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チョーアンとオリガルヒは火山の町へと入りながら、オリガルヒに説明してもらうことにした。
火山の町は、大きな煙が上っているのが山手の方に見える。麓の町から窺えるこそ、火山にこの町が面しているのが分かる。
町内には数階建ての塔が建ち並んでいる。漁村と同様に露店が大通りの両脇を占めていて雑踏の観光客や行商に対して商いを展開している。
「子魔女は家族の命を……異典翻訳家結社によって奪われたナリ……。子魔女はあいつらに仇討ちをするために異典翻訳家の勉学を独学したナリ……」
商学校により有害図書学科つまり学ぶことを禁じられたものをオリガルヒは私怨のために習得したそうだ。それにしては異典翻訳家たちを圧倒する実力はかなり者である。
「七書評討議場……。筆者より友情を貰った7人の大幹部。大金星は7個の自治都市によって地域区分がされている。それに比例して7人各々が買担当地域の異典翻訳家を指揮しているナリ」
チョーアンは推理している。この火山の町にて異典翻訳家による仮装博徒狩りが行われた。すると、この町に彼らの隠れアジトがあるかもしれないのだ。そのためにチョーアンたちはこの町の奥にある商工会議所町村支所を目指している。そこも数階建ての塔であった。塔の正門には風紀傭兵が検問している。チョーアンが近づくと彼らは身分を証明する者の提示するように求めてきたのでチョーアンとオリガルヒは生徒手帳を提示する。それには風紀傭兵たちも驚いた。
「う、裏番!!! 君らさ……隊商旅団とか利用しないの? 毎月2回だけ、市町村間を往来する1000人以上の大部隊ならば……仮装博徒たちの襲撃にもあまり心配しないでいいのに……」
「そういうのは腕っぷしがあるから大丈夫ぞや」
チョーアンはサムズアップして余裕を見せつける。風紀傭兵は少女たちの身分を立証できたので塔の内部で入ることを許可する。
塔1階には複数の受付窓口がある。ここが町の行政を担っている場所だということだ。チョーアンは特例窓口というカウンターに近づいて女性職員に対して生徒手帳を提示する。女性職員は用件は何ですかと訊いてきたので、チョーアンはプリマス市役執政官からの依頼であり、情報が訊きたいので町役執政官への面会を希望した。
「町役執政官は現在、先客の方が面会中ですので――」
女性職員が少し待つように述べようとしたら別の受付職員が割り込んできて対応する。
「お外で大型仮装博徒を退治してくださった方々ですよね? 町役執政官閣下より心よりお持てなしをしたいと仰られておりまして……さぁさぁ、階段を上がって最上階へ目指してください」
チョーアンは待つつもりであったが、許可されたので階段を上っていく。数階建てなのでのぼるのは大変だったが、なんとか最上階に到達した。最上階に「応接室」と書かれた部屋があり、そこの扉をノックすると、奥から入ってくれと返事があったのでチョーアンたちは入室する。
「れ、レースクィーン!!」
応接室の中では、タキシード姿でリーゼントカットで黒い肌の巨漢の男性と、現世――銀河系社会では競技用自動車のレース場に自社のブランドカーを応援するために水着を模した際どい着衣を纏う職業美人である。それと同じ格好をした女性がその巨漢の男性と談笑を交えている。レースクィーンの女性がこの異世界にいるだけでも違和感があるが、さらに帯剣をしているのだ。
「君がお外で仮装博徒の大軍を始末してくれたんだね? 助かるよ。私は市役執政官によりこの町の治世を預かる行商だ。まず町を代表してお礼を言わせていただく」
町役執政官は頭を下げる。
「いえいえ、娘害は決して大したことはしていないぞや。ただ、閣下に訊きたいことがあって面会を希望したぞや。で、その方は?」
「この方か? この方は……」
「それは当該の役目であります。当該は商工会議所遍歴商会合衆の風紀部副執行役員のサラリー・マンダークであります」
握手を求めてきたのでチョーアンはそれに応じるものの、サラリーという女性の役職を理解できていないのか首を傾げる。そこをオリガルヒが肘打ちをしながら耳元で教える。
