。娘害は旅先で色々と儲けたら父殿にきちんと仕送りをするぞや♪」
「バカを言え!! 仕送りをするのは俺の役目だ!! お前が引き籠る前だって学費を払ったんだ!!」
一瞬であるが、父親に生前の記憶が蘇ったかのような台詞が聞こえてしまった。この異世界はどこか不自然だ。チョーアンにしても異世界転生が人為的に行われた可能性がある。どちらにしろ未曾有の空と海と大地のどこかにあるとされる神が快眠できる寝室を探し出し、そこで宿泊することだ。この異世界――の謎が解明できるからだ。
夕食を終えてチョーアンは眠りにつくことにした。
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
熟睡に浸る中、夢を見る。それはこの漁村での思い出と惑星国家「洛陽」での幼少期での思い出が錯綜する。漁村では幼女として過ごした思い出があり、その反面、惑星国家「洛陽」――現世では特に名探偵ゴモラ・ココナッツを自慰の題材にしていた。自慰を覚えたのは小学生くらいであったか、それから童貞を守り、魔法使いから立派な妖精となり、60歳の高齢ニートのときには大賢者になった。
と、夢を見ていると、脳内に誰かの声が響いてきた。
「ホテル王室のお客様と判断。本日の債務者掃討の報奨金――2000万handleです。暗号資産の方は弊社で管理しております。制限時間は3分間のみですが松露恒星系連合の議長国――惑星国家「上洛」にて現地VRショッピングができます。弊社で雇用している人体提供者の肉体を借りて買い物ができます。サービスをスタートします」
その声が喋り終わった途端、チョーアンの視界は現世――転生する前に住んでいた銀河系へと移動していた。
〓〓素材提供元:うなぎちゃん様
それはドラッグストアだった。身に覚えがある。銀河系最大の多国籍企業――株式会社イオンスラスターコーポレーション傘下のドラッグストアチェーンだ。そのまま視界は勝手に店内へと入る。すると別の声が聞こえてきた。
「お客様。俺は弊社から雇われております人体提供者です。人体提供者美食体感という言葉を知ってますか?」
「し、知っている!!! 半年前まで最盛期をむかえていた五感追体験宅配サービスぞや。蝗害が銀河系で大流行する中、他の惑星へと旅行せず、自宅でリモートワークをしながら追体験用料理を宅配してもらい、顔面全体包装型VRモニターマスクを被る。そして外国の有名レストランで来店した人体提供者と同時刻に宅配された追体験用料理や飲み物を食べる。人体提供者はお客さんに操られて食事をとる。すると、外国の有名レストランの料理や飲み物の味や香りが光年単位の遠距離で追体験できる。それで人体提供者美食体感の商売はめちゃくちゃ大儲けしたんぞやね」
「そうです♪ これは俺があなたの代わりにお使いをする者です。ただ、異なるのは俺の肉体を使って操り、この店内だけで自由に買い物ができます。支払いは大金星で稼がれた暗号資産通貨で行います」
声の主は男性で注意をする。人体提供者を操ってできることは、
①商品を手にとって調べること。
②商品について店員に質問する事。
③商品の支払いができること。
④商品の発送手続きをすうrこと。
⑤このお店の店内だけが自由に移動できること。
⑥制限時間は3分以内であること。それ以上の時間の延長は円通貨を万単位で課金すること。
の6項目しかできないことを伝えた。そしてついにチョーアンは人体提供者の肉体を借りた。
制限時間3分間。
かなり限られていてとりあえず思いついたのは、傷薬と絆創膏を買う事だった。軽い裂傷などは日数をかければ、完治するが異世界では切断された腕が即刻繋がった。とりあえず買い物カゴを取り、駆け足で傷薬と絆創膏を探す。2000万handleと異世界では中古物件は購入できる大金であるが、¥が基軸通貨の銀河系では傷薬と絆創膏などの応急処置系を探すのが対外だ。安いやつを探してついでにワゴンセールの目薬を手にとる。
「お!!! 冷凍のトンテキが売っているぞや♪ これを買おーっと♪」
