2.誰にも言えない、言っても伝わらない

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 夏期講習も大詰めに迫った、8月末のことである。次の日は私の19歳の誕生日だったが、この調子では生徒と共に迎えることになりそうだった。  授業を終え、ふとスマホを開くと、一通のメールを受信していた。しかし、細い通知に小さく表示されていたのは、知らないアドレスだった。 【From : sanoshiro@……】 (なんだこれ? ……さ、の、し――) (……んんんっ!!?)  一瞬心臓がどきんと跳ね上がった直後、私は思い出した。  一週間前、橘井堂のメールフォームに、佐野さんからのお知らせメールを希望したい旨を書き込んで送ったのだ。 (ははあ、なるほど。もうすぐ9月だもんなあ、来月の予定を送ってくれたってことか……)  指先で画面に触れると、少し通知が膨らんで、タイトルが表示された。 【Subject : ありがとうございました。】 (“ありがとうございました”? ……ああ、メールを希望してくれてってことか?)  本当にそんな気持ちで、軽くメールを開いたのだ。
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