「風紀部は商工会議所の軍と警察を兼ねた公的機関ナリ。そこのトップは執行役員。その右腕が副執行役員ナリ。遍歴商会合衆候補の行商ということナリ。恐らく……風紀部の執行役員になれば、遍歴商会合衆の会合遍歴商になれるということだから……。投票権を持つ各地の有力者にあいさつ回りをしていると思うナリ」
オリガルヒの解説で大体、理解できたチョーアンが握手している相手は商工会議所の大物のようだ。
「当該はプリマス市役執政官閣下により、このフェスシーン所管の各町村に兵員と武器の補充を依頼されましてそれに従い、町役執政官と政治単位の商談を交えているでありますよ」
「それは異典翻訳家結社に関連していることでぞやか? 帝国宿舎消費者金融によく金を借りて返済できなくなって債務者として追放される住民も頻発しているのにも……」
「そ、そうなんだよ。私の町でも町民がホテルに泊まりながら賭博に熱中しまくり、持ち金がなければ帝国宿舎消費者金融に借りまくる……。さらにフェスシーン所管の市町村間の往来で毎年以上の想定外に激増した仮装博徒たち……。フェスシーン市……各町村で保有する風紀傭兵の数では対処しきれない……。ゆえに遍歴商会合衆に多くの税収を払うから兵力と武器の補充を願ったわけさ。恐らく……異典翻訳家結社が……現地住民を騙して闇金に手を染めるようにけしかけていると思うんだ……」
異典翻訳家結社が欲するのは傀儡柄増産のために大量消費する材料。材料補填のために無辜の民を騙して債務者へと傾倒させている。
「町役執政官。このお外で異典翻訳家どもが大量に仮装博徒狩りをしていましたぞや。もしかしたら……ここら辺りに奴らの根城があるかもしれないぞや」
町役執政官はチョーアンの指摘に腕を組み、何やら考えている。30秒くらい経過してから口を開く。
「根城か……。この町内にはそんな目星のつきそうな……場所は……」
「隣接都市区域のリバヘブン火山にある風紀部旧坑道基地ではないでありますか?」
サラリーが助言してきた。サラリーにチョーアンは隣接都市区域について解説してくれと求。
「この町は別の所管の自治都市リバヘブン領との市境なんであります。麓のこの町から見える火山はフェスシーン市の所管でないであります。恩恵だけは受けているでありますがね。そこには大昔、リバヘブン市の風紀部が訓練のために火山内部に洞窟を掘って基地化したであります。しかし火山のガスが漏れるから危険なために使用してから半年後に放棄したであります。そこなら異典翻訳家結社が根城に使うかもしれないでありますな」
チョーアンたちが知りたいヒントがついに得れた。あとは駆け足にその火山の坑道を目指すだけだ。しかし町役執政官は慌てて止める。
「フェスシーン市所管のところであればいいんですがね。リバヘブン火山はその名の通り、リバヘブン市所管です。チョーアンさん、オリガルヒさん。あなたがたはあくまでフェスシーン市民として市内各町村の往来に際してとやかく言いません。しかし隣接都市区域には通行手形なしでは勝手に入ってはいけません!!」
「町役執政官。当該がいるではないでありますか♪ 当該が同伴すれば、特許の範囲となります。彼女たちは仮の通行手形を得たようなものなので盟約上の違反にはなりませんであります」
サラリーが特別に認可してくれるのであれば、問題はないようだ。チョーアンとオリガルヒはサラリーにお礼を述べる。こうしてチョーアンたちはサラリーを同伴させて隣接都市区域のリベヘブン火山を目指すのだった。
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町から火山へと続く獣道があった。そこを進んでいくと、道中、仮装博徒の合戦猿蟹たちの襲撃に幾度となく遭遇した。獣道は一応、未曾有の空と海と大地であり私有地なのだ。チョーアンとオリガルヒはサラリーを守るようにして次々と債務者たちを撃退していく。しかし尋常ないほどの仮装博徒の数が多い。これも異典翻訳家結社に騙されて返済不能ほどの債務をかかえた市町村の住民の成れの果てなのだろう。彼らは金品、人身を強奪して完済に向けて必死なのだ。
獣道を進んで数時間後、ようやく火山の山頂に到着した。その時にチョーアンは言葉を失った。
「仮装博徒の大軍勢……。しかも……臼巨頭もかなりの数がいるぞや……」