なんとか2000円以内で予算を解決した。そういえば、エナジードリンクを買うつもりが忘れてしまった。
何せ、残り時間は1分しかない精算にそそくさと急ぐ。安いものを大量に買うと精算に時間を要して恐らく異世界へと強制的に戻されるであろう。清算後、人体提供者が持参していたエコバッグに全てを詰め込んだ。そしてついに制限時間はゼロへと至る。
「刻限となりました。お買い上げになられたものは異世界においていつでも転送することができます。これはお客様特典です。今後とも賭博帝国宿舎株式会社の異世界サービスをご利用ください。あ、言い忘れておりました。次はどこのお店がよろしいですか?」
「ホームセンター!!」
人体提供者はきちんと手続きしておくと回答する。それにチョーアンはお礼を述べると、視界は異世界大金星にある漁村の実家であった。
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
〓〓素材提供元:とも&ゆりGAMEZONE様
翌朝。
漁村の港。多くの船が停泊している。それらは行商の自家用船もあれば、自家用船を持つ風紀傭兵に借りたのもある。商学校高等部に学籍を残しながら「裏番」という学生裏家業に従事するチョーアンは、乗船のチケットが一番安くつく交易品運搬船を選んだ。
「父殿。娘害は行ってまいりますぞや」
チョーアンはこの港にて交易品運搬船が来るのを待っていた。実父は見送りにきた。
「すまんな……唯一の一人娘に大枚をはたいて外出安保券を片道切符でも買ってあげたいんだが……」
「いいぞや、父殿。何事もお外を地に足をつけて社会勉強していくぞや。ちゃんと商学校の先生からいわれた定期宿題は提出するぞや。万が一分からなくても各市町村の商学校の教師陣に教えてもらうぞや」
チョーアンは手を振って交易品運搬船の方へと向かう。
「フェスシーン市に行ったら他の市街地の交易品を買って送るぞや♪」
チョーアンは船に乗船しようとすると、検問をしている風紀傭兵に呼び止められる。チケットの提示を要求されてチョーアンは手渡す。照合が追えると、風紀傭兵は注意を伝える。
「この漁村からフェスシーン市までの間、未曾有の空と海と大地を航行する。商会の私有地であるため、商工会議所の上得意様であるために治外法権である。外出安保券を買っていれば、債務者に襲われることはない。高額な特別切符を買う担保で身の安全を保障されている。しかし外出一般券となれば、身の安全は自分で守るか……私のような風紀傭兵の副業を利用するかだ。ちなみに現在、私は現在、副業として説明している。この交易品運搬船は商工会議所の公船ではないからだ。あくまで民間の商船という扱いだ。それは肝に銘じておいてくれ」
港を今から出向する船は全てこの異世界最大の商会の私有地――未曾有の空と海と大地へと不法侵入するからだ。チョーアンはそれを了承して乗船する。
交易品運搬船を含め、様々な船が港から出向する。目指すは南大陸である。北群島は数回だけであるが家族で旅行したことがある。漁村の島より数倍大きいがどこでも沿岸地帯であるため、見飽きたというのもある。海が全く見えない内陸部に興味がああるのだ。
現世――銀河系は最果ての無い宇宙としたら、この異世界大金星の大海原も最果てが見えない。煌々と輝く太陽。チョーアンにとって新鮮だった。転生する前は惑星国家「洛陽」でも大陸の内陸部に住んでいた。とはいえ、転生後の漁村での暮らしでの生きている実感が根強いために内陸部に憧れた。それか帰巣本能かもしれない。
船内は乗客の大半が行商である。残りは商工会議所の職員か風紀傭兵である。漁村に観光目的でくる客は多くないからだ。海鮮料理などを食べたいとなれば、大半が目的地のフェスシーンへと向かう。
「交易品運搬船は人工冷凍洞窟があるから何とか魚が傷物にならなくて良かったよ。しかし時氷は凄いものを北群島は発見したよなーー」
「商学校産学部は凄いですな……」
