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4階の支所大商館の通路を風紀傭兵に案内されて進んでいき、執務室へと通される。
執務室は会議用のテーブルと書斎机があり、どれもこれもが豪奢であった。そこで高級なスーツを纏う黒髪の中年男性がいた。
〓〓素材提供元:背景はdadaAC様、人はソーガ様
「君が裏番の子だね? 漁村の商工会議所支所からの報告を受けているよ。戦時訓練もせずに易々と仮装博徒を殲滅したそうじゃないか? ちなみにわしはこのフェスシーン市管区の行政を担うプリマス市役執政官だ」
チョーアンはプリウスを握手を交わす。現世――銀河系では民主主義が統治機構――警察機構型人類諸国連合によって制定されているが、この異世界では遍歴商会合衆から任命された行商が市政の任に就く。
「学生裏家業について案件をご紹介して欲しいぞや」
「そうだね。風紀部に捜査を命ずるとね。警戒する界隈がこの大金星各地にいる。裏番の生徒は秘密裏にその界隈について独自に調査して風紀部に報告してほしい。あとは伏兵を配置してその界隈の掃討を行うから」
「その界隈とは?」
恐らく反社のことを意味しているのだろうとチョーアンは察した。プリマスは執務室の窓から地上を見るように促す。それに応じ、チョーアンは大きな窓から眼下の地上を見下ろす。すると、先ほどと同様に馬に騎乗している風紀傭兵に連行されている市民がいた。
「最近、商工会議所の審査を待たず、躍起になって帝国宿舎消費者金融から闇金を借りる市民たちが後を絶たない」
「もしかして未曾有の空と海と大地の賃料をきちんと毎月支払っている商会、賭博帝国宿舎の仕業じゃないんぞやか?」
それをプリマスは否定する。商工会議所の民衆が賭博帝国宿舎の私有地に不法侵入するため、治外法権が適用される。しかし逆も同じで賭博帝国宿舎が商工会議所領内の市町村に許可なく踏み入れることは不法侵入となる。
「では反社的界隈とは?」
「思い当たるとすれば……この市内の最南端にある商学校産学部校舎へと向かってくれたまえ、最近、そこで退学者が続出しているらしい。産学部まで厳しい受験を突破して生徒になったんだ。それを勿体ないこおをして退学する。その理由があるはずだ。風紀部を動かせば真犯人は警戒する恐れがある」
真犯人と仮定しているだけで核心に至っていないようだ。裏番である以上、チョーアンはその学生裏家業を請け負った。
早速、目指すは商学校産学部校舎だ。まだ昼過ぎであるために時間はまだまだある。寝取りまりするところは商工会議所が用意してくれるそうだ。
大交易館を出てから徒歩で向かおうとしたが、それだと半日は要するようだ。仕方なくhandleで支払い、市内定期巡回の市営馬車に乗車した。馬車から外を眺めると、漁村以上に露店が建ち並び、様々な雑踏を見る。フェスシーン市の管区以外の市町村からの観光客の姿が見える。民族衣装が異なるからだ。異世界であれば、何とか王国とか何たら帝国とかがありきたりなのだが、行商によって作られた世界国家であると言っていいいだろう。全体主義的市場主義である。他の市町村も訪れたいものだとチョーアンが思っていると、いつのまにか商学校産学部校舎へと辿り着いた。校舎の正門には風紀傭兵が佇んでいる。その風紀傭兵はまる戦にでも出かけるかというくらい鎧で武装している。
〓〓素材提供元:背景はKONYKOTA様、騎士はHI-TIME様
「風紀傭兵さん。副業ぞやか?」
「そうだよ。守衛として少しでも給料を稼がないとね。君は……見たことない制服だね……。高等部かな?」
いきなり正解を言い当てるとはチョーアンも驚いた。自分が裏番であることを話す。
「生徒裏家業か……。プリマス市役執政官の密命だね。注意しておくけど、最近、校内である勧誘活動が活発化している。全身を法衣で纏った者たちだ。私も発見しては解散するように注意をしている。教師たちも困っているんだ」
産学部の生徒を勧誘する者たちが謎の反社界隈のことを示しているのは確かなようだ。チョーアンは産学部の校舎に入る。
山岳部は現世――銀河系社会では大学と同じであり、様々な学科が存在する。商会や自営をやりたい生徒はそこで短期間の商会を起こしたりとかして在学中に実績を積み、商工会議所のエリート職員を目指すそうだ。
校舎の廊下を歩いていると、オレンジ色の法衣を纏い、長い木の枝を持った幼女に出会う。緑色のツインテールに赤目をしている。変わっているのは持っている木の枝には葉っぱがそれなりに生えている。もしかしたら例の勧誘する反社の界隈かもしれない。少しばかり警戒をしてしまう。その警戒心に気づいたのはその幼女だった。
「子魔女は最近、校内で勧誘してくる奴らじゃないナリよ。今、昼過ぎの図書室には近づかないことを推奨するナリ。それでは子魔女は首席ゆえに市政からの研究以来をこなさいといけないナリから失礼……」
緑色のツインテールの幼女は多忙なのか駆け足で別の場所へと移動した。幼女には図書室に近づかない方がいいと注意を受けたが、そこがチョーアンの目的地である。
廊下を進んで図書室へ足を運ばせる。