いくら秘蔵の奥の手があるとはいえ、多勢無勢すぎる。オリガルヒの分析では仇討ちのために仲間意識の強い債務者たちが共同で追加借金し大物に当選したのだろう。
「まるでラストダンジョンぞや!!! さすがに今度は娘害たちが敗北して人身売買されるぞや!!」
チョーアンは後退するしかないと退こうとしたらサラリーは不敵な笑顔のまま前進する。
「サラリー役員!!!! ダメなり!!!!」
「あなたたちは商学校の裏番でありますよね? ここで怖気づいてどーするでありますか? ならば、元裏番の実力を披露してあげるでありあます」
サラリーは火山の火口部へ歩行していくと、火口周辺を包囲していた、仮装博徒の大軍勢が気がついた。美女が近づいてきたのだ。それに対して仮装博徒は下卑た笑みを浮かべて唾液を垂らす。
「こんな上玉……。債券なんて即刻完済できてお釣りがくるぐらいだーーー♪」
「帯剣しているな? 風紀傭兵の手勢か? 正気か? 隊商旅団でも数分足らずで殲滅できる戦力差なんだぞ?」
臼巨頭も数十体はいる。チョーアンもさすがにサラリーを止めようと駆け足で近づこうとする。しかしオリガルヒが背後から彼女のブリーツスカートの裾を引っ張って止める。思わず下着が見えそうになりチョーアンはオリガルヒを怒る。
「何をするぞや!!」
「チョーアンのお姉ぇちゃん。確かレースクィーンって言ったナリね?」
「それがどうしたぞや? 助けに行かないと!!」
「漁村の孤島で育ったお姉ぇちゃんがあの人の異名を知っていたとは驚いたナリよ……」
「え?……」
チョーアンは理解していない。オリガルヒは解説をする。それと同時にサラリーは帯剣から愛する得物を抜き放つ。それは銀光に輝く剣身ではなくて銀色に輝く銀製のバットであった。
「この異世界で大人気のスポーツがあるナリ……。それは市町村間の未曾有の空と海と大地をコースと見立てて複数で上位を競う肉弾戦長距離走。肉弾走者は球技を体術として対面する仮装博徒たちを屠っていくナリ……」
サラリーは正面に向かってきた1体の合戦猿蟹の顔面に銀製バットを叩き込む。すると、その合戦猿蟹はいきなり縮こまり、突如としてどんどん縮まっていく。最後には硬球くらいにまで縮こまって丸まった。文字通り敵胴体急造肉弾。その敵胴体急造肉弾は打ち飛ばされて同胞の群れへと戻っていく。そしたら敵胴体急造肉弾の勢いは現世――銀河系で説明すると、ジャンボジェット機が群衆に突っ込んでいくような威力を仮装博徒たちは味わう。一瞬で仮装博徒たちは吹き飛ばされる。その衝撃波が仮装博徒たちの肉体を木っ端微塵にさせていく。
「その中でもサラリー役員は、肉弾戦長距離走女帝……。肉弾戦長距離走の常勝無敗……。中等部高等部で優勝し続けて……産学部軍学科に進学するときに引退したナリ」
サラリーに次々と仮装博徒の大軍勢が襲いかかる。サラリーはまたもや銀製バットで1体の仮装博徒を殴ると、それが硬球サイズにまで伸縮して肉のボール――敵胴体急造肉弾となり、打ち飛ばされる。飛翔する敵胴体急造肉弾は木槌を振るいかざして猛突進してくる臼巨頭の行列を一直線に爆砕していく。
「チョーアン!!!! オリガルヒちゃん!!! 当該があいつらを陽動しておくから!!! 貴官らは迅速に旧坑道基地まで行ってくれでありますよ!!!」
サラリーに急かされてチョーアンとオリガルヒは彼女にお礼を述べて火口付近にある旧坑道への降り口を目指す。そこまでの道はサラリーが仮装博徒たちを打率100%の猛打から解き放つ豪速球で叩き潰していく。
「元裏番として新米たちの……手助けをしないとね……」
サラリーは仮装博徒の大軍勢に立ち向かうのだった。
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旧坑道基地は放棄されたとはいえ、かなり改築されている。火山ガス用にガスマスクを火山の町で購入したはずが、それも必要としないほどだ。ここまできちんと整備されて維持管理されているということはここが異典翻訳家結社の根城だという可能性が高い。その証拠に奥からピンク色の法衣と三角形の覆面を被った異典翻訳家たちが押し寄せて来る。
