1.世にも奇妙な巡り合わせ

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 霧の中を走るタクシー。前を向いたままの運転手はどこか不気味だが、乗り込んだ男は酒の勢いのままに横暴な様子で、そんなことには気が付かない。 「禁煙車です」  煙草を咥えた男に対し、運転手は言い放つ。だが男は、そんなことなどお構いなしに煙草に火をつける。 「暫くの間だ、我慢しろ」  男が優雅に煙を吐き出すと、運転手は言った。 「お医者さんですか?」 「なんで分かった?」  男は運転手を一瞥すると、何処か嬉しそうに口角を上げてから言った。 「私から、苦労が滲み出ているからか?」 「なんだ、この役者は……」  それが、私が彼を見て初めて放った言葉だった。
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