図書室はかなり広大であった。本棚があちこちにたくさんある。そこで宿題や勉学に励む山岳部の生徒たちがたくさんいた。だが、チョーアンが驚いたのが先ほどのオレンジ色の法衣の幼女とは異なり、ピンク色の法衣を纏い、三角形の覆面を被った者たちが特に多かった。それこそがプリマスが危険視している者たちだ。せっかく受験勉強をして産学部に入学できたというのに彼らに勧誘されて早期退学する。しかも市民から大量に頻発している債務者の事案にも関与しているのだ。チョーアンが図書室に入室した瞬間から彼らの視線がチョーアンに集まる。そもそもブレザーとブリーツスカートを纏う女子高生などはこの異世界大金星では場違いすぎるからだ。
チョーアンはどこかの本棚に書物を開いて適当に読書してみる。それで驚いたのがその書物に書かれてあるのは現世――銀河系社会の公用語である日本語をローマ字で記載されているのだ。続けて他の書物を開いてみるが、それもローマ字の日本語で書かれてある。語学関連の書物を開いてみると、これにはチョーアンはかなり首を傾げる。この異世界においてローマ字記載の日本語が普及しているのはおかしすぎる。
その行動が彼らの興味をより高めてしまった。チョーアンに話しかけてくる。
〓〓素材提供元:背景はパブリックドメイン様、人の絵はqut様
「あなたは異典にご興味はありませんか?」
「は? 何ぞや?」
「さっきから図書室の書物を興味津々に見られておられるようだ。もしやその書物に書かれてある文字や語学が気になっておられる」
それはそうだ。勧誘してくる反社の界隈を暴き出すのが目的であるが、日本語が流通している異世界というのもそもそもおかしい。その疑問を反社の界隈に問うてみた。彼らは三角形の覆面で表情が見えないが喜々として回答してくれる。
「この異世界――大金星が創世された頃より、人が誕生した。それにこの文字や語学を伝えのが異典の筆者であらせられる……。異典はこの図書室にある書物の文字とは異なる文字で書かれてある。私達は異典の同志を探している。変わった民族衣装の娘よ。見ためからは高等部だな。産学部に行かず私たち……異典翻訳家結社に入信しないか? そしたら著者の次元に達する事ができるかもしれない」
怪しい学生の宗教団体ということだけは理解できた。チョーアンは断る。そして逆に産学部での勧誘を即刻中止するように要求する。
「き、貴様も有害図書学科として軽視する教えに仇名す者か!!! 私たち異典翻訳家の恐ろしさを教えてやろう!!!」
異典翻訳家たちは法衣から杖を取り出しだ。
「傀儡柄に格納されし者よ……その教えを顕現化せよ!!!」
「ひぃいいいい!!! 乱闘だぁあああ!!!」
乱闘騒ぎとなったので図書室で勉強していた一般生徒たちは慌てて退室していく。傀儡柄という杖を異典翻訳家が振るうと、杖の先から大きな蟹のハサミが射出される。それをチョーアンは即座に叩き落す。
「蟹のハサミ!!! まるで仮装博徒の合戦猿蟹の攻撃ぞや!!!」
「ご名答♪ 偉大なる筆者は債務を全て払いきり、債券から解放された。そこから考えたのが仮装博徒を動力へと変換しこの傀儡柄に格納し攻撃するという独自の書物――異典を執筆した」
異典翻訳家たちは傀儡柄を振るい、合戦猿蟹のハサミを弾丸として放ってくる。それをマシンガンのように連射されたらチョーアンは回避に専念する。なんとか異典翻訳家たちの背後へ回ろうと、複数の本棚による図書室の迷宮を逆手にとって遠回りをする。異典翻訳家たちも傀儡柄の裂傷型質量弾攻撃で瞬殺できると踏んでいたが、うまく行かないことに気がつく。
その時には背後にチョーアンが回り、異典翻訳家の1人の後頭部へと裏拳を叩き込む。くずおれゆくその異典翻訳家の首元に背刀をかまして呼吸機能に悪影響を生じさせる。肘打ちをトドメに打ち込む。その異典翻訳家は卒倒した。だが、他の異典翻訳家たちに隙を晒した失態となる。異典翻訳家の1人は傀儡杖を振るって裂傷型質量弾攻撃を射出する。チョーアンは太ももにそれが直撃して血潮が飛び出る。重傷であるが、チョーアンはエコバッグを取り出す。
「円購入品転送実行!!!」
現世――惑星国家「上洛」のドラッグストアにて代理人にお使いさせて購入した傷薬を転送し、それを太ももの傷口にぶちまける。1円イコール1万handleの換算は応急効果にまでフルに発揮する。傷口は瞬発力を以って即治癒できた。それはさらに絆創膏で患部の再生を補助したというのもある。
チョーアンは疾駆しながら飛び蹴りを異典翻訳家の脇腹に食い込ませる。骨がボキボキに折れる。
苦悶の表情を浮かべているだろうが三角形の覆面で真相を掴めず、チョーアンは正拳突きをその覆面にねじ込ませる。その異典翻訳家はその激痛を感じつつ失神した。
「お、応援は?」
「大丈夫だ!!! 駆けつけてくれた!!!」
図書室に異典翻訳家に援軍が雪崩れ込んでくる。かなりの大人数だ。さすがにチョーアン単体には厄介だ。チョーアンはどのように対処するか倦ねいていると、チョーアンに近づく小柄な人影が現れる。
「いい加減にしろナリ!! 有害図書学科!!!」
「は、は……有害図書学科だと!!! 我らは筆者の文語を習得した正当な読徒よ!!!」
緑色のツインテールの幼女だった。幼女は常に握りしめている長い木の枝を突き出す。良く見てみると木の枝は螺旋階段のような形状になっている。