時氷。北群島最北端にある氷海で発見された特殊な海水である。その氷海の氷雪が溶けるのに1週間かかるとされる。それを利用して交易品運搬船などに人造の冷凍洞窟ができたのだ。商学校は小等部、中等部、高等部そして産学部と4段階に分かれる。義務課程が中等部までであり、高等部と産学部までは本人の意思による。
「異世界でいえば魔法的なものか? 時氷は……。でも、異世界ものには夜でも蛍光灯があるような感じぞや……」
行商たちの談笑を盗み聞きしていると、いきなり船が揺れた。そして風紀傭兵が駆けつけてくる。
「乗客の皆さま!!! 借地に不法侵入したため、博徒たちが強盗しに来ました!!! 今回は外出安保券を持つお客様が数名いますゆえ、当船が沈められる心配はありませんが、護衛を雇っていないお客様は自分の身は自分でお守りください!!!」
その後、10人近くの風紀傭兵が急行してくる。彼らは副業で乗客個人の身辺警護をしている。武器を構えて依頼主の行商の近くに近づく。
すると海面から何者かが這い上がってきた。
〓〓素材提供元:背景はとも&ゆりGAMEZONE様
「鴨がネギを背負ってきたぁああああ!!!!!」
仮装博徒の中でもザコ中のザコである合戦猿蟹である。半分、猿で半分が蟹の化け物。博徒たちは単身で海を泳げるわけがない。ゆえに借金を増やして仮装博徒の姿を借りたのだ。彼らには水中を泳ぐ特性がある。
「ホテル王室からはこの船を沈めるなと厳命されているから大丈夫だ!!! 但し、外出安保券切符の保持者以外から存分に強盗させてもらうぜ!!!」
片腕の大きな蟹バサミを広げて合戦猿蟹たちは襲いかかってくる。民間人の身辺警護を副業とする風紀傭兵たちは剣や斧、槍、弓矢なので依頼主を守り、応戦する。
次々と異形の姿を借りた債務者たちが甲板へと乗船してくる。風紀傭兵の1人は槍で1体の仮装博徒を串刺しにする。しかし左右から2体の仮装博徒の奇襲を受けて胴体と首が切断される。
「さ~!! 金目のものを寄越せ!!!」
護衛を片付けた合戦猿蟹は片腕の鋭利な蟹バサミを突き付ける。行商は命欲しさに手にはめていた金色の腕輪を差し出す。
「こ、これは北群島で買った金属製の腕輪だ!!! そ、それなりの価値はあるぞ!!!」
「よっしゃ♪ これなら仮装博徒代と債務の返済がそれなりに減額できるな♪ おっちゃん、ありがとよ♪」
金属製の腕輪を掴み取った1体の仮装博徒はそのまま海へと戻っていく。しかしそれを入手できなくなったもう1体の仮装博徒は蟹バサミを突き付ける。
「おい!!! 何であいつに高給な装飾品を手渡したんだ!!! 他にはないのか?」
「ひぃいいいい!!! あとは……干物と……私の衣類くらいしか……」
「レアな鮮魚品じゃない限り価値はないんだよ!!! お前の衣類なんてお前の汚い体液や排泄物がついているかもしれないんだ!!! 逆にお荷物だ!!! そうだ!!! 臓器売買でそれなりにマシな金にはなるだろうさ。仮装博徒のお代を払ってから少しは返済できるな。お前こい!!!」
「ひぃいいいい!!!!」
合戦猿蟹は命乞いをする行商の襟首を掴んで海へと戻っていく。
複数の合戦猿蟹がある行商を包囲していた。しかしその行商には3人の風紀傭兵が護衛についていた。
「傭兵さんがた頼みましたよ……。フェスシーン市で私は市長から推薦状を書いてもらうんですよ。会合へ参加チケットをね!!! そこで私が遍歴商会合衆に必要な人材かとアピールするんですよ!! だから今が正念場なんですよ!!」
「旦那!! 理解しておりますとも!!」
風紀傭兵は前方から飛び掛かってきた合戦猿蟹を愛剣で両断する。それなりの歴戦の猛者を雇用したようだ。そのためか合戦猿蟹たちが次々と迫ろうとも斬撃をお見舞いされて朽ち果てていく。
「やめだ!!! こいつら手練れだ!!! あそこに娘っこがいるぜ!!! しかもよ。何故か女子高生の制服を纏っているじゃねえか!!! ひゃっほーーぉおお!!!」
