2.誰にも言えない、言っても伝わらない

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 ただ「お知らせメールを希望します」というのも何だか変だなと思って、こんな作品観てました、こんな佐野さんが好きです、これからも頑張ってください、なんて書いて送ったのだ。ただ今思えば、熱く語ってしまったような気もしていた。しかも私は佐野さんの演技の中でも特に悪役が好きなので……などと。  ということは、だ……。 (ちゃんと読んでくれてたってことか!? あんな駄文を!?)  機械的な文章でなく、それに最後の「佐野史郎」が、あまりにも現実味を帯びていて。これが興奮せずにはいられなかった。  きちんと読んだはずなのに、あまりの驚きに全然内容が入ってこない。何度も何度も読み返して、その度に体が熱くなっていくのを感じていた。 (いつも画面の向こうにいる人が、たった一人の何者でもない自分に、こんなコメントを……?)  ――いや、確かにそれも興奮の原因の一つだ。だがそれよりも衝撃的で、私を狂わせたのは…… (ていうか……こんなに、こんなに丁寧な人だったのか! いつも恨まれたり殺されたりする悪役ばっかりなのに! いや、別に演技がその人の本性でないのは分かってるけど、それでも……)  このギャップに、私は感覚を壊されたのだ。  以降テレビで彼の演技や様子を見る度に、あのメールが思い起こされる。そしてその度に巻き起こる興奮は、ますます加速していった。 「これが……“推し”ってやつか!?」  それからというもの、私は推しを隠すことはしなくなった。  この感動を共有せずして、私の興奮は抑えられるはずがなかったのだ。両親にも友達にも、後に入る会社の内定式で人事部に対しても、誰彼構わずに豪語した。 「好きな俳優は、佐野史郎さんです!」
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