「傀儡柄に格納されし者よ……その教えを顕現化せよナリ!!!」
その枝から無数の枝が生える。その無数の枝はさらに無尽蔵の枝に分かれていく。それらの枝はまるでタコの触手ようにうねりながら動き出す。
木の枝の触手群は一斉に異典翻訳家の集団に襲い掛かる。異典翻訳家たちも傀儡柄を振るって裂傷型質量弾攻撃を発射していく。しかい大蛇のように飛来してくる木の枝の触手がそれを刺し貫いて鞭のように異典翻訳家の頬を殴打する。
その木の枝の打撃力が強いせいかその異典翻訳家は突っ伏して動かなくなる。別の異典翻訳家は枝の触手に束縛され、筋肉質の高い男性の剛腕のような枝の触手がその異典翻訳家の腹部を殴りつけて埋め込ませる。その衝撃に束縛された異典翻訳家は嘔吐して白目を向いて気を失う。
異典翻訳家たちが放つ裂傷型質量弾攻撃の連射が|枝の触手を切断する。しかしそれ以上に枝の触手の本数が無尽蔵であり、枝の触手に捕縛されて壁や地面に叩きつけられるか、枝の触手による平手打ちをくらい大人しくなる。
異典翻訳家たちは数分後には掃討される。命を奪われていない。だが、この幼女が殺す気で枝の触手たちを繰り出せば、異典翻訳家たちは瞬殺だったであろう。
「先生ぃいい!!!」
その幼女は廊下に向かって大きな声で教師を呼ぶ。すると教師と校舎の正門の守衛を副業とする風紀傭兵の2名が入室してくる。
「有害図書学科に洗脳された産学生徒たちに体罰をくわえましたナリ。意識を取り戻す前に商工会議所の風紀部へと連行してくださいナリ。あとの罰則の裁定はお任せしますナリ」
「緑地鶴見オリガルヒ。さすがは商学校全学部最高峰である校長者候補席に選ばれるだけはあるね」
チョーアンは苗字が日本語であることに驚いた。一応、この異世界は中世ヨーロッパに酷似しているはずだ。しかし銀河系公用語の日本語をローマ字で書いてある。ちなみにチョーアンの故郷である銀河系では苗字や名前のどちらかが日本語であるのは当然の風習となっている。その風習がこの異世界でも同様に使われているのだ。
チョーアンはオリガルヒに襲撃してきた異典翻訳家について説明を求めた。
「数年前、日本語以外の語学が商学校内部で流行し出したナリ。これについて正式に研究する学科を立ち上げたいという声が産学部、高等部の生徒たちが集まり、商学校上層部も認可したナリ。それが不幸の始まりで異典翻訳家が爆発的に増えたナリ。それで各市町村で犯罪に手を染めていき、これに風紀部は激怒した。それで異典翻訳家たちの学科は有害図書学科として廃止されたナリ」
他の学科への編入を産学部の教師たちから促されても猛反発して反社勢力――異典翻訳家結社が結成された。この図書室で襲ってきた連中は一応、通常の産学部の学科に在籍していて同好会程度で所属していた。同好会で犯罪を犯さないのであれば、産学部も御法度と校則の枠組みとして黙認した。
「あなたを無理強いして勧誘してきたところで子魔女は、校長者候補席としての責務を果たしたまでナリ」
「じゃあさ、こいつらが産学部中退の生徒たちの原因に関与していると取り調べしをしてもいいぞやか? 娘害は商学校高等部1年生の裏番だぞや。プリマス市役執政官から最近続出する市民の債務者とこの産学部連続中退問題について調査してくれと依頼を受けたぞや」
裏番というワードにオリガルヒは驚いた。戦時訓練も受けずに仮装博徒の軍勢を殲滅できる実力が裏番の必須条件である。過去の記録にそういう超人的な高等部生徒は数えれる程度にいた。
「商学校に制服はないナリ。私服が普通ナリ……その着衣は?」
オリガルヒはチョーアンが風紀傭兵の上級期間公務員だと思っていた。
「あ、これはブレザーとブリーツスカート。俗にいうセーラー服というやつぞや」
「セーラー服? ま、私服のジャンルであると思っておくナリ。裏番さん。ならば、この子魔女に協力して欲しいナリ。異典翻訳家結社の根城を探して鎮圧するナリ」
チョーアンとオリガルヒは目的が合致し協力することにした。風紀傭兵は床で失神している異典翻訳家の生徒たちを連行して調書をとれたら、後で報告してくれるようだ。
「緑地鶴見校長者候補席。裏番さんはこのフェスシーン市には初めて来たそうだ。宿屋まで案内してくれるか? 俺の予想なんだが、同伴して説明してあげる方がいいと思うよ。北群島と南大陸の間にある孤島の漁村から来たそうなんだ」
「漁村!!! そりゃ田舎っぺ娘ナリな」
田舎者と揶揄されてチョーアンは内心憤慨したがなんとか自制する。
チョーアンはオリガルヒに引率されて産学部校舎を出る。野外に出ると、夕日が沈もうとしていた。オリガルヒは定期巡回の馬車を呼び止める。そこにチョーアンとオリガルヒは乗車し、フェスシーン中心部にあるホテルを目指す。道中、馬車の車窓からチョーアンは市内の景色を覗く。市内某所にある公園では子供たちが遊んでいる。夕暮れ時であるせいか市内パトロールをしている風紀傭兵がやってきて子供たちに帰路につくように注意しにくる。
「漁村もそうなんぞやが、フェスシーン市も治安は万全なんぞやね」
「民衆は安保を商工会議所から血税で定期購入しているナリ。血税の盟約は生活安全保障の取扱説明書ナリ。秩序というのも一種の金儲けになっているワケナリ。だからああして子供たちも平和に夕方まで遊べるナリよ」