異典翻訳家たちは愛用の傀儡柄を振るって大きな蟹のハサミを発射させてくる。オリガルヒは傀儡柄を振るってそれらに迎撃する。タコやイカの触手のように無数の枝が蟹のハサミの弾丸の雨を全て弾き返す。
「商学校産学部校舎だから手加減したけどここじゃ関係ないナリ!!!」
枝の触手の群れは異典翻訳家の進軍を急襲し、胴体や頭部を貫いて事切れさせていく。
「オリガルヒにだけは一任しないぞや!!!」
チョーアンも突撃しながら機動隊体術で身構えて蹴りやパンチを異典翻訳家たちにお見舞いしていく。ある異典翻訳家は頭部を粉砕されて突っ伏して瞬殺される。ある異典翻訳家は脇腹から蹴りを打ち込まれて背骨を複雑骨折した直後に胸部をパンチで穿たれる。蟹のハサミの弾雨を浴びせてきたが、それらをパンチと蹴りの連射で打ち返した後に傀儡柄をパンチで粉砕される。愛用の得物を失ったその異典翻訳家はショックを受けた。しかしそれを悲しむ前に背刀が頭部を側頭部から叩き割られる。
異典翻訳家たちの進軍もあっけなく終焉を迎えた。旧坑道の深奥へ進んでいくと、火口付近のためか道内の熱気も立ち込めて壁や地面が真っ赤に染まっている。それを半減させているのが異典翻訳家結社の恐ろしい改装技術である。
〓〓素材提供元:背景はokimo様
旧坑道の奥地に1人の異典翻訳家が立っている。チョーアンはそいつへ迫撃しようとしたがオリガルヒは彼女のブリーツスカートの裾を引っ掴んで押しとめる。チョーアンは下着が見えないようにブリーツスカートを押さえる。
「何すんぞや!! オリガルヒ!!」
「チョーアン姉ぇちゃん。……危ないよ……近づいたら……恐らく……あいつの罠にはまっていたナリ……」
オリガルヒの注意を盗み聞きした異典翻訳家はいきなり拍手をし始める。
「御名答♪ 正解だ♪ 私は筆者のお眼鏡にかない友情を授かった七書評討議場の末席――ザルヴァートル・コルクング。よくぞ私らの拠点を見つけたな」
「市境の町で仮装博徒狩りをしていたら近くに拠点がある可能性がるぞや!!」
ザルヴァートルはどうやってこの傀儡柄の大倉庫を探し出されたのかは驚いていた。団体の首魁である筆者からくだされた相談は、傀儡柄の大量生産と保管しておくことだった。しかし麓の町で臼巨頭が出現したと緊急報告が入った時には嫌な予感がした。それが的中したのか臼巨頭が大量に混成している仮装博徒の大軍勢に包囲されていた。恐らく麓の仮装博徒たちが他の債務者たちを手引きしていたのだろう。他のアジトへと退避することもできない。彼らに嬲り殺されるか拉致られて物々交換にされるかの2択だ。
「ま、目標生産率100%の内90%は完了して出荷している。オリガルヒ……私は貴様が憎い……筆者から寵愛の友達を申し込まれておいて断るとは……!!! しかも筆者の処女作たる……異典を酷評しておいて……」
それは嫉妬だった。オリガルヒが望むのは彼ら団体の壊滅である。だが、団体の頭目は宿敵オリガルヒに愛情を抱き、最高幹部の地位を約束しているようだった。
ザルヴァートルは傀儡柄を取り出して横に振るう。すると、目の前に小石が2個出現してお互いに頭突きをかます。そしたら傀儡柄の両サイドに兎の耳が生える。
「こいつはこのリバヘブン南部でなんとか捕獲に成功し……完成させた火打石兎よ!!!!」
2個の小石の衝突から火の玉が発生する。その火の玉は飛翔してこちらへと接近してくる。火の玉は勢いを増して急速に炎の玉と化す。オリガルヒは舌打ちして傀儡柄を振るう。トグロを巻く木の杖からいきなり生えた枝が急速に伸びだす。それは触手となって目の前から迫る炎の玉にわざと被弾する。その枝に引火し枝全体に燃え広がる。
「チョーアン姉ぇさん!!! この枝を叩き割って!!!」
「よしきたぞや!!!!」
傀儡柄の本体に火が燃え移つる前に枝の根元を手刀で叩き切る。燃えた長い枝は地面に落ちて焦げていく。
「このままあいつに突っ込んでいったらこの枝みたいになっていたんでぞやね……オリガルヒ……ありがとうぞや♪」
「どうせ、私には逃げ場はないんだ。思う存分、お前らを火刑に処してやろうぞ!!!」
「フェスシーン市の民衆を騙して闇金を借りさせ、追放させて挙句の果てに傀儡柄の材料へと利用しようとは許せないぞや!!!」
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