2.誰にも言えない、言っても伝わらない

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 私は大学生になったタイミングで、塾講師のアルバイトを始めていた。教育系の大学で、いずれは教育実習を控えていたから、その練習のつもりだったのだ。  生徒たちと関わり、その親密度が深まっていく中で、踏み込んだ質問も多くなってくる。 「先生って彼氏いるの?」 「いない」 「出来たことあんの?」 「あるけど1ヶ月で別れた。あ、私から振ったんすよ? デート(笑)から帰るバスの中でキスされたから。それがさあ、その日恋愛映画見てきた帰りだったんだけどさ! 影響され過ぎかよって! お前絶対イナズマイレブン観てファイアトルネード練習してた系男子だろwwwww(実話)」  こんな質問は、私にとっては大したものではない。 「先生には、推しとかいるんですか?」  こんな質問の方が、よっぽど私を困らせた。 「うーん、まあ、好きな俳優とかはいるけど……」 「えー! 誰ですか!?」 「いや、言ったって分からんよ……」  フレッシュな俳優や美しい女優や可愛らしいアイドルを想像している生徒に、還暦を過ぎた俳優の名前を出しても分かるはずがなかった。 「俺、結構ドラマとか見るんで、分かると思いますよ」  時たま、そんなことを言う生徒もいる。 「本当?」 「俺も若手より、ベテランのが好きなんで」 「別にそういう訳じゃないんだけど……佐野史郎って人」 「……あー! あの人!」 「え、分かんの?」 「分かりますよ! 毎週テレビ出てるじゃないっすか!」 「え?」 「あれでしょ? 『99人の壁』!」
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