チョーアンは現世――銀河系のことを回想する。第3次世界大戦終結後に人類規模の連邦制統治機構――警察機構型人類諸国連合が結成された。沿岸警備隊という意味合いを持つ警察権で人類の秩序を保障し、銀河系全域開拓をわずか数百年で達成させた。兎耳娘の大走査線でその短期間で文明が急速に大発展を遂げた真相が判明したらしい。だが、あの連続虐殺事件の犯人は銀河系規模の新人売れっ子芸能人だった。それにはチョーアンも驚いた。それから銀河系は平和になったが、最貧国であった惑星国家「洛陽」は突如として滅んだ。それについてこの異世界――大金星で調べたいが、手段が分からない。
思案にふけていると定期巡回馬車は目的地の宿屋に到着した。貨幣で支払い馬車から下車する。その時、チョーアンは目を丸くして驚いた。それにはオリガルヒは想定していたようだ
。
〓〓素材提供元:背景は matisse様
宿屋の正門に見慣れた異形のお猿さんの一行とそれを引き連れている風紀傭兵。そのお猿さんたちが仮装博徒の合戦猿蟹であることは明確だ。彼らは市町村への侵入は禁じられているはずだ。なのに堂々とお猿どもはフェスシーン市の街並みをキョロキョロと眺めながら楽しんでいる。まるで観光客だ。
「チョーアンさん? 言っておくが市町村にある全ての宿泊施設のビジネスを独占している商会があるナリ……」
チョーアンは宿屋の看板を見る。「賭博帝国宿舎」とローマ字主体の日本語で書かれてある。
「え? 未曾有の空と海と大地を借用している商会がホテルビジネスを独占しているぞやか? それって盟約の独占……」
「賭博帝国宿舎以外の商会がホテル事業に手を出すことを禁ずる賭博帝国宿舎以外独占禁止条項があるナリよ」
仮装博徒たちの談笑が聞こえてくる。
「今日はたっぷりと行商、女、子供を誘拐して物々交換したから一気に返済できるくらい収入が手に入ったべ♪」
「おい、それならお前だけの債務を帳消しにすればいいじゃないか……」
「こんなに強盗が成功したのは皆のお陰さ♪ だから市町村外泊巻を全員分、購入しましたーー♪」
「お、俺さ♪ お前とズッ友で良かったよ」
いくら商会の無限に広大すぎる私有地に不法侵入した人たちに強盗、拉致をしたからと言ってそんなギャンブルで一山を当てて大儲けしたから幸せを分け合うのに物凄く抗議したいチョーアンであった。しかしオリガルヒは必至で制止する。
「か、彼らは一応、盟約の合法範囲内で観光しにきているから手出ししたらダメナリよ!!! その証拠に彼らをのツアーガイド兼監視役の風紀傭兵さんがいるナリでしょ」
チョーアンは直ぐ近くにいる仮装博徒どもを殴り殺したかった。だが、盟約に抵触するというのならば、我慢するしかない。あいつらは大運搬船でそれなりに強盗したり、それなりに拉致したりした。命も奪った。なのに彼らは盟約の庇護下にあるのだ。
「お客様。一応、このホテルでは商会――賭博帝国宿舎の非正規雇用の従業員という扱いであり、ホテル内での自由行動は可能です。しかし、私たち商工会議所に無断で市内をうろつかれましたら容赦なく処断されますゆえ、ご注意ください」
風紀傭兵は異形の客人たちを引き連れてホテルに入っていく。未曾有の空と海と大地に跋扈する人でなしどもと同じホテルで泊まるのはチョーアンに抵抗があったが、だがホテル事業は賭博帝国宿舎が独占しているために他に選択肢はなかった。
仕方なくホテルへと入る。エントランスを潜り、フロントへと向かう。オリガルヒはチョーアンがホテルの単身利用が初めてだとホテルのスタッフに伝える。するとホテルのフロントスタッフは解説してくれる。
「ご安心ください。債務者のお客様がたがホテル内で自由行動とはいえ、ここはあくまで商工会議所の領土であります。一般市民に手を出せば、当ホテル駐在の風紀傭兵たちが出動して盟約にのっとり処断することになっておりますのでご安心ください」
エントランスホールには10人以上の風紀傭兵が巡視している。ホテルマンの格好をしているが赤い腕章と武装をしている。副業のいっかんらしい。
チョーアンは警備体制がきっちりとしていると知り安堵する。すると、チョーアンはフロントスタッフに話しかける。
「ここに商会の人間はいるぞやか? ホテルの責任者と面会を頼みたいぞや。別にクレームとかそういうもんじゃないぞや」
フロントスタッフは苦い顔をする。すると別のフロントスタッフは笑顔でチョーアンの要望に応じ、少し待つように述べてからフロントの奥の方へと姿を消す。数分後、綺麗な身なりをしたホテルのスタッフを引き連れてやってきた。どうやらこのホテルの責任者のようだ。
「申し訳ありませんが、私どもは賭博帝国宿舎の商会正規雇用の従業員ではありません。商号・商標などを借りた代理店をしております。商会との取り決めで答える範囲であれば回答をします」
チョーアンは帝国宿舎消費者金融について問うてみた。
「帝国宿舎消費者金融とあんたらどういう関係ぞや?」
