今日、脈アリなら

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 海の見えるオープンテラスのカフェでデート。なんという夢のシチュエーション。今日はふたりの初めてのデート。  このデートで僕は君の心を探る。僕に脈があるのかないのか。脈があれば今日、告白をするんだ。失敗は出来ない。やり直しはきかないからね。  真美ちゃんの今日の服装を見る。パンツ姿ならただの友達かなと思ったけど、ストライプのワンピース姿。しかも初めて見る服だ。今日のために用意したのかな。気合い入っているんじゃない?  じっと見ていると真美ちゃんが僕の視線に気づいたのかチラッとこちらを見ようとする。急いで目線を反らす。  危ない。こんなに見ていたら告白する前にバレちゃうよ。  メニューを見ながら彼女が定員さんにオーダーを告げる。 「ロイヤルミルクティー」  うん、可愛い飲み物だ。男とふたりでカフェにきてそんな可愛い飲み物を頼むのか。でも真美ちゃんがブラックコーヒーを好きなのも知っているよ。今日は少し可愛いく見せようとした?  これって、やっぱり……。いいや、一回落ち着こう。僕はテーブルの上に置いてある水を一口飲んで緊張した喉を潤す。 「ねぇ、ダイチくん」  甘えた声で上目遣いで真美ちゃんが話しかける。そんな目で見るなんてきっと好きだったりする……? 「そのアイスティー、一口ちょーだい」  ひ……一口!?同じストローから吸うんだよね。それって間接キッ……。いや、あんまり考えすぎるのは止めよう。挙動不審になると怪しまれる。 「おいしいっ」  あー、可愛い。おいしいって言うときの真美ちゃんって本当に可愛い。ずっと見てたいなー。 「そういや、こないだうちの郵便受けに一輪の花が入っていたんだけど……あれってもしかしてダイチくんがくれたの?」  頬を赤らめて嬉しそうに言う彼女。  でも……それは違う。僕は首を横に振る。 「え……違うんだ。じゃあ……誰なんだろう」  急に不安そうな顔になる真美ちゃん。どうしたの? 「ダイチくんにね、相談したいことがあるの」  相談なんて……特別な人にしかしないんじゃないの?なんの相談なんだろうとドキドキしながら聞く。もしかしたら他に好きな人がいて……とかじゃないよね。 「最近、さっきみたいなよくわからないプレゼントや、なんだかつけられてるように感じることがあって……。もしかして……ストーカーじゃないかなって思っていて……」  え……それって……。ストーカーってどういうこと?  僕は驚いて真美ちゃんを凝視する。  真美ちゃんは不安そうな顔。  座っていた席から立って僕は真美ちゃんに近づく。 そして声をかける。 「ねぇ、真美ちゃん。真美ちゃんは僕のことそんな風に思っていたの?」  真美ちゃんは会話をしている向かいの男性から視線を外して右に立った僕を驚いた目で見る。 「ひゃあっ……」  聞いたことのない声を上げて、見たことのない怯えた目で僕を見る。  彼女の向かいに座っているダイチと呼ばれていた男が僕と真美ちゃんの間に割り込み、彼女を自分の背に隠し僕から見えないようにする。 「お前が最近、真美にずっとつきまとっていた男か」  ダイチは吐き捨てるように僕に言う。僕は真美ちゃんに問いかける。 「ねぇ、真美ちゃん。どうして、僕じゃなくてそんな男とデートなんてしているの?そんな男がいいの……?僕じゃ駄目なの……?」  今日は真美ちゃんとこの男が初めてのデートをすると聞いて後をつけてきた。デートしてたってふたりが恋人とは限らないし、もしかしたら僕のことを好きという話が聞けるかもと思って……。  真美ちゃんは男の背中に隠れたまま出てこない。肩口から少し覗く顔は僕を化け物を見るような目で見て、恋心なんて一切感じられない。  あぁ……なんだ。脈なしかぁ……。  脈がないのならじゃあ……。  君の脈自体いらないよね。  僕はポケットにしまっておいたナイフ取り出す。  ダイチの後ろに隠れる真美ちゃんにナイフの切っ先を向けて一気にそこを目掛けて走っていく。  ━━が、真美ちゃんの前に立ちはだかるダイチが僕の腕を掴み、取り押さえられる。  僕は抵抗をする。捕まれた腕を必死に振りほどこうとする。思いっきり力を入れると僕の腕がダイチの手から剥がれた。ただ力を入れていたので僕の腕は思ってたより勢いがついていた。  振り切ったそのままの勢いで手に持ったナイフの刃先が僕の腹の方向へ吸い込まれて行く。 「え……?」  ナイフから手を離して吸い込まれた先を見る。  ナイフが僕の腹に刺さっていた。  僕は呆然とナイフの刺さった腹を眺める。  刺さっているという事実を意識した途端、その箇所が熱く疼いて痛みを伝えてくる。 「痛いっ……痛い……」  痛いから僕はナイフの柄を掴んで腹から引き抜く。でも引き抜いても痛みはそのまま変わらない。その代わりナイフが抜けた穴からはどぷっと血が溢れ出してくる。どんどん流れてきて止まらない。刺さった場所を中心に僕の服がどんどんと赤く染め上げられる。穴を手で抑えてみてもぬるい血の感覚が手に触れるだけで、痛みと熱は増すばかり。  足に力が入らなくて思わず倒れ込んでしまう。  倒れ込んだ視界の先には真美ちゃんが見える。でも、なんだか目が霞んできて、目の前のその風景もぼやけくる。  ━━あぁ、こんなはずじゃなかったのになぁ……。  僕は喉の奥から声を絞り出す。 「待って……お願いもう一度やり直させて……」  僕の中で鳴る心臓の音がゆっくりと音と音との間隔を広げ、段々とその稼働止めていく……。  やがて……。  今日、脈があれば告白をするんだ。  やり直しはきかないからね……。
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