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霧の中を走るタクシー。前を向いたままの運転手はどこか不気味だが、乗り込んだ男は酒の勢いのままに横暴な様子で、そんなことには気が付かない。
「禁煙車です」
煙草を咥えた男に対し、運転手は言い放つ。だが男は、そんなことなどお構いなしに煙草に火をつける。
「暫くの間だ、我慢しろ」
男が優雅に煙を吐き出すと、運転手は言った。
「お医者さんですか?」
「なんで分かった?」
男は運転手を一瞥すると、何処か嬉しそうに口角を上げてから言った。
「私から、苦労が滲み出ているからか?」
「なんだ、この役者は……」
それが、私が彼を見て初めて放った言葉だった。
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