「帝国宿舎消費者金融ですか? ご利用になられるお客様のプロフィールについてほぼ不問です。但し、闇金つまり高利貸しですので返済できなければ、商会と商工会議所で締結し法令化された盟約に基づいて追放されますね。もしご利用になられるのでしたら計画的に返済計画を立ててからを推奨します。ちなみに当ホテルの中に帝国宿舎消費者金融のフロアがありますので訊きに行ってもよろしいですよ」
賭博帝国宿舎という商会はこの異世界の半分以上の空、海、大地を借地とし、尚且つ代理店を通して商工会議所の領内でホテル事業を行う。しかも商工会議所の最高諮問機関――遍歴商会合衆に働きかけてホテル事業の特許を取って権利を独占している。
「ありがとうぞや。じゃー娘害は疲れたから寝かしてもらうぞや。オリガルヒはどーするぞや?」
「子魔女には学生寮があるナリ。明日に迎えに行くナリ」
オリガルヒは手を振って立ち去っていく。そうしてチョーアンはホテルに泊まるのだった。だが、チョーアンにはまだ目的があった。
その後、ホテル内の大浴場で疲れた身体をほぐしてホテルが用意した寝間着を纏う。ブレザーとブリーツスカートと下着はホテルの選択担当の仲居に手渡した。明日には選択して乾燥させて返してくれるそうだ。現世と大差のないくらいにホテルのサービスは100点満点だった。
夕食を食べにホテル内のレストランに向かう。これもビッフェ形式で食べ飲み放題だ。チョーアンはそれを堪能しながら商会賭博帝国宿舎を現世――銀河系最大の株式会社イオンスラスターコーポレーション並みの資本力を備えていると思った。
お腹も満腹となり、あとは自室で寝るだけだが、チョーアンはホテル内に用意されているカジノフロアへ向かう。そこはカジノであった。賭博帝国宿舎はホテル事業以外にもカジノ事業を独占している。ホテルに入る前にやってきた仮装博徒の団体客。彼らが元の人間状態で浴衣を着ながらカジノフロアでババ抜きをしていた。これには賭博帝国宿舎の代理店に所属するカジノスタッフを混ぜてやっている。どうやらカジノスタッフをベベにできたら儲けが出るようだ。
その団体客の1人がババ抜きに参加せず、近くで酒を飲んで酔っている。その債務者にチョーアンは話しかけた。
「あのう。おじさん? よろしですか?」
「ん? お、お嬢ちゃん何でい!!! 俺らは仮装博徒だぞ。悪さするつもりはないが何だ? 俺らが怖いんだろ?」
チョーアンはその仮装博徒の隣に座り込む。ブラジャーの紐を見せて仮装博徒の男を誘惑する。
「あのう? つかぬことをお聞きしたいんですが? あなたはこの異世界の住人なんですか?」
「え? え?…………そ……それは……」
気になっていた。仮装博徒はこのファンタジー世界のモンスターポジションだ。債券を返済するために彼らは借地に潜入した人間から金品を強奪するか、その人間自体を拉致する。もしかしたら自分と同様に現世で死んで転生した者たちかもしれないからだ。しかも記憶も取り戻している可能性が高い。
仮装博徒の男は答えにくそうである。だがチョーアンは胸の谷間を見せて篭絡させようとするも仮装博徒は視線を外して回答しようとはしない。
「すまないが……商会から口留めされているし……禁則的禁句を口にするとな……即刻、殺されるんだよ……。ただ、あえて言えるのは俺たちは……商会に多額な借金をした。真っ当に働いても返済できないとして……奴らの借地で野宿しながら人を襲っている……。たくさんお前らから奪って物々交換して借金を完済したら……祖国に戻るんだ……」
仮装博徒の男は泣きながら答える範囲で回答した。彼らは悪事をしたくて悪事をやっているのではなく、借金苦で悪事を強要させられている。借地に不法侵入しきてた人が彼らの生活の糧となるのだ。速く完済して故郷に戻るのが彼らの理想なんだろう。チョーアンは別の質問を浴びせる。
「異典翻訳家結社については答えられるぞや?」
「ああ……魔法使いもどきの奴らか……。あいつらとは仲間でもないよ。逆に俺らの同胞を捕まえて傀儡柄に封印して飛び道具に使いやがる……。俺らはあいつらが嫌いだ。答えれるとしたら俺ら債務者の中で完済できた奴が結成したらしいな」
異典翻訳家結社創設の功労者は仮装博徒であることは入手できた。それはかなり貴重な情報源だ。チョーアンは男に異典翻訳家結社の拠点を知っているかと訊く。
「知らないよ。あと、言っておくが異典翻訳家結社の秘密の根城はこの異世界各地にあるぞ。ただ、このフェスシーン市から2日間くらい南下したところに火山の町がある。フェスシーン市管区の自治体だ。そこら辺りでは俺らの同胞がたくさん拉致られた。多分、異典翻訳家結社が傀儡柄増産のためだろうよ。面白いだろ? 拉致は俺たち債務者の専売特許なのにさ。異典翻訳家結社がしやがるんだよ」
男が口にしたことはチョーアンにとってかなり収穫があった。嬉しくてチョーアンは男の顔面に抱きつく。チョーアンの豊かな胸が男の画面を飲み込む。
「ありがとーぞや♥」
「こ、こら!!! 俺が一般人を襲っていると誤解を受けるだろうが!! 盟約違反としてホテル内駐在の風紀傭兵に処断されたくねえよ!!」
男としては嬉しいが殺されたくないので怒鳴って突き放す。チョーアンはウィンクしながら謝罪し立ち去る。その後ろ姿を見ながら男は溜息をついた。