口笛をふきながら合戦猿蟹どもは駆け足でチョーアンに攻めて来る。チョーアンも我流機動隊体術でお相手する。身構えて正拳突きを飛び掛かってきた仮装博徒の腹部に叩き込む。そしてつねり、思いっきり捻じ曲げる。そこへ空いた片手を握り拳にして叩き込む。体内の内臓が損壊してその合戦猿蟹は吐血して卒倒する。すかさず後頭部に足で踏みつける。その勢いは鉄槌の如き威力であり、その合戦猿蟹の頭部を足蹴りで粉砕した。
「手強いな!!! 痛めつけてやる!!!」
別の合戦猿蟹が死角から迫り、チョーアンの腹部をご自慢の大きなハサミで刺突する。深々と突き刺されて鮮血が飛び出る。チョーアンは舌打ちをしてエコバッグを取り出す。突き刺してきた合戦猿蟹を蹴飛ばす。
「円購入品転送実行!!!」
それを唱えると、エコバッグが急に膨らみ出す。中には人体提供者に買わせたドラッグストアの商品が入っていた。傷薬と絆創膏を取り出す。
「暗号円資産に数珠繋ぎ!!! 400円の絆創膏。600円の傷薬。1円はこの異世界大金星では1万handleの価値。合計1000万handleの治療効果!!!」
傷薬を重傷箇所に振りかけて絆創膏で幾つかペタペタと貼る。すると、急速に傷口が塞がっていく。
「何だと!!! こ、こいつ!!! もしかしてこの異世界の旅行を楽しんでいるお客かよ!!!」
「か、関係ねえよ!!! 身の危険が及ぶこの大金星を旅行すること自体が自己責任だ!!! 俺ら債務者とホテル王室の誓約では自ら望んで異世界に迷い込んだ奴の生死は考慮しなくていいいって言ってんだ!!! 例外はあるがよ」
拉致しようと再度、合戦猿蟹たちは襲いかかる。だが、チョーアンの蹴りと拳の急襲が彼らの速度を凌駕していた。拳打は見事に合戦猿蟹の頭部をまっ平らにした。蹴りは袈裟懸けにその合戦猿蟹を切断していく。
「動きが素人ぞや♪ 少しは動画サイトで格闘技とかを自己訓練するのをオススメするぞや♪」
チョーアンはそのまま背刀と手刀で合戦猿蟹たちを叩き殺していく。
「ひぃいいい!!! 命がいくつあっても足りないよ!!!」
「他の奴らは充分に強盗や拉致が完了できたから退散しやがった!!! 収穫なしだが命が大切だ!!! 退くぞ!!!」
物々交換で使用する乗客と金目のものを手に入れた仮装博徒は後退していく。さすがに同じ目的の頭数が減れば、まだ収穫できていない仮装博徒にとって自身の命を危険にさらしたくはないので撤退していった。
チョーアンはエコバッグに転送した商品を使い、自身を強化しようとしたが断念する。
仮装博徒の撤退後、乗客や風紀傭兵の亡き骸が数体転がっている。金品を奪われて号泣している行商もいるが、金品よりも妻子を拉致された夫の行商は甲板に蹲り号泣しながらむせび泣いている。
「私の妻が!!! 娘が!!!! うわぁあああああ!!!!」
仮装博徒の目的は単純に強盗だけであり、人身を物々交換すればそれなりに高額で返済できる。拉致された人たちはほぼ2度と帰って来ることはないらしい。
それらを見ながら煙管を吸っている喫煙の行商が胸に手をあてて安堵の吐息をする。
「外出安保券を買っておいて良かった……。市町村以外の土地は奴らの私有地だからな……。身の安全を金で買うことは大事だな」
外出安保券を買った行商が、妻子を拉致されてむせび泣く行商に慰めの言葉をかけることはない。もし嫌ならば、大金をはたいても外出安保券を購入すべきだったからだ。
チョーアンが自分が負傷しても超回復できる手段があるから博徒どもに余裕で勝てることが幸運だと思った。賭博帝国宿舎の借地に不法侵入しているために身の安全は自分でなんとか保障するしかない。
船の艦橋から数十人の風紀傭兵が出てきた。その中の現場指揮官らしき風紀傭兵が部下に風紀傭兵と行商の亡き骸を丁重に処理するように命じる。
「乗客の皆さま。ご不幸をお悔やみ申し上げます……。吉報かは分かりませんが、前方に商工会議所の船団が見えてきました!! あそこには数百人規模の歴戦の風紀傭兵の方々が乗船されております。当船の安全のために船団に混ぜてもらうように頼んだら許可をいただいたので、当船が仮装博徒からの強盗にあう危険性は極めて低いです!!」
「良かった……」
商工会議所が集団規模の公務で市町村間を往来する場合、私有地に不法侵入するわけだからそれなりの装備と人員を揃える。さすがにそれに手を出す仮装博徒は少ない。この民間所有の交易品運搬船が商工会議所の船団に参列させてもらえば、脅威に思い襲ってくることはない。
それは乗客や乗員にとって外出安保券並みの安堵な好条件だった。
船団に加わってからの航行は順調でほんの数日間で南大陸の最東端にあるフェスシーン市に到着した。
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臨海都市フェスシーン。
この異世界に存在する7個の都市の1個であり、この都市だけで総人口は40万人。チョーアンの故郷、漁村を含めて10個近くに及ぶ町村を属州としている。フェスシーンの港の検問所にて疫病に感染していないか危険物を持ち込んでいないか訪問目的は何かとか厳密に審査される。それが1日かかり、ようやく市内へ入ることを許された。
漁村とは異なり、都会であり高い数階建ての建物が建ち並んでいる。その都市を城壁が囲んでいる。多くの人が往来している。この大陸には4個の都市があり、各々には商工会議所に支所大商館が存在する。そしてチョーアンの目的は支所大商館がテナントで入っている大交易館である。大概は大交易館が支所大商館を兼ねるのだ。
路地を進んでいくと、喚き声がした。〓〓素材提供元:背景はmiddle of journey様。騎士の絵はさとけい様。
喚いているのはボロい衣類を纏った男性。その男性は背後から馬に跨った鎧姿の男性に連行されている。赤い腕章をしているので風紀傭兵のようだ。すると、ボロイ衣類の纏った男性は犯罪者かもしれない。
「傭兵様……許してくださいだーー!!! お、オラはただ、目に……目にくらんだ……だけだ……」
「血税の盟約の第13条項!!! 帝国宿舎消費者金融に返済できず破産した者は返済ができるまでお外に追放だ!!」
「ゆ、許してくださいだーー!!! お、オラはこの都市で起業で商売がうまく行くと思ったんだぁああああ!!!!」
連行されている男を見物している雑踏たちはヒソヒソとその男を蔑視する。
「商工会議所から融資してもらうように年数かけて業績を伸ばせばいいのに……」
「帝国宿舎闇金て……よっぽどの富裕層じゃないと利用しない方がいいでしょ……。返済ができないんならああやって犯罪者になるんだし……」
「じゃあ……博徒決定だな……。ほぼ人生詰んだな」
破産した男性は未曾有の空と海と大地へと放逐されるようだ。
旅立つ前に実父から帝国宿舎消費者金融から闇金を借りないように厳命されていた。商会や自営業を立ち上げる際、商工会議所から信用を勝ち取らないといけない。商会や自営業の従業員としてそれなりに成果を積み上げていれば、商工会議所はそこを審査し融資を判別する。帝国宿舎消費者金融から闇金を実績抜きで高利で借りることはできるが、返済能力がないと判断されれば、盟約に抵触してお外へと追放されるのだ。
残酷な社会の厳しさだとつくづく痛感してチョーアンは街路を歩く。漁村と異なり、歩行者だけでなく馬車や牛車が往来する。道ゆく人にチョーアンは大交易館の場所を訊く。時計塔のある巨大な建物が目的地だと教えてもらい、チョーアンはそこを目指す。
歩いてから1時間後、大交易館に辿り着いた。4階建てで各階各テナントには商会のお店が入っていて商売をている。食品エリアの1店舗に立ち寄り、そこでフェスシーン市名物の山岳地帯の干し肉を購入して漁村に配達するように手続きをする。
その後、中央階段をのぼり4階の支所大商館フロアに移動する。支所大商館の受付に行って市役執政官に会わせてくれと申請する。数分後、執務室に通すように受付は命令を受け、チョーアンを通す。
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