「生まれた惑星にはあんたみたいな1人娘がいるんだよな……。ゴメンよ……お父さん……。こんなところで情けないことをしているわ……。何が異世界ライフだよ……。モンスターの振りをするのが楽しいわけないだろ……。野宿ばかりだしよ……」
男は残りの酒を飲み干した。
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チョーアンは現世――銀河系松露恒星系にある惑星国家「上洛」に意識を飛ばしていた。他人の肉体を使って操り、上洛各地にあるお店の中だけで自由に買い物が可能。支払いは大金星で稼がれた暗号資産通貨で行われる。
自分の意識で人体提供者を操ってできることは、
①商品を手にとって調べること。
②商品について店員に質問する事。
③商品の支払いができること。
④商品の発送手続きをすうrこと。
⑤このお店の店内だけが自由に移動できること。
⑥制限時間は3分以内であること。それ以上の時間の延長は円通貨を万単位で課金すること。
の6項目しかできない。
〓〓素材提供元:背景は00gatak.jpg様
黒い制服を着た女子中学生がそこにいた。肩までかかる黒のショートカットで頭頂部には髪飾りの代わりにウーパールーパーを2匹載せている。
「私はね。州立北上洛第3中学校に所属する小野川ロケーションっしょ。お小遣い稼ぎのために賭博帝国宿舎の人体提供者をやっているっしょ」
とりあえずチョーアンはロケーションの肉体を操作して買い物に使うことにした。3分間、向かうところは3か所決めている。まずは傷薬、絆創膏、胃腸薬を買い物籠へ投入した。
2分半。
大工用工具のコーナーへと駆け足で赴き、あるアルミ製の杖と杖に関連する小箱を手に取り、買い物かごに放り込む。
「な、何をするっしょ?」
身体を操られながらも喋れるようだ。チョーアンは残り時間、最後のコーナーへと赴く。単品ではなくあるセット商品を買うためにだ。そこでコーナー担当の店員に話しかける。
「その町工場用エアー商品を一括で買うぞや!!!」
暗号資産換算――¥20万円相当でチョーアンは大きな買い物をした。
➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡ ➡
南大陸最東端の地域を所管とするフェスシーン市。その領土の西の最果てには火山がある。フェスシーン火山と呼ばれて地元の名所である。そこには火山の付属物である湯源で温泉産業を営んでいる片田舎の町。6階建ての木造の塔が町民の家屋であり、温泉施設の宿泊所でもある。勿論、ホテル事業は賭博帝国宿舎が独占しているので彼らのフランチャイズ店舗である。
しかしその町の周囲には異様な光景になっている。
ピンク色の法衣を纏っている異典翻訳家たちである。総勢100名近くはいる。彼らは傀儡柄を取り出して逃げ惑う異形たちを追う。仮装博徒の合戦猿蟹であった。
「お、お前ら!!! ここが賭博帝国宿舎の私有地ってのは理解しているのか!!!」
「そうだよ♪ 俺たちは堂々と私有地、借地に不法侵入しているんだ♪ ま、お前らかしたらならず者だな♪ 何のためだとう思う?」
「逃げろーーーー!!!」
人から金品を奪い、下手しいその人まで手を出す輩たちが珍しく逃げる役になっている。
異典翻訳家は傀儡柄をふりかざす。すると、そこから蟹の大きなハサミが発生する。それが空中を飛翔して逃げる合戦猿蟹の1体の太ももに突き刺さる。
「痛い!!!」
「お前らが大好きな人狩りだからだよ♪」
別の異典翻訳家が真っ白な木製の杖を取り出す。そして太ももを負傷し突っ伏した合戦猿蟹に投擲する。それは合戦猿蟹の後頭部に突き刺さる。
「うごぉおおおお!!!!」
杖の先端から蕾が飛び出てくる。杖は無数の枝を生やして合戦猿蟹の全身を捕縛する。それで合戦猿蟹の肉体の一部が見えないくらい覆い隠すと、その杖の蕾は開花する。そしてその杖は真っ白から抹茶色へと変色する。
「傀儡柄が1本完成~~♪」
「俺らも負けてたまるか!!」
他の異典翻訳家たちも愛用の傀儡柄を振るって大きな蟹のハサミの弾丸を発射して合戦猿蟹に着弾させる。そして真っ白な杖を投擲してその合戦猿蟹に直撃させる。
次々に合戦猿蟹は傀儡柄へと封印されていく。彼らは傀儡柄の工作をしているのだ。勿論、狩りも兼ねている。
「偉大なる筆者。今日も狩りが成功しました♪ 入会させた新しい読徒たちにこれを配りますゆえ♪」
異典翻訳家たちは神格化している異典の著者に祈祷を捧げる。
すると、そこへ30名近くの浮浪者たちが現れた。彼らは賭博帝国宿舎に対して巨額の借金を背負った債務者である。
「不法侵入者ども!!! 我慢ならねえ!!! テメーら!!! 今日こそは仇討ちをしてやるぞ!!!」
怒鳴ったのは昨晩、フェスシーン市のホテルでチョーアンと話していた仮装博徒の男性であった。男性陣に対して異典翻訳家は嘲笑う。
「わざわざ狩られに来てくれたか♪ なら、速くさ仮装博徒に変幻してくれよ♪ 俺たちがお前たちを工作のために利用しようがよ。商工会議所の風紀部は何のお咎めもしないんだ♪」
「ならよ、さらに借りて課金すればいいんだよ!!! スロットオープン!!!」
その債務者が叫ぶ。すると、上空からスロットマシンが落ちてくる。それはカジノで有名な都市にあるとされる遊戯の駆動細工だ。1人の博徒は懐から金貨を取り出した。それは商工会議所の通貨――handleである。スロットマシンは金貨を取り込むと、回り始めた。3か所のスロットが高速回転する。すると、スロットマシンから歌が流れる。
「ヤーレン♪ソーラン♪ソーラン♪ ヤレン♪ ソーラン♪ソーラン♪ ハイハイ ♪
おやじ♪大漁だ昔と違う♪ 獲れた魚は♪おらがものチョイ♪
ヤサエンエンヤ♪ーーーァサーァ♪のドッコイショ♪ ハードッコイショ♪ドッコイショ♪」
歌が終了すると、スロットマシンのスロットルが停止する。目が揃っている。
「おめでとーーございます♪ 出目が揃いました!!! フィーバーで~~す♪ 債権を帳消しにできる金額です♪ どうしますか? 完済されますか? お釣りがきますよ♪」
債務者1人の人生を取り戻せる大金をその男が引き当てた。しかしその債務者は淡々と呟く。
「いい……これらは俺らが出し合って集めた追加融資だ。俺があいつらに復讐するためにな!!! 特典要求!! 警察機構型人類諸国連合機動隊町村単位暴動鎮圧機械のレベルを購入!!!」
「御購入をありがとうございます♪ それでは臼巨頭を蒸気着衣決行!!!」
その男の全身から黒い濃い霧が発生する。その霧は男性を包み込む。同時に他の債務者たちも黒い霧に包まれる。他の債務者たちは仮装博徒の合戦猿蟹に変幻する。異典翻訳家にとっても新たな獲物が増えてくれたので喜んだ。しかし最初に変幻している男性が未だに姿を露わにしていない。しかも黒い霧は2階建ての家屋並みに膨張していく。そして黒い霧は散らばり消え去る。
〓〓素材提供元:背景はうえにー様
「こ、こいつは!!!!」
強靭な茶色い筋肉質をしている巨人がそこに仁王立ちしている。異様なのは胴体と頭部が一緒くたになり、巨木製の大きな臼をしている。綱を額に巻いて眉毛、目、鼻、大きな口がある。片手には大きな木槌を携えている。
「風紀傭兵の100人規模の大部隊を壊滅させることができるレベルじゃないか!!!」
「だが、臼巨頭を傀儡柄として工作できたらもっと盛大なテロを仕掛けられるぞ!!!」
異典翻訳家たちは冷静さを取り戻して傀儡柄を振るって蟹バサミの弾丸を発射させる。臼巨頭は怒りの形相のまま、大きな木槌を思いっ切り振りかぶって落としてくる。カニのハサミの連射に被弾するも臼巨頭は気にしていない。全く痛くないようだ、。木槌の先端は数人の異典翻訳家たちを叩き潰した。それは潰れた果実もしくは両生類やトカゲのような死骸だった。異典翻訳家たちは続けてカニのハサミを連射させる。しかし臼巨頭には全く通用しない。臼巨頭は巨大木槌で薙ぎ、宿敵たちを叩き潰す。
異典翻訳家たちは撤退せず、攻勢をかける。しかし左右から合戦猿蟹の群れが挟撃をかけて異典翻訳家の掃討にかかる。臼巨頭と合戦猿蟹たちの仇討ちを続く。
「おい? こいつらの中には若いオナゴもいるぞ!! 大量の人身交換でよ。債券帳消しにできるじゃん♪」
「ダメだ!!! 仲間の仇討ちが先決だ!!」
彼らの目的は材料にされた同じ債務者の復讐である。臼巨頭は巨木でできた木槌を振り回して異典翻訳家の命を糧に仲間の死を弔うのだった。
異典翻訳家が殲滅されるのに時間はかからなかった。異典翻訳家たちの叩き潰された死骸がそこら辺りに散らばっている。死屍累々、今回の仇討ちに参戦した債務者の1人は勿体ないことをしたと不満を漏らす。
「そこまでやれば気はすんだぞやか?」
どこかで聞いた記憶の声が響いて生きた。臼巨頭は背後を振り向くと、緑色のブレザーとブリーツスカート姿の少女とレンジ色の法衣を纏い、緑色のツインテールの幼女が立っていた。
「お、お前は昨晩のお嬢ちゃん!!」
「オリガルヒから色々と教えてもらったぞや。あんたら仮装博徒と異典翻訳家結社は犬猿の仲らしいぞやね。異典翻訳家結社にとって傀儡柄を増産するためにはあんたらを狩らないとない。仲間を材料にされたあんたらは異典翻訳家結社に逆襲したい。一応、それだけはくんで遠いところから様子見させてもらったぞや。今度は娘害たちは駆除させてもらうぞや」
臼巨頭は薄ら笑いを浮かべて木槌を突き出す。
「そうだな……。復讐は完徹したから今度はあんたらを拉致させてもらうぜ♪ 本当はこいつらの親玉をおびき寄せたかったんだがよ!!!」
臼巨頭は跳躍しながら大きな木槌を振るってきた。それに対してオリガルヒがチョーアンも目の前に現れる。
「傀儡柄に格納されし者よ……その教えを顕現化せよ!!!」
オリガルヒはトグロを巻く木の杖を取り出す。それは傀儡柄である。そこから無数の枝が生えて臼巨頭の巨大木槌の打撃を防ぎとめる。
「貴様!!! 異典翻訳家結社か!!!」
「違うナリ!!! 子魔女はあいつらの壊滅を願うものナリ!!!」
臼巨頭にとって見下ろしたところにいる幼女などはどうでもいい。同じ債務者を捕まえて己の遠距離攻撃の動力源に利用する者たちは全て同罪である。臼巨頭は大きな木槌を振り上げる。
側面から現世――銀河系社会では良く見る女子高生姿の少女が突っ込んでくる。それが臼巨頭にとって昨晩、ホテルで話した少女であると理科した。しかし現在の自分は課金で強力な仮装博徒を手に入れた。例え強力な蹴りや拳が飛んでこようと致命傷にはらない。むしろこちらの武骨な剛腕で返り討ちにしてやろうと、臼巨頭は徒手を側面へと繰り出す。
「暗号円資産に数珠繋ぎ!!! 7000円のハンマーモデルパワードステイプラー。1円はこの異世界大金星では1万handleの価値。7千万handleの激突効果!!!」
チョーアンが片手に何か小さい棒状のような工具を握りしめている。それは大工職人が使いそうなハンマーのサイズをしていた。しかし見た目からは巨大なホッチキスに柄がついたものである。ステープルと呼ばれる針をその工具の先端から打ち出すことで、防水・防湿紙・板などを壁や材木などの特定箇所に固定する時に使用する。しかもハンマーという殴りつける用に特化した亜種である。
チョーアンがそれで臼巨頭の剛腕な徒手に叩きつけた途端、臼巨頭のその徒手は木っ端微塵に吹っ飛んだ。
「ぬわぁああああああああああああああ!!!!!」
想定外の激痛である。まるで戦車の砲撃に被弾したような衝撃だった。痛みで吠えながらも臼巨頭は大きな木槌をチョーアンに叩きつける。だが、それにもチョーアンはハンマーモデルパワードステイプラーで応戦する。木槌が四散した。そしてチョーアンはハンマーモデルパワードステイプラーで臼巨頭の顔の側面に叩きつける。ホッチキスの芯と同じ少し巨大なステープルが打ち込まれる。その衝撃で臼巨頭の頬は抉られる。
「一応、強敵を想定して買い込んでいたのが正解だったぞや♪」
「お!! お前か!!! 孤島からやってきた¥基軸通貨使いとは!!!」
未曾有の空と海と大地界隈で換金により、現世での日用品などをこの異世界に持ち込んで通貨の価値に応じた威力と効果を発揮させる少女がいると噂が広がっていた。
チョーアンは喜んでいた。名声が思ったより広がっていたことにだ。オリガルヒも愕然としている。風紀傭兵の100人規模の大部隊を殲滅させることができる強敵と相対しているというのにチョーアンは余裕で立ち回っている。
「仲間を守れぇえええええ!!!!!」
臼巨頭が絶体絶命の危機と知ると、他の合戦猿蟹たちが一斉にチョーアンへと飛び掛かる。しかしオリガルヒは何も指をくわえて立ちっぱのままではない。傀儡柄を振るい、無数の枝の触手を生やして合戦猿蟹たちを刺し貫いていく。全て正確に急所を狙い、合戦猿蟹たちは即死だった。
「お、お前!!! ただの異世界原住民構造体じゃないな!!! そんな仕様はホテル王室からは聞かされていない!!!」
臼巨頭は残った片腕を旋回させながらチョーアンを叩き潰そうとする。チョーアンはハンマーモデルパワードステイプラーを振り翳して、目前から迫りくるまるで猛牛のような大きさを誇る臼巨頭の剛腕を一刀両断からの撃砕する。両腕を失っても臼巨頭は巨大な蹴りを浴びせる。しかしチョーアンはバッターのように振りかぶって臼巨頭の巨大な蹴りを叩き壊す。バランスを崩し背後へと転倒しかけても臼巨頭は最期の脚部で一蹴しようとしたが、ハンマーモデルパワードステイプラーの芯が戦車の砲撃のようにその蹴りも粉々に打ち砕いた。
臼巨頭は両手足を失い、一部欠けた胴体だけが残った。まるで臼だけのダルマである。そこにチョーアンはよじ登り、ハンマーモデルパワードステイプラーを臼巨頭の口元に突き付けてくる。
「あなた、て現世の人ぞやか? この異世界――大金星について教えて欲しいぞや。教えてくれるならこのまま見逃してやるぞや。実は娘害は生前の惑星国家「洛陽」で暮らしていた記憶があるぞや……」
それを聞いた臼巨頭は非常に驚いた表情になる。
「う、嘘だろ? ここは異世界だ!! 銀河系開拓時代初期に流行した異世界転生ものってジャンルじゃないんだからよーー!! 現実に起こるはずないだろう!!! お前はこの異世界の異世界原住民構造体のはずだ!!! 俺たちだって現世――銀河系社会の異世界原住民構造体であるようにだ!!!」
どうやら臼巨頭は真実をあまり知らないようだ。惑星国家「洛陽」を滅ぼした者がこの異世界に深く関与している黒幕だとチョーアンは推理している。
「と、なると……娘害の祖国を滅ぼしたのは……賭博帝国宿舎で間違い、てことぞやね?」
「し、知るか!!! そんな確証は俺が知るわけないだろう!!! 俺たちはただ、多額の債務をこうむった。賭博帝国宿舎に完済するためにはこの異世界で金品や人身を強奪し、物々交換をする。それだけだ!! お前らは俺らにとって物品でしかねーんだよ!!!」
チョーアンは少し情けをかけようと思ったが、債務者はそもそもこの異世界の住人を恐怖のどん底に落としている者たちだ。
「俺にはまだ目的がある!!!! 七書評討議場の1人がこの火山の町にいる!!!! そいつをおびき出してぇええええええええ―――――」
チョーアンはハンマーモデルパワードステイプラーで臼巨頭の息の根を止めた。大木製の肉体が散りぢりになって四方八方に散らばっていく。
「オリガルヒ……。今、この仮装博徒が死に際に言い放った目的の……七書評討議場について教えてぞや……」
チョーアンは自分で仮装博徒の弔い合戦を邪魔した責務は果たさないといけないと思い、オリガルヒに